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二二三話
しおりを挟む激しい閃光と轟音が木霊して、地形すら変える一撃がベルへモス(仮)の大きく広げられた口へと放たれる。
今回は、貫通力を優先した最大収束での一撃だ。
龍滅咆のフルチャージ射撃には、三形態の射撃スタイルがあり、一つ目はスタンダード。
これは、ベルへモス(仮)に初めて放った時のもので、威力・範囲のバランスが優れたモードだ。
二つ目が、クラスター。
これは一本のビームを放つのではなく、いくつも枝分かれさせ、広い範囲を攻撃出来るモードとなる。
散弾させるため、一発当たりの攻撃力は落ちるが、その分、範囲は絶大だ。
そして最後が三つ目、ブラスト。
クラスターとは真逆で、攻撃範囲を極限まで絞り、攻撃力を一点へと収束させたモードだ。
三形態の中では断トツの攻撃力を誇る。が、攻撃範囲が元のサイズから考えると最早、点、のレベルなので、当てるのはかなり難しくなる。
で、今放ったのが、その三つ目のブラストモードだった。
遠かったり動いたりしている的に当てるには、相応の当て感がいるが、これだけ近ければ、むしろはずす方が難しいというものだ。
そんな一撃を、“拒絶の壁”を失ったベルへモス(仮)に耐えられるはずもなく……
龍滅咆の閃光が収まると、口から背後にかけてぽっかりと穴を開けているベルへモス(仮)の姿がそこにあった。
ただ……
「嘘……」
「あの状態でも、まだ生きているというのかっ……」
そんな状態でもまだ意識があるのか、ベルへモス(仮)は力無くではあったが、未だにその四本の足で立っていたのだった。
その姿に、セリカとセレスが驚愕したようなに声を上げていた。
まぁ、かくいう俺も驚いたけどな。
いくらタフだといっても、ほどがあるだろ……
そして、ヨロヨロとではあったが、それでも前へと歩みだそうとして……
ズドンっ!
と、轟音を立ててベルへモス(仮)はその場へと崩れ落ちた。
暫し様子を見ていたが、それきりピクリとも動かなくなった。おそらく、絶命したのたのだろう。
確認の為にパラボラバードで反応を確認すると、確かにベルへモス(仮)から魔力反応が消失していた。
「はぁ~……ようやく終わったか……」
それを確認し、俺は大きくため息を吐きつつ、肩から力が抜けるのを感じた。
なんか、マジで疲れたな……
「死んだ……のか?」
「ああ。魔力反応は完全に消えてるからな。俺の勝ちだ」
椅子に項垂れる俺に、セリカがそう聞いて来たので、簡単に答える。
にしても、なんだこの疲労感は?
まぁ、色々とあったが、実質俺はずっと椅子に座っていただけなのに、全身にとんでもない気だるさを感じるのだ。
確かに肉体的な疲労はある……だが、そういうものとも違う気がする。
何というか……残業で徹夜してそのまま翌日出勤した日、くらい疲れたからな。
精神的疲労、とでもいうのか?
もしかして、大量のMPを使った弊害、とかだろうか?
MPとは、メンタルストレングスポイント、つまり精神力のことだ。
異世界に来てから、ここまで派手に精神力を使ったことはなかったからな。
マジでギリのギリまでMPを使わさせられたのは今回が初だ。
となれば、精神に大きな負荷を受けた、というその可能性は十分にあるのではないだろうか?
なんて、そんなことより撤収の準備だな。
まずは討伐が完了したことを、ラルグスさんと女王様に報告して……
と、そんなことを考えていたら、ポンっという音と共に目の前にARウインドウが表示された。
ん、なんだ?
『スキル【巨版殺し】が適用されました。取得経験値に10000%アップのボーナスが加算されます』
で、次いでピコンピコンピコンピコンピコンピコンっと、立て続けにレベルアップの音が猛烈な勢いで鳴り響いたのだった。
「うおっ!」
「どうした?」
「いや、何でもない……」
突然鳴り出したレベルアップ音に、ついびっくりして声を上げてしまった俺に、セリカがそう声を掛けて来た。
俺は適当にはぐらかしたが、当然だがこの音は俺にしか聞こえていないんだよな……
にしても……
一体、何レベル上がったんだ?
