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一一二話
しおりを挟むなんて、わいわいがやがや歩いているうちに、目的の場所へと辿り着いた。
「おっ、ここは随分開けているんだな」
そこは辺り一帯、木が切り倒され開けた空間が広がっていた。
前方には岩が剥き出しになった崖があり、そこに支保に支えられた坑道への入り口らしきものが一つ見えた。
らしきもの、というのも、そこには大きな石が詰められ封鎖されていたからだ。
ちなみに、支保とは坑道やトンネルが崩落しないように支える構造物をいう。
ゲームや漫画なんかで、鉱山の入り口なんかによく見る鳥居型をしたアレだな。
「ここまで来ておいて言うのもあれだが、この鉱脈から銀が採掘されていたのは随分昔の話しだぞ? 今更、採掘したところで碌なもんが出るとは思えねぇんだが?」
現場に着いたところで、ヨームが本当に今更なことを言う。
「まったく問題ない。それに、俺は採掘をしに来たわけでもないしな」
「は? なら、何しに来たって言うんだよ?」
「ボタ拾いだよ」
ボタ、もしくはボタ石とは、鉱石などを採掘する際に出る、目的の物を含んでいない捨て石のことだ。
こういう捨て石は、採掘をしていれば必ず出るもので、価値が無い為、採掘現場の近くに捨てられることが多い。
そうして作られた捨て石の山を、通称・ボタ山と呼ぶ。
俺の目的は、このボタ山だった。
さて、目当ての物はっと……
早速周囲をざっと見渡すと、それは直ぐに見つかった。
適当に積まれた石の山が一つ、二つ……おっ、結構あるな。
「おっ、あったあった。ボタ山だ」
「あっ、おい! 捨て石なんて拾ってどうするつもりだ?」
そう言うヨームを置き去りにして、俺は早速ボタ山へと近づくと、その場でしゃがみ込んで詰まれていた拳大の石をいくつか手に取った。
スキル【材質鑑定】で確認したところ、その多くがただの石だったが、中には僅かばかりの銀を含んだ銀鉱石も交じっているようだった。
比率としては、大体、一〇個手に取れば、その中の一、二個は品質1か2という超低品質ながらも、それでも間違いなく銀鉱石だった。
品質は低いが、この堆く積まれた山の一、二割が銀鉱石だと考えれば、俺に取っては十分過ぎる量だった。
「やっぱりな……」
「何が、やっぱり、なんですか?」
俺の後を着いて来ていたソアラが、俺の肩越しにそんなことを聞いて来る。
「ああ。数は少ないし品質も低いが、間違いなくこの山には銀鉱石が混じってるみたいだ」
そう言って、俺は立ち上がると、手にしていた品質1の銀鉱石をソアラに手渡した。
ちなみに、銀は自然界では銀単体で存在していることは殆どなく、その多くが黒く変色した硫化銀という、硫黄と化合した硫化鉱物として存在している。
また、こうした銀鉱石は輝銀鉱と呼ばれこともある。
「ボタ石とは言っても、たまにこうして含有率の低い鉱石も一緒に捨てられてしまうことがあるんだよ」
それに、エルフの村を一通り見て回って不思議に思ったんだが、昔、銀を採掘していたというわりに、それを精錬する施設がまったく見当たらなかった。
多分、これは銀鉱石を加工などせず、そのまま現物で取引していた為だろう。
なら、含有率の低い鉱石は値が付かないと、一緒に捨てられているんじゃないかと読んで来たんだが……思った通りだった、ということをソアラ達に説明した。
「で、どうすんだよ? この中からお目当ての銀鉱石を探すってのか?」
と、今度はヨームが近寄って来て、そう聞いて来た。
「まさか。そんなことをしてたら時間がいくらあっても足りねぇよ」
大事なのは、このボタ山の中に銀鉱石が混じっている、という事実だ。それだけ確認出来れば十分だった。
俺は一旦ボタ山から離れ、適当に平坦な場所を探す。
「まっ、この辺かな……」
と、そこに亜空間倉庫からある設備を取り出してドカンと設置する。
「これはまた……随分とデカいモンを出したな……で、何だこりゃ?」
昨日の今日でもう見慣れてしまったのか、ヨームの奴、俺が亜空間倉庫から物を出しても大して驚きもしなかった。
まぁ、それはいいとして。
「簡単に言えば溶鉱炉だな。正式名称は、魔術加熱型鉱石溶解高温炉。略して魔鉱炉だ」
魔鉱炉のサイズは大体、縦横1.5メートルの奥行2メートルと、結構なサイズがある。
ちなみに、この魔鉱炉も俺のお手製で、通常の炉との違いは燃料を一切必要としないお財布に非常に優しい設計だということだ。
通常の炉の場合、加熱の為に石炭やコークスなどを自分で採掘するか買うかして用意しないといけないのだが、これが結構な量を食うのだ。
しかし、この魔鉱炉はMPを燃料として稼働しているので、そういった燃料費が一切必要ないのである。
まぁ、素敵!
