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二二八話

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「次に、スグミ殿に発行する金級自由騎士証についてだが……これに関しては、少し時間を頂きたい」

 話しが一段落したところで、今度はラルグスさんがそう話題を切り出し、説明を始めた。
 何でも、まずは金級となる上で必要な推薦状を、ブルック、セレス、そしてジュリエットの三人分用意するのに、そこそこの時間が必要であること。

 金級自由騎士ともなると、その資格一つで準貴族扱いになるらしいので、いろいろな書類を揃える必要があるのだという。
 まぁ、更に俺の場合は、セレスの遺跡調査限定という条件付き推薦なこともあり、余計に用意する書類が多いらしい。

 ちなみに、貴族扱い、といっても所詮はなので、俺に何か特権が与えられたり貴族としての義務が発生したりすることはない。
 要は、名誉市民的なものだな。
 また、特例での認定のため、他の金級自由騎士が行っているような名義貸しのような副業も禁止だと言われた。
 
 まぁ、別にする気も無かったからどうでもいいといえばどうでもいい話しだ。

 で、このことについては、既に昨日の段階でジュリエットには話は通している、とのことだった。
 ジュリエットからも、未確認の超大型魔獣の討伐ともなれば前代未聞の功績だとして、十二る水準に達している、とお墨付きをもらっているのだとか。
  
 逆に、これで推薦が出来なければ、金級自由騎士になれる者は、この世からはいなくなってしまう、とまでいっていたらしい。
 ただし、それが本当の話しであれば、と一言釘は刺されたようだがな。
 そりゃそうだ。
 超大型の魔獣を倒しました、と口で言うのは簡単だが、そんなこと、証拠が無ければ誰も信じはしないだろう。
 よくある酒場での与太話程度に流されて終わりだ。
 
 しかも、それが金級自由騎士への推薦理由だとすれば、俺にはより一層、周囲にそれが分かる形で証明する必要があった。
 何の証明もなく、組合側の認可によってのみ、俺が金級自由騎士にでもなろうものなら、周囲から不正を疑われるのは明らかだからな。

 過去に、無能な金級騎士を量産した前科もあることを考えれば尚更だ。

 そこで効果的なのが、プレセアが言い出した“お披露目式”である。

 ベルへモスの発見自体が大発見であるうえ、討伐までしたのだから、その亡骸を有力な関係者、また大衆を集めたその前でドカンと披露する。
 その時、俺がベルへモスを亜空間倉庫から取り出すことでその証明としよう、というのが、ラルグスさんからの大まかな提案であった。

 で、ついでにマキナバハムートを隣にでも置いておけば、より信憑性も増すだろう、とも言っていた。

 そして、そこで合わせて俺の金級自由騎士への承認式も行う、とそういうことらしい。

 余談だが、推薦状を三枚集めたあとに受ける、金級自由騎士になるための試験だが、逆賊ギュンターを捕らえたことと、今回のベルへモス討伐、そしてその素材を王国に寄付することを条件に、推薦前ではあるが、事前に特例として免除となる運びとなっていた。

 昨日、帰路の途中でその話しをしていたからな。
 つまり、俺の場合、推薦状が三枚集まった時点で金級自由騎士昇格が決定する状態になっている、というわけだ。
 これはかなり珍しいことらしく、ノールデン王国の歴史の中でも、試験免除になったのは十数人くらいしかいないらしい。
 まぁ、そもそも金級自由騎士というのが、準貴族扱いなわけで、言ってしまえば国家公務員のような立ち位置にいるわけだ。
 
 金級自由騎士承認試験も、実力の確認、というよりは“で、お前。この国の為に働けんの?”という、言わば忠誠心の様なものを問う試験なのである。
 実力云々というなら、推薦を受けた時点でもう証明されているようなものだからな。

 俺に忠誠心があるかどうかは別として、少なくともこの国に仇なすつもりはなく、また新種……かもしれない魔獣の貴重な素材を、無償で提供することで信用買いしてもらった、というところだ。

