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44話 そんなある日の昼下がり その1
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俺は今、教会の書庫で神父様と二人してせっせと書類仕事に邁進していた。
今日も今日とて日差しは強く、開けっ放しになっていた窓からはガヤガヤと賑やかしい声が飛び込んで来ていた。
その声の持ち主は、この教会学校に通っているお子様どもだ。
人が仕事をしているというのに、お気楽な奴らめ……
「そっちどうですか、神父様?」
「丁度今、終わりましたよ」
「んじゃ、それ下さい。
まとめちゃうんで」
「では、よろしくお願いします」
そう言って、神父様が差し出した数枚の紙を、俺は受け取ってざっと目を通す。
そこには一見、見慣れない記号が数字の隣に大量に並んでいた。
この記号、別に文字と言う訳ではないので、この記号単体にあまり意味はないのだ。
記号は、言うなればMに横棒を一本通したような形をしていて、役割としては主にカウントのメモとして使われている記号だ。
縦に一本で1。縦に二本、逆V字みたいな形で2。そこから更に縦に一本、斜めに傾いたNみたいな形で3。で、縦に一本追加して、潰れたMみたいな形で4。最後に横に一本線を引いて5だ。
数を数える時に漢字の“正”の字を使うようなもんだな。
棚卸なんてものを経験した人間なら、ゲシュタルト崩壊するほどクソお世話になるあれだ。
しかもこいつは、1から4までは一筆で書けるので慣れるとこっちの方が早かったりする。
で、この用紙が何かと言うと、増加した人口を世代別にまとめたものだった。
銭湯の建設に伴う急激な人口増加で、現在の村人の人数が完全に把握しきれなくなってしまったのだ。
しかも、村人の増加は現在進行系で続いていたりする。
何処から聞きつけてきたのか知らないが、たまに、ふらっと一人二人帰って来たりするのだ。
今となっては人手は潤沢にあるので、これ以上はいらないっちゃいらないのだが、遠路遙々帰って来た人に“もう募集は打ち切ったので、どっか行って下さい”などと言える訳も無く、今でも無条件で受け入れている。
まぁ、村長がそう言う方針で指示を出しているので、俺からどうこう言うつもりはない。
村の最高責任者は村長なんだからな。
そんなこんなで、人が増えたところで、“んじゃ、ここらで村人の正確な人数を調べよう”なんて村長が言い出した結果、教会を窓口にして国勢調査……もとい、村勢調査が始まったのだった。
手法としては現代日本と大して変わらない。
各ご家庭に用紙を渡して、家族構成と年齢を記入してもらったものを提出してもらうのだ。
で、その資料を元に、総人口、世代別人口、世帯数などをまとめたものを、今こうして俺と神父様がせっせと作っている訳だ。
今行っている作業は、世代別の人口の集計だ。
この作業、正直かなり面倒臭い。
村人から提出された調査用紙から、必要な情報を抜き取り別の用紙に書き写さなければいけないのだ。
どこどこ家は何人家族で、何歳の男性が何人、何歳の女性が何人……と言った具合にだ。
年齢は厳密なものではなく、○十代と言った感じで大雑把に括っている。
で、それを更に既存の村民と、戻り組とで分けて集計を取っていた。
これは、単純に増加人数を知るためだ。
そして、これら集計した情報を最終的に結合し整理することで、やっと欲しい情報が得られるのだ。
原始的な方法ではあったが、PCなんて便利道具がないのだから仕方がない。
そんな状況下が俺が思った事と言えば……
エク○ル先生マジパネェっす!!
SUMりてぇ!! SUMりてぇんだよぉ!!