「いちいち選別してたんじゃキリがないからな。とにかく、手当たり次第にボタ山の石を炉に放り込んで、後でまとめて精製するのさ」
俺はそう答えると、手にしていた石を纏めて魔鉱炉の中に放り込んだ。
魔鉱炉に石を入れてさえしまえば、後は中で勝手にソートされるので、わざわざ一つ一つ選別して銀鉱石だけを炉に入れる必要はないのだ。
大量に投入した後、あれ? 銀鉱石ないじゃん! という悲劇を回避する為に、事前に銀鉱石があるかどうかだけ確認していた、というわけだ。
まさか、またまた手にした銀鉱石があの山のすべてだった、なんてことはあるまいよ。
で、ある程度放り込んだら、その中から銀鉱石を選択して精錬すれば、はい、銀塊の出来上がり、という寸法だ。
「私、お手伝いするよっ!」
と、元気よく手を上げて名乗りを上げるアイラちゃんに、ありがとうね、とお礼を言って頭を撫でる。
「私も手伝います。特にやることもないですからね」
「おう、がんばれや」
「……なんでアイラとあからさまに態度が違うんですか?」
「なんだ? 子ども扱いして欲しいのか? 頭なでなでしてやろうか?」
「結構ですっ!」
なんてプンスコするソアラを、内心微笑ましく思いながら、俺は注意事項を告げるために言葉を続けた。
「ただし、ボタ山から直接石を拾うのは禁止だ。
崩れでもしたら大惨事だからな。そこは俺がやるから、絶対に山には近づかないように」
もし崩れた時のことも考慮して、わざわざ少し離れた場所に魔鉱炉を設置したわけだしな。
それと、作業中、作業後関係なしに、暫くは絶対にボタ山には近づかないように言及しておく。
今のボタ山は、長い年月を掛けて安定した形に落ち着いているが、そこに手を加えるのだ。
今まで保っていたバランスを失い、何時、何処から崩れ出すか分かったものじゃない。
勿論、そんな危険な作業だ。
俺だって生身で作業しようとは考えていない。そこは、安定と信頼の黒騎士とドーカイテーオー頼みだ。
あいつらなら、最悪崩れて埋まってもどうにでもなるからな。
そんなわけで、俺は黒騎士とドーカイテーオーを亜空間倉庫から取り出し、昔作った大八車をドーカイテーオーにセット。
んで、チェストボックスの中から使う予定のない適当な金属を取り出し、黒騎士用のシャベルを整形し、それを黒騎士に持たせる。
これで大まかな準備は完了だ。
あとは、黒騎士でボタ山を掘り起こし、堀った石をドーカイテーオーの牽く大八車に乗せ、それをソアラとアイラちゃんのいる場所まで運び、運んだ石を魔鉱炉に詰める。
これを繰り返すだけである。
大八車の石を地面に投げ出し、どんどんピストン輸送してもいいかも? と考えなくもなかったのだが、しかしその場合、地面に投げだされた石を魔鉱炉への投入する際、立ったりしゃがんだりを繰り返すことになってしまう。
おそらく長時間の作業になるため、体の負担を考えたら大八車に乗せて立ったまま作業した方がいいだろうと、空になったら取りに行く、というスタイルを採用することにした。
と、一連の流れが出来上がったところで、俺はヨームへと向き直る。
「さて、こっちは取り敢えずこれでいいとして、次はヨームの方の用事をすませようか」
というわけで、早速ヨームから話を聞くと、なんでも大体30~40センチメートル程の石が大量に欲しい、と言うのだ。
ここで集めた石を、マンドラゴラ畑の底に敷き、基底部にするとのことだった。
いつもなら、大きな岩を割って切り出し、大人数で少しずつマンドラゴラ畑まで運び出すらしいのだが、黒騎士なら割るのも運ぶのも楽勝なんじゃないか? ということらしい。
「この騎士さんの力なら、割るのも楽だろうし、運ぶのだって今出した荷車なんか使えば余裕じゃないか?」
と言うヨームだが、俺にはもっといい方法があった。
「いや、もっと楽な方法がある。ちっと見てな……」
俺はそう言って、足元に転がっていたボタ石をいくつか拾い手の平の上に乗せると、それをヨームに見える様に広げて見せた。
そこで、スキル【結合】を使う。
【結合】は、分割されている物体を一つに繋ぎ合わせるスキルだ。
スキルの影響を受け、本来固い石がウニウニと軟体生物の様に動き出すと、元からそうだったかのように、それこそ切り分けられた粘土が一つにまとまる様に、一塊の岩になった。
「……お前、何をした?」
「見ての通り、石ころを合体させて、ちょっと大きな石ころにした。まぁ、こういう能力だと思ってくれ」
不信感丸出し、といった感じのヨームに俺はサラっとそう説明する。
いちいち、今ここでスキルの説明なんてしても仕方ないしな。
今重要なのは、如何にして楽に目的を達成させるか、だ。
「とまぁ、こんな感じで石ころを合体させれば、わざわざ岩から切り出す必要はないだろ?」
好都合にも、魔鉱炉の方では期せずして石の分別作業も並行して行われているしな。
そこから出た正真正銘のボタ石を結合して、ヨームが求める石を作れば、銀塊も作れてヨームの依頼も達成出来る、と正に一石二鳥である。
しかも、作った石はチェストボックスに入れて運搬すれば、運ぶ手間も殆どなしと来た。
と、いうわけで、魔鉱炉にある程度銀鉱石が溜まるまで、みんなして魔鉱炉に石を詰める作業に没頭することになったのだった。
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