 ちなみに、ベルへモス素材についてはすべてを寄付するのではなく、三分の一は俺の取り分として確保していた。
 俺にとってもベルへモスは未知の素材なので、自分の手で調べてみたい、という思いもあったからな。
 元が俺からの提供ということもあって、この要望はすんなりと通った。
 もしかしたら、あれから何か面白い物でも作れるかもしれないので、詳しく調べるのが今から少し楽しみだったりする。

「まぁ、なんにしても、ですね。俺は認可を受ける側の人間なので、ラルグスさんが良いと思うようにやって頂ければ結構ですよ」
「……そうか。分かった。ではその様に処理しよう」

 ん? 今、何かラルグスさんの目が怪しく光ったような気がしたが……まぁ、気のせいだな。

 ということで、この話しはこれで一段落。
 で、流れで今後のベルへモスの扱いについて、大まかなことを話し合うことになった。

 お披露目式、とはいっても適当な所でやればいい、というわけにもいかないので、その後のことも考え、調査、解体用の施設を作ったあと、そこで式も執り行うのが妥当だろう、という話しになった。

 ラルグスさんの見積もりでは、場所の選定、施設の建設、それら諸々が終わるのに大体三〇日……一ヶ月くらいを想定しているとのことだった。
 当然、その間俺は特にすることもないので、それまでは暇を持て余すことになりそうだ。
 まぁ、暇つぶしにまた自由騎士組合で塩漬けになっている依頼を消化して行ってもいいけど……そういえば、城壁やら街壁の工事もまだ途中だったしな……
 あっ、それなら俺がベルへモス解体施設の工事を手伝えば、もう少し早く終わるんじゃなかろうか?

 これについては、もう少し話が固まった来た頃に、ラルグスさんに相談してみることにしよう。

 で、最後にラルグスさんから一つ、注意事項が告げられた。

「此度のベルへモスの進路が、王国に向かっていたことは他言無用としたい」

 ということだった。
 要は、吹聴して回るなよ、ということだ。
 俺としては、言うなと言われれば黙っているが、一応、理由を尋ねたらラルグスさんが渋い顔をして説明してくれた。

 なんでも、貴族にも色々とあるらしい。

 仮に、ベルへモスがノールデン王国を目指していて、それを俺が阻止したとなれば、ある意味、俺は救国の英雄、ということになる。
 金級自由騎士は貴族扱いとはいえ、あくまで準であり、そこに特権や権力はない。
 とはいえ、だ。こと多大な功績を以て金級自由騎士に承認されれば、その影響力は決して少なくない。

 それが、英雄視されるほどの行いであれば、それこそ、下級、中級貴族に匹敵するか、あるいは凌駕してしまうほどの影響力を持つことになる。

 突然出て来たぽっとでの庶民が、何かよく分からないうちに自分達の上に行く。下級、中級貴族からしたら、こんな面白くない話もない。

 ならばどうするか? 簡単なことだ。あの手この手を以て、妨害工作が行われる、というわけだ。
 特に、今回の場合、実際に王国内に被害は出ていないので、“国内での被害を未然に防いだ”ことを理由に金級自由騎士に承認しても、“本当にそうなのか?”と難癖を付けられるのは目に見えていた。
 
 つまり、だ。
 何もしなくても、勝手に何処かに行ったのではないか? とか、そもそもノールデン王国に向かっていたというのが、嘘なのではないか? とか、反対派に付け入る隙が多々あるような状態になってしまう、ということだ。

 国としても、変な波風は立てたくない。
 ならば、無理をして見えている地雷を踏みに行くより、“新種の超大魔獣を討伐した”というこの事実一点のみを押して、認証してしまう方がリスクが少ない、とそういう考えになったらしい。

 別に俺だって英雄なんぞなるつもりはないので、ラルグスさんの提案にそのまま乗っかることにした。
 変な奴らに目を付けられるのも勘弁だしな……

「ホント、たかだか木っ端貴族如きが、その頭髪並みに薄いちんけなプライドのために、いちいち口を挟むんじゃねぇ、と言いたいですわ。ナニの小さい殿方は器まで小さくて困ります」
「陛下、お言葉が乱れておりますよ」
「これは失礼」

 んん? この子、なんかトンデモな事を口走って……

 と、丁度その、正午を告げる鐘の音が王宮に響いたのだった。 
 
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