と、言う益体も無い心の叫びだった。
表計算ソフトって偉大だね。
PCがあれば……まぁ、ソフトがなくては何の役にも立たない、ただの箱なのだが……一度情報を入力してしまえば、後は関数を使ってどうにでもすることが出来る。
総合計に、条件付合計なんでもござれだ。
が、この中世然とした異世界でそれは望むべくもない訳で、こうしてちまちま手作業で合計を出しているって訳だ。
とは言え……
そこまでべらぼうな量があるわけでもないので、俺と神父様で空いた時間を見計らっては少しずつだが進めている。
別に締め切りのある仕事でもなし、ぼちぼち進めればいいだろうぼちぼちと。
農業用の水路が何とか完成した今となっては、俺もだいぶ手が空いている状態だった。
生前は“休みが欲しいぃ~”とか“安らぎがぁ~”“安寧がぁ~”“58連勤はもう嫌だぁ~”とかとか……
グチグチ言っていたものだが、実際手が空いてしまうと手持ち無沙汰と言うか、ぶっちゃけ暇と言うか……
この世界じゃ、ネトゲもラノベもありゃしないからな。
手が止まっていると、なんだか落ち着かないのだ。
職業病と言うやつだろうか? いや、違うか……
生前なら、たまにあった……本当にたまにしかなかった休みは、自宅のマンションで飼っていたペットたちと戯れたりして心の健康を保っていたものである。
そう言えば……
あいつら、俺が死んじまった後、どうなっただろうか……
俺が死んだ所為で、エサをもらえず餓死とかしてたら、可哀想だなぁ……
あっ、でも、俺が倒れた事は即日会社から両親に連絡が行くだろうし、そうなればマンションの引き取り手続きもすぐ行われることになる。
となれば、俺の部屋のものは一切合切処分なり、実家に送られるなりするだろうから、あいつらも……
ああぁぁ!? 今思い出したけど、ウチのオカンあれ系ダメな人だった!!
やばいっ! 殺処分されたか!? それとも俺の棺おけに一緒に放り込まれて殉葬でもさせられたか? 今の日本でそういう事が出来るのかどうか知らんが……
今となっては、あいつらが幸せに生きたと願う外ないが……気になるな。
と、まぁ、それはさておき……
空いた時間で、妹たちや、ミーシャ、タニアそれに今はシルヴィか……その辺りの相手をしてやってもよかったのだが目の前で、ひぃーひぃー言いながら書類と格闘している神父様を見ている手前さすがに“神父様おつでーすっ! じゃ、お先失礼しま~すっ!”とか気軽に言える雰囲気ではなかったのだ。
第一、村長は“総人口”だけを調べようとしていたところに、“調べるならもっと詳しい方がいいんじゃね?”と入れ知恵したのは何を隠そうこの俺だ。
“手伝いましょうか?”と俺が、神父様に声を掛けたのはそんな良心の呵責からだった。
で、神父様と、たまにシスターの誰かが手伝っていた作業に、俺が加わる事となった訳だ。
「にしても……」
俺は、手にした用紙に目を走らせながら、しみじみと呟いた。
「人、増えましたねぇ~」
「そうですね。ざっと二倍半、と言ったところでしょうか?」
こうして改めて数字としてみると、その増加具合がよく分かる。
最近は、学校に通う子どもがめっきり増えたからなぁ。
現在、村の人口は以前の人口の2.5倍ほどに膨らんでいた。
しかも、ただ人口が増えただけでなく、今計算している世代別の増加人口数をまとめた表によると、増加した人口の半分ほどが10代後半から40代前半に掛けての男性が中心になっていた。
結果、村の平均年齢が一気に下がり、村は潤沢な労働力を手にした事になる。
とは言え……
その全てを有効活用出来ているかと言うと、実はそうでもなかったりするのだ。
村では現在、ソロバンに続きリバーシも本格的な生産が始まっている。
しかし、作業可能なスペースや材料費などの問題から、その人員的ポテンシャルを生かしきれていないのが現状なのである。
要は、余剰人員を遊ばせてしまっているのだ。
今は、まぁ……このムカツクくらいの晴天続きの所為で、畑の水やり要員として大変重宝しているのだが、収穫を終えた後は完全に手持ち無沙汰になってしまう……
それは正直よろしくない……のだが、さて、何をさせればいいのかと、悩んでいる最中なのである。
新しい生産物を増やすにしろ、材料を購入する必要があるものは少しきつい。
現状、色々と買ってしまい資金に余裕がなくなってきているのだ。
だから、出来れば先にまとまった収入が欲しい、と言うのが本音だ。
理想は、村の内部で調達ができる材料でかつ需要があり大量生産が可能なもの、それでいて新しく施設を建設する必要のないもの……って何かあるだろうか?
