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二三三話

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「で? ここから何をしようと言うのかしら?」
「まぁ、見てなって」

 セレス先生からの歴史の講義も終わったところで、次の工程へ。
 俺がクラフトボックスへとアクセスすると、何時ものように視界内にARウインドウが浮かび上がり、そこにクラフトボックス内のインベントリに収納されているアイテムの一覧と、それらから作られるアイテムの一覧が、横並びに表示された。

 ちなみにだが、講義が思ったり長かったので、黒騎士にはツタだけでなくエテナイトが切り倒した低木も、まとめてクラフトボックスの中に放り込ませていた。
 低木は、そのまま木材として利用するには、よくて薪にするしか使い道がない程度の物であったが、クラフトボックスで加工する分には十分な価値があるのだ。
 というか、こっちが本命なんだけどな。むしろ、ツタの方がおまけなのだ。

 そんなわけで、今、クラフトボックス内には材料となるアイテムが二種類、ツタと木材が収納されていた。
 で、この二つから作り出される加工先のアイテムはというと、ロープと板の二つである。

 言わずもがなだが、ロープの材料がツタであり、板の材料が低木である。

 俺の計画としては、この低木を原材料に板を作り、それを屋根の素材にしよう、と考えていたわけだ。
 ロープの方は、今後の作業で必要になってくるので、ついでに作ってしまうことにした。

 わざわざツタからロープを作るらずとも、ロープそのものを所持していたり、ロープの材料になる物を持っていたりと、手持ちの素材で十分事足りてはいたのだが、使える物があるなら何でも使おうという勿体ない精神である。
 俗に、貧乏性ともいう。

 そんなわけで、まず俺はその二つの選択肢からロープを選択し、制作を実行。
 すると、一秒に一個程度のスピードでツタを原材料にロープ(10メートル)が次々と作られ始めていった。

 で、だ。
 結構な数のロープが出来そうだったので、この出来上がったロープ(10メートル)を、更に三つ使って合成し、強化ロープを制作する。
 文字通り、普通のロープの強化版で、より頑丈になったロープだ。
 こちらは制作に一〇秒程の時間を必要とした。

 余談だが、この強化ロープは捕縛縄ほばくじょうの製造アイテムにもなっている。
 強化ロープと、バインド系の行動阻害効果を持つ魔術スクロールを合成したのが捕縛縄なのである。

 俺は出来上がった強化ロープ(10メートル)をクラフトボックス内のインベントリから一つ取り出すと、それをセレスに見える様に差し出した。

「今、集めていたツタから生成したロープだ。
 とまぁ、こういうことが出来るってことだな」
「……少し良いかしら?」
「どうぞ」

 セレスがそう言って手を伸ばして来たので、そのまま渡す。
 すると、セレスは手にしたロープを両手で持って、めつすがめつ観察を始めた。
 そして、今度は強度を確かめるようにバインバインっ! と、力強く引っ張り出した。
 とはいえ、一〇代の女の子の力だ。大した負荷が掛かっているようにも見えないし、実際、強化ロープもビクともしていなかった。

 それもそのはず。
 確か、素のローブでさえ耐荷重が200キログラムあり、そりが強化ロープに至っては1000キログラム、つまり1トンもあるのだ。
 これはもうセレスがというか、人がどうこう出来なくて強度ではない。
  
「いくつか質問をしても?」

 その後、何度か折り曲げたり引っ張ったりと、暫くロープを弄り倒してから、セレスがそんなことを言って来た。

「どうぞ。まぁ、俺が答えられることなら、だけどな」
「これって、今、そこから引っこ抜いたツタが材料なのよね?」
「そうだな」
「……ロープって、結構作るのが大変でね。まず、繊維が丈夫で加工しやすい植物じゃないと、まともなロープは作れないのよ。
 繊維が丈夫でも、植物自体が短いと長く作るのが大変になるからダメ。
 長くても、繊維が丈夫でなければすぐに切れてしまうからダメ。 
 何でもでいい、ってことじゃないわけ」