今回のレベルアップ対象はまず間違いなく【傀儡操作】だろう。それしか使ってないからな。
だが、俺の【傀儡操作】のレベルは現在583だ。
これは、そこらのボスモンスターをいくら狩り倒したとしても、もう殆どレベルアップしない極地である。
余談だが、『アンリミ』で最も強いとされるボス、ワールドボスは、倒しても経験値にならない特殊仕様なので、ワールドボスでレベリングは出来ない仕様になっている。
なので、レベリングをする時は地道にエリアボスや、ダンジョンボスをこつこつ倒す必要があるのだ。
それが立て続けにレベルアップするなんて……
いくら【巨版殺し】の恩恵があるとしても、ベルへモス(仮)の元の経験値っていったいいくつだったんだ?
ちなみに、【巨版殺し】とは、俺が持っている特殊スキルの一つで、効果はモンスターを倒した際に得られる経験値に、ボーナスが上乗せされる、というものだ。
一見、非常に便利そうなスキルにも思えるが、実際のところはそうでもない。
実は、このスキルは普通に遊んでいたらまったく役に立たないスキルなのだ。
というのも、スキルの発動条件が非常に厳しく、まずモンスターがボス判定であること、次いで、自分の総合ステータスと倒した相手の総合ステータスの差が一万を超えていること、の二点の要素を満たす必要があった。
ボスはそうでもないが、後者の総合ステータス差一万の条件を満たすのは、普通にプレイしていては、それはもぉ難易度が高いとかそういうレベルではなく、ほぼ無理といってもいいレベルで大変なのだ。
要は、ステータス一桁で10000オーバーを倒せと言っているようなものなので、それはもう無理ゲーである。
実用レベルで役立てられるのなんて、俺みたいな変則スタイルで遊んでいる人間くらいなものだ。
ちなみに、上乗せされる量は、ステータスの差によって変動し、最大は10000%、つまり一〇〇倍である。
効果的には、同じ特殊スキルに分類されている【蟷螂之斧】と非常に似ており、ぶっちゃけ、【蟷螂之斧】の経験値アップ版のようなものだ。
俺が【傀儡操作】のレベルを583まで上げられたのって、ぶっちゃけ、こいつのおかげってところがあるからな。
単純に、他の人より一〇〇倍経験値が入るのだ。その恩恵は計り知れないものがある。
見ようによっては、経験値チートと罵られそうなレベルだ。
だが、このスキルを用意したのは運営なので、文句があるなら是非、運営に突撃してどうぞ。
余談だが、この【巨人殺し】を使ってお手軽レベリングが出来る、など思ってはいけない。
【巨人殺し】の条件を満たすためには、少なくとも自身が低ステータスでもボスを倒せるような、高レベルのスキルが必要となる。
それが俺の場合は【傀儡操作】ということだ。
【巨人殺し】、そして、敵を倒せるような高レベルスキルを用意しないといけない、ということを考えると、普通にモンスター殴ってレベルを上げていた方がずっと楽だ。
【巨人殺し】が効果を発揮するのは、自身がかなり育った後も後。
いわば、【巨人殺し】は超大器晩成型スキルなのである。
そういえば、総合ステータスの差が一万超え、ということなら、以前エルフの村で赤鎧ことアーマジロを倒したことがあったが、あいつはどうやらボス判定ではなかったらしく【巨版殺し】の対象外で発動しなかったんだよな。
なんてことはさておき。
ピコンピコンとレベルアップの音が止まったところで、【傀儡操作】のレベルを確認してみると……
おっ、おお……614……つまり、一気に31も上昇したってのか? マジか……
で、だ。
それだけでも驚きだったのだが、ここでもう一つ驚きのことが起きた。
【【傀儡操作】のレベルが600を超えたので、EXスキル2【一機入魂】が解放されました】
という、ARウインドウが表示されたのだ。
は? EXスキルの2だと?