俺個人としてはひじょ~に“紙”が欲しいと思っているところ……なのだが何とかならんもんかなぁ~。
今使っている紙は、全てイスュから購入している物だ。
しかもこの紙。俺が知る“一般的な紙”ではなくパピルス紙のように、植物を薄く切って押し固めてシート状にした物なのだ。だから、正確には紙ではないのだけど……
まぁ、それはおいといて……
この紙、実は結構お高いのである。
ついでに、書くためのペンやインクなんかも合わせて購入しているのでシャレにならない出費になっていたりする。
だからと言って、紙やペンが無くては情報を残す事も、正確に伝達する事も出来ないのだ。
故に、紙とペンとインクを自前でどうにか出来ないものかと考えているのだが……
紙ってどうやって作るんだ? 繊維質な植物を細かく裁断して茹でて潰して抄けばいいのか?
ペン……はちょっとムリそうだが、筆なら簡単そうだな。
となると、インクの代わりに墨でもいいのか。
あれ? 墨ってどうやって作るんだ?
煤を固める、と言うのはなんとなく分かるんだが……良く分からん。
とは言え……
筆記媒体としての“紙”が欲しいのは本当のことだが、俺が“紙”を欲している理由は別にあった。
……いい加減、ハッパでお尻を拭くのを何とかしたいのだ。
なんか俺ってば、いっつも尻の事で悩んでいるような……まぁ、いい。
トイレットペーパーなんて贅沢な事は言わない。
せめて、ハッパよりかは柔らかいもので拭きたいではないか。
俺の尻はデリケートなのだ。優しくしてやらねば、色々と酷い事になる。
だから“紙”が欲しいのだ。
と、まぁ、尻の話はこれくらいにして……
人口が増えた事で、村の中で出来る事が飛躍的に増えたのはいい事なのだろう。
それは、ソロバンを初めとした“製造業”の事だけでなく、本来の“生産業”としてもだ。
例えば、牛を増やして畜産を始める、と言うのも一つの手だと思っている。
うまく生産が出来れば、乳製品の量産が可能になり、あわよくば今以上にお肉を口にする機会が増えるかも知れない。ゴクリッ。
いい事ではないか。が……
問題は、俺がただの一サラリーマンでしかない、と言う事だな。
当たり前だが、俺には畜産のノウハウなどあるはずもない。
だから、“今日から畜産を始めますっ!”と言ったところで、正直何をすればいいのか皆目検討も付かないのだ。
そう言えば、ミーシャのとこは牛を飼っているからカゼインおじさんあたりなら牛の飼育について何か知っているかもしれないな……今度聞いてみよう。
うん、そうしよう。
なんて事を考えながら、集計作業を続けること数分……
コンコンッ
ようやく合計が出たところで、誰かが書庫の扉をノックする音が響いた。
「どうぞ」
神父様がそう答えると、扉はキィィと小さな軋みを上げてゆっくりと開いていった。
そこに立っていたのは、ミーシャとシルヴィだった。
「しんぷ様にロディくん。ごはん出来たよー」
「食事の用意が整いましたわ」
「そうですか。わざわざ呼びに来て頂いてありがとうございます。
では、私たちも今日の作業はここまでとしましょうか」
「へーい」
丁度キリも良かったので、俺は神父様の言葉に素直に従う事にした。
机の上に散らばっていた筆記用具一式を片付け、インクの乾いている用紙だけを集めて束にする。
そして、その上に筆記用具を置く。
これで多少風が吹き込んで来たとしても、飛び散るって事はないだろう。
まだ、インクが乾いていない分に関しては、手ごろなサイズの石を紙の上へと置いた。
文鎮代わりにあらかじめいくつか用意していたものだ。
「わたしねっ! 今日、いっぱいお手伝いしたのっ!」
「私も、いっぱい、いっ~ぱい、お手伝いしましたわっ!」
「そっかぁ~。二人とも偉いな」