 分かるでしょ? と言わんばかりに、俺の顔を覗き込んでセレスがそんなことを言う。

「……そうだな」

 結構な圧に、同意しておく。まぁ、分からん話しでもないしな。

「でね、今、スグミが材料にしたっていうツタだけど……
 あれ、成長は早いけど中身がスカスカで凄く柔らかい品種なの。それこそ、私の力でも簡単に千切れてしまうくらいにね」

 そう言うと、セレスは近くに落ちいてたツタを一本拾い上げると、いとも簡単にブチっと引きちぎって見せたのだった。

「それが、なに?」

 更にセレスはそう言葉を続けると、俺の目の前でもう一度ロープを力いっぱい引っ張り、バインっとさせた。

「これよ? そもそも、あの植物からは、こんな頑丈な繊維は取れないわ。
 このロープには、素材にした元の植物の特性が一切残っていないのよ。もうこんなの別の植物じゃない。しかも、さっきまで生えてた素材を使ってるはずなのに、確り乾燥しているし……
 これは、どいうことかしら?」
「いや……そんなこと言われてもな……」

 無表情でにじり寄るセレスから距離を取りつつ、そう答える。というか、そう答えるしかないのだ。
 指定された素材を入れたら、加工品になって出て来る。クラフトボックスとはそういうアイテムなのだから。

「元々、この箱の中にはこのロープが入っていて、私を謀っているとか?」

 ギロっと、セレスの鋭い視線が俺を射る。

「いや、それはないない、流石にない」

 疑惑の目を払拭するように、全力で否定する。
 そもそも、ここでセレスを騙して何になるというか……

「だったら、納得のいく説明を求めるわっ! こんなの、世の摂理に反するものっ!」

 と、鼻息を荒くするセレスだが、さて、なんと説明すればいいものか……困った。

 ゲームシステム的な話をするなら、クラフトボックスで行っているのはアイテムの置換である。
 ぶっちゃけ、指定されたアイテムと、交換先のアイテムをデータ的に取り換えているだけなので、用意した素材と変換後の素材に関連性がないのはその通りなのだ。
 なので、セレスの言う「別の素材」というの概ね正しいことになる。
 
 しかし、それをここで話しても意味はないし、そもそも、理解されるとも思えない。
 ましてや、現実となった今、それが正しいのかも分からないのだ。

「まず白状しておくが、この箱自体は俺が作ったものじゃないんだよ。だから、俺にもそれ以上の詳しい説明は出来ないんだ。悪いな」

 で、結局こう話すしかなかった。詳しく、といわれても、そんなん俺だって知りたいわ。
 クラフトボックスはプレイヤーが制作することの出来ない特殊アイテムの一つで、そもそもは、ゲームスタート時に運営から支給される初期アイテムだからな。
 しかも、1アカウントにつき、一個しか支給されない結構貴重なアイテムだったりする。

「なら、作った奴を呼んで来てっ! 問い詰めるからっ!」
「……出来るわきゃないだろ? 俺がどうやってこの国に来たと思ってやがる?
 それが出来るなら、俺はとうに自分の国に帰れていることになるのだが?」
「むむむむむ……」

 俺の返答に唸るセレスだが、返す言葉が思いつかなかったのかそのまま黙ってしまった。

 その後。
 ツタを使い切ったので、強化ロープの制作は終了。
 次いで、本題である屋根用の板の制作に取り掛かることにした。
 板の方は強化ロープより更に時間が必要で、一つ作るのに約二〇秒程を必要とした。

 ただ……

 細い低木を素材に、長さが1メートル、幅30センチメートル、厚み3センチメートルという、立派な一枚板がクラフトボックスから出て来たのを見るや、セレスがまた、摂理に反する、だとか、理屈が通らない、だとか、散々ぼやきながら、クラフトボックスへと齧り付いてしまったのだった……

「ねぇ? スグミ。これバラしていい?」
「いいわきゃないだろ……」

 と、終いにはクラフトボックスを解体しようとする始末……
 好奇心が旺盛なのも結構だが、ほどほどにな。

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