EXスキル。
それは、簡単にいえばそのスキルの“奥義”の様なものである。
俺が良く使っている【銘切り】と【潜在開放】は、スキル【鍛冶師】のEXスキルである。
で、そのEXスキルの解放条件だが……
それはスキルレベルが400に達すること、だ。
ちなみに、【傀儡操作】のEXスキルは【制御MP効率化】という、【傀儡操作】を使用する際の消費MPを低減する、という地味~なものである。
しかし、EXスキル2ってのは何だ?
EXスキルは、一つのスキルに対して一つだけだと思っていたが……
少なくとも、二つ目がある、なんて話は聞いたことはない。
ただ、俺が知る限りではスキルレベルが600を超えた奴が居なかったから、知られていなかった、という可能性はあると思う。
一つの壁である400を超えることは出来ても、500を超えるのはかなり大変なことだからな。
それが600ともなれば……である。
俺はまぁ、【巨版殺し】を手に入れてからは、おかげで割とサクっと上がっては来たが、それまでの道のりを考えればトントンか、むしろ少し大変なくらいだと思う。
にしても、だ。
仮に600でEXスキル2が解放されたとなると、もしかしたら700や800でもEXスキル3やEXスキル4なんてのが解放されたりするんだろうか?
いや、400と600で考えるなら200きざみか?
なんにしろ、ちょっと興味が湧くよな……
「スグミ? 急に黙ってどうした? 体調でも悪いのか?」
っと、そんなことを考えて黙りこくっていたらセリカに心配そうに声を掛けられてしまった。
EXスキル2【一機入魂】……気にはなるが、諸々の調査は取り敢えず後回しだな。
「いや、なんでもない。
それじゃあ早速、王女様達への報告といきますか。まぁ、向こうも今のは“鏡”で見ていただろうけどさ」
「そうだな。では、報告の方は私が行っておこう。
スグミ、お前は少し休んでいるといい」
「それじゃあお言葉に甘えて」
なんだかんだで精神的に疲労困憊なので、ここはセリカからの申し出に素直に甘えさせてもらうことにした。
「ねぇ、スグミ。疲れているところ悪いけど、私を外に出すことって出来るかしら?」
で、セリカの話しが終わったところで今度はセレスがそんなことを言い出した。
おそらく、ベルへモス(仮)の調査がしたいのだろう。
「分かった。今、降りられるようにしてやるよ」
ということで、仁王立ちしていたドラグバハムートを屈ませ、両腕を大地に突き、膝立ちの姿勢にし駐機姿勢を取る。
それは宛ら、短距離の陸上選手がスタート前にするポーズ、クラウチングスタートの前段階のような姿に見えないこともない。
尻を上げる前の、あの姿勢だ。
実は、こうでもしないと、ドラグバハムートは倒れてしまうからな。
マキナバハムートの時は、四つ足で体を支えているので安定しているが、ドラグバハムートだと二足で立っているので、非常に不安定な状態でとなっていた。
それこそ、二足で立っている状態では、常に俺が細かに制御していないと、自立することすら難しいほどなのだ。
普段は感じないだろうが、二足で自立させる、ってのは、さり気に無茶苦茶難しいことなのである。
そんなわけで、駐機姿勢もとり、機体が安定したところで俺は席を立ち背後に回り、腰を落としてセレスのハーネスを解除する。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そんなことをしている隣では、早速セリカが報告をしている様で話し声が聞こえて来た。
ラルグスさん達に報告をしているのだろうが、こちらにコールが届いていないということは、俺を省いて直接話しているのだろう。
セレスを見ても、彼女が話しに加わっている様子もないので、彼女にもコールは届いてはいないらしい。
俺達に聞かれたくない話をしている、というよりは、事務的なことはこちらでする、というセリカなりの気遣いなのだろう。
なら、その気遣いに全乗っかりして、そっちはセリカに丸投げすることにした。
何か個別に聞きたいことがあれば、コールが掛かって来るだろうしな。
それじゃ、とセレスを連れて外に出ようかと、すっと立ち上がった瞬間。
世界がグルリと回って一転し、暗転する。
な、なんだ!?
そして、何処か遠くで、ドサっと何か重い物が倒れる様な音と、誰かが俺の名を呼ぶ微かな声が聞こえた……ような気がした……
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