俺が片付けを済まして、ミーシャとシルヴィのところまで行くと、二人揃って同じような事を言ってきた。
俺がそんな二人の頭をワシャワシャと撫でると、これまた二人揃って“にへへっ♪”と笑い出した。
そして、神父様はそんな俺たちを見て、ただ静かに微笑んでいるのが見えた。
……それがなんだか、ちょっと恥ずかしかった。
今日も今日とて日差しは強く、開けっ放しになっていた窓からはガヤガヤと賑やかしい声が飛び込んで来ていた。
その声の持ち主は、この教会学校に通っているお子様どもだ。
人が仕事をしているというのに、お気楽な奴らめ……
「そっちどうですか、神父様?」
「丁度今、終わりましたよ」
「んじゃ、それ下さい。
まとめちゃうんで」
「では、よろしくお願いします」
そう言って、神父様が差し出した数枚の紙を、俺は受け取ってざっと目を通す。
そこには一見、見慣れない記号が数字の隣に大量に並んでいた。
この記号、別に文字と言う訳ではないので、この記号単体にあまり意味はないのだ。
記号は、言うなればMに横棒を一本通したような形をしていて、役割としては主にカウントのメモとして使われている記号だ。
縦に一本で1。縦に二本、逆V字みたいな形で2。そこから更に縦に一本、斜めに傾いたNみたいな形で3。で、縦に一本追加して、潰れたMみたいな形で4。最後に横に一本線を引いて5だ。
数を数える時に漢字の“正”の字を使うようなもんだな。
棚卸なんてものを経験した人間なら、ゲシュタルト崩壊するほどクソお世話になるあれだ。
しかもこいつは、1から4までは一筆で書けるので慣れるとこっちの方が早かったりする。
で、この用紙が何かと言うと、増加した人口を世代別にまとめたものだった。
銭湯の建設に伴う急激な人口増加で、現在の村人の人数が完全に把握しきれなくなってしまったのだ。
しかも、村人の増加は現在進行系で続いていたりする。
何処から聞きつけてきたのか知らないが、たまに、ふらっと一人二人帰って来たりするのだ。
今となっては人手は潤沢にあるので、これ以上はいらないっちゃいらないのだが、遠路遙々帰って来た人に“もう募集は打ち切ったので、どっか行って下さい”などと言える訳も無く、今でも無条件で受け入れている。
まぁ、村長がそう言う方針で指示を出しているので、俺からどうこう言うつもりはない。
村の最高責任者は村長なんだからな。
そんなこんなで、人が増えたところで、“んじゃ、ここらで村人の正確な人数を調べよう”なんて村長が言い出した結果、教会を窓口にして国勢調査……もとい、村勢調査が始まったのだった。
手法としては現代日本と大して変わらない。
各ご家庭に用紙を渡して、家族構成と年齢を記入してもらったものを提出してもらうのだ。
で、その資料を元に、総人口、世代別人口、世帯数などをまとめたものを、今こうして俺と神父様がせっせと作っている訳だ。
今行っている作業は、世代別の人口の集計だ。
この作業、正直かなり面倒臭い。
村人から提出された調査用紙から、必要な情報を抜き取り別の用紙に書き写さなければいけないのだ。
どこどこ家は何人家族で、何歳の男性が何人、何歳の女性が何人……と言った具合にだ。
年齢は厳密なものではなく、○十代と言った感じで大雑把に括っている。
で、それを更に既存の村民と、戻り組とで分けて集計を取っていた。
これは、単純に増加人数を知るためだ。
そして、これら集計した情報を最終的に結合し整理することで、やっと欲しい情報が得られるのだ。
原始的な方法ではあったが、PCなんて便利道具がないのだから仕方がない。
そんな状況下が俺が思った事と言えば……
エク○ル先生マジパネェっす!!
SUMりてぇ!! SUMりてぇんだよぉ!!
と、言う益体も無い心の叫びだった。
表計算ソフトって偉大だね。
PCがあれば……まぁ、ソフトがなくては何の役にも立たない、ただの箱なのだが……一度情報を入力してしまえば、後は関数を使ってどうにでもすることが出来る。
総合計に、条件付合計なんでもござれだ。
が、この中世然とした異世界でそれは望むべくもない訳で、こうしてちまちま手作業で合計を出しているって訳だ。
とは言え……
そこまでべらぼうな量があるわけでもないので、俺と神父様で空いた時間を見計らっては少しずつだが進めている。
別に締め切りのある仕事でもなし、ぼちぼち進めればいいだろうぼちぼちと。
農業用の水路が何とか完成した今となっては、俺もだいぶ手が空いている状態だった。
生前は“休みが欲しいぃ~”とか“安らぎがぁ~”“安寧がぁ~”“58連勤はもう嫌だぁ~”とかとか……
グチグチ言っていたものだが、実際手が空いてしまうと手持ち無沙汰と言うか、ぶっちゃけ暇と言うか……
この世界じゃ、ネトゲもラノベもありゃしないからな。
手が止まっていると、なんだか落ち着かないのだ。
職業病と言うやつだろうか? いや、違うか……
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そう言えば……
あいつら、俺が死んじまった後、どうなっただろうか……
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あっ、でも、俺が倒れた事は即日会社から両親に連絡が行くだろうし、そうなればマンションの引き取り手続きもすぐ行われることになる。
となれば、俺の部屋のものは一切合切処分なり、実家に送られるなりするだろうから、あいつらも……
ああぁぁ!? 今思い出したけど、ウチのオカンあれ系ダメな人だった!!
やばいっ! 殺処分されたか!? それとも俺の棺おけに一緒に放り込まれて殉葬でもさせられたか? 今の日本でそういう事が出来るのかどうか知らんが……
今となっては、あいつらが幸せに生きたと願う外ないが……気になるな。
と、まぁ、それはさておき……
空いた時間で、妹たちや、ミーシャ、タニアそれに今はシルヴィか……その辺りの相手をしてやってもよかったのだが目の前で、ひぃーひぃー言いながら書類と格闘している神父様を見ている手前さすがに“神父様おつでーすっ! じゃ、お先失礼しま~すっ!”とか気軽に言える雰囲気ではなかったのだ。
第一、村長は“総人口”だけを調べようとしていたところに、“調べるならもっと詳しい方がいいんじゃね?”と入れ知恵したのは何を隠そうこの俺だ。
“手伝いましょうか?”と俺が、神父様に声を掛けたのはそんな良心の呵責からだった。
で、神父様と、たまにシスターの誰かが手伝っていた作業に、俺が加わる事となった訳だ。
「にしても……」
俺は、手にした用紙に目を走らせながら、しみじみと呟いた。
「人、増えましたねぇ~」
「そうですね。ざっと二倍半、と言ったところでしょうか?」
こうして改めて数字としてみると、その増加具合がよく分かる。
最近は、学校に通う子どもがめっきり増えたからなぁ。
現在、村の人口は以前の人口の2.5倍ほどに膨らんでいた。
しかも、ただ人口が増えただけでなく、今計算している世代別の増加人口数をまとめた表によると、増加した人口の半分ほどが10代後半から40代前半に掛けての男性が中心になっていた。
結果、村の平均年齢が一気に下がり、村は潤沢な労働力を手にした事になる。
とは言え……
その全てを有効活用出来ているかと言うと、実はそうでもなかったりするのだ。
村では現在、ソロバンに続きリバーシも本格的な生産が始まっている。
しかし、作業可能なスペースや材料費などの問題から、その人員的ポテンシャルを生かしきれていないのが現状なのである。
要は、余剰人員を遊ばせてしまっているのだ。
今は、まぁ……このムカツクくらいの晴天続きの所為で、畑の水やり要員として大変重宝しているのだが、収穫を終えた後は完全に手持ち無沙汰になってしまう……
それは正直よろしくない……のだが、さて、何をさせればいいのかと、悩んでいる最中なのである。
新しい生産物を増やすにしろ、材料を購入する必要があるものは少しきつい。
現状、色々と買ってしまい資金に余裕がなくなってきているのだ。
だから、出来れば先にまとまった収入が欲しい、と言うのが本音だ。
理想は、村の内部で調達ができる材料でかつ需要があり大量生産が可能なもの、それでいて新しく施設を建設する必要のないもの……って何かあるだろうか?
俺個人としてはひじょ~に“紙”が欲しいと思っているところ……なのだが何とかならんもんかなぁ~。
今使っている紙は、全てイスュから購入している物だ。
しかもこの紙。俺が知る“一般的な紙”ではなくパピルス紙のように、植物を薄く切って押し固めてシート状にした物なのだ。だから、正確には紙ではないのだけど……
まぁ、それはおいといて……
この紙、実は結構お高いのである。
ついでに、書くためのペンやインクなんかも合わせて購入しているのでシャレにならない出費になっていたりする。
だからと言って、紙やペンが無くては情報を残す事も、正確に伝達する事も出来ないのだ。
故に、紙とペンとインクを自前でどうにか出来ないものかと考えているのだが……
紙ってどうやって作るんだ? 繊維質な植物を細かく裁断して茹でて潰して抄けばいいのか?
ペン……はちょっとムリそうだが、筆なら簡単そうだな。
となると、インクの代わりに墨でもいいのか。
あれ? 墨ってどうやって作るんだ?
煤を固める、と言うのはなんとなく分かるんだが……良く分からん。
とは言え……
筆記媒体としての“紙”が欲しいのは本当のことだが、俺が“紙”を欲している理由は別にあった。
……いい加減、ハッパでお尻を拭くのを何とかしたいのだ。
なんか俺ってば、いっつも尻の事で悩んでいるような……まぁ、いい。
トイレットペーパーなんて贅沢な事は言わない。
せめて、ハッパよりかは柔らかいもので拭きたいではないか。
俺の尻はデリケートなのだ。優しくしてやらねば、色々と酷い事になる。
だから“紙”が欲しいのだ。
と、まぁ、尻の話はこれくらいにして……
人口が増えた事で、村の中で出来る事が飛躍的に増えたのはいい事なのだろう。
それは、ソロバンを初めとした“製造業”の事だけでなく、本来の“生産業”としてもだ。
例えば、牛を増やして畜産を始める、と言うのも一つの手だと思っている。
うまく生産が出来れば、乳製品の量産が可能になり、あわよくば今以上にお肉を口にする機会が増えるかも知れない。ゴクリッ。
いい事ではないか。が……
問題は、俺がただの一サラリーマンでしかない、と言う事だな。
当たり前だが、俺には畜産のノウハウなどあるはずもない。
だから、“今日から畜産を始めますっ!”と言ったところで、正直何をすればいいのか皆目検討も付かないのだ。
そう言えば、ミーシャのとこは牛を飼っているからカゼインおじさんあたりなら牛の飼育について何か知っているかもしれないな……今度聞いてみよう。
うん、そうしよう。
なんて事を考えながら、集計作業を続けること数分……
コンコンッ
ようやく合計が出たところで、誰かが書庫の扉をノックする音が響いた。
「どうぞ」
神父様がそう答えると、扉はキィィと小さな軋みを上げてゆっくりと開いていった。
そこに立っていたのは、ミーシャとシルヴィだった。
「しんぷ様にロディくん。ごはん出来たよー」
「食事の用意が整いましたわ」
「そうですか。わざわざ呼びに来て頂いてありがとうございます。
では、私たちも今日の作業はここまでとしましょうか」
「へーい」
丁度キリも良かったので、俺は神父様の言葉に素直に従う事にした。
机の上に散らばっていた筆記用具一式を片付け、インクの乾いている用紙だけを集めて束にする。
そして、その上に筆記用具を置く。
これで多少風が吹き込んで来たとしても、飛び散るって事はないだろう。
まだ、インクが乾いていない分に関しては、手ごろなサイズの石を紙の上へと置いた。
文鎮代わりにあらかじめいくつか用意していたものだ。
「わたしねっ! 今日、いっぱいお手伝いしたのっ!」
「私も、いっぱい、いっ~ぱい、お手伝いしましたわっ!」
「そっかぁ~。二人とも偉いな」
俺が片付けを済まして、ミーシャとシルヴィのところまで行くと、二人揃って同じような事を言ってきた。
俺がそんな二人の頭をワシャワシャと撫でると、これまた二人揃って“にへへっ♪”と笑い出した。
そして、神父様はそんな俺たちを見て、ただ静かに微笑んでいるのが見えた。
……それがなんだか、ちょっと恥ずかしかった。
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この物語は俺が元いた居場所……いや元いた世界へ帰る為の戦いから始まる話である。
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by MY
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
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