上 下
4 / 20
第1章

お困りの人(狼)と遭遇した

しおりを挟む
森にいたはいいけど、ここからどうしたらいいの?
日本の森みたいに看板があるわけでもないし、とにかく歩いてみればいいか。

私はとりあえずまっすぐに歩きながら身の回りを確認した。
私の服装はよくあるゲームの初期装備って感じの白いワンピースに茶色の靴。
それに肩がけの鞄が一つ。
中を開くとなんというか…真っ暗だった。
20cmほどの深さしかないはずなのに手がズボッと肩まで入り、まだ底につかない。
そして、何も触れていないはずなのに紙が私の手に飛んできた。

紙を開くと、どうやら女神様からだった。
[その鞄は容量が無限になっています。物はただ入れるだけで整理され、取り出したい物を想像するだけで手に取れます]

うわぁ…リアル四○元ポケットだぁ。
ささやかなどころではない贈り物だ。
でも、今は中に何も入ってないんだよね。

とりあえず紙を鞄に入れて森を歩く。
しばらく歩くと草むらからガサガサと言う音が聞こえたので、私は慌てて木に隠れる。

音のした草むらを見ていると、狼のような動物が出てきた。
いわゆるウルフというやつだろうか…意外と大きいんだなぁ。

いきなり1人で戦うのはちょっと不安がある。
私はその場からそぉーっと立ち去ろうとしたら、枝を踏んでしまいパキッという音がした。
その音に反応したウルフが私に気がつきグルルルと威嚇した。

「あ、あははは…別にあなたに害を加えようとしたわけじゃないんだよ?ただ…」

『貴様…我の言葉がわかるのか?』

威嚇していたはずのウルフが喉を鳴らすのをやめて、急に言葉に変わった。

「え?私の言葉通じるの?」

『貴様、何者だ。魔獣と意思疎通できる人間など初めて見たぞ』

「私も狼さんとお話ができるなんて思わなかったよ」

まさか、女神様の言語変換が魔物にも有効だったとは。
女神様、なんかズレてない?

狼さんをよく見ると、左の後ろ足と体に怪我をしていた。
しかも、血がポタポタと落ちるほどの深いものだ。
だからこそ、最初に威嚇されたのかもしれない。

「あなた、怪我してるじゃない!」

『あぁ…いつものことだ。我を討伐するために数多くの冒険者共が仕掛けてくる。だが、我もどうやらここまでのようだ。血を流し今では寒気で情けないことに足が震えておるわ』

諦めたように狼さんは地面に伏せるように座った。

「冗談じゃないわ。私の目の前で死ぬなんて例え人じゃなくても許さない」

私は狼さんに近づき、傷口に両手を向ける。
女神様の記憶補正のお陰で魔法の使い方はわかってる。

まずは体の魔力を感じる。
魔力は血液のように体を巡っているらしい。
私は目を閉じて集中し、体を流れている暖かい何かを感じた。
たぶんこれが魔力だろう。
流れる魔力の端を捕まえるイメージで、その先端を手に接続する。
そして、そのまま魔力の行き先を手のまま魔力を溜める。
そこからどういう魔法にするかイメージして、言霊を述べる。

「治癒の魔力を捧げ癒しを…ヒール」

私の手から薄緑色の光が出て、狼さんの傷口が塞がっていく。
その様子を見て、狼さんは少し驚いたような顔をしていた。

『貴様、癒手いやしてだったのか。しかも何という治りの速さ。本当に何者だ?』

「いやして?なにそれ?」

「気配は近づいている!こっちだ!」

聞きなれない単語に私は首を傾げた時、少し遠くの方から男の人の叫ぶ声が聞こえた。

『まずい…貴様はここを離れよ。奴らの狙いは我だ。ここにいては戦闘に巻き込まれるぞ』

「そんな!」

この世界で最初に出会った人(狼だけど…)なのに!
なんとか、なんとかできないかな…。
そうだ!意思疎通ができるんだから、説得すればいけるよ!

『何をしている、早く行け!』

「大丈夫!私に任せて!」

困っている人(狼だけど!)はどんな時でも助けてきたし、助けてこられた!
私ならできる!

私は手をぎゅっと握って狼さんの前に立ち、声のする方へ向いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

精霊たちの姫巫女

明日葉
ファンタジー
精霊の加護を受けた国の王家に生まれたセラフィナ。幼いある日、国が戦乱に飲み込まれ、全てを失った。 まだ平和な頃、国同士の決め事として隣の強国の第2王子シンが婚約者と定められた。しかし、全てを失ったセラフィナは重傷を負い、通りかかった導師に拾われ育てられ、そのまま穏やかに生活できるかに思われた。戦乱の真相の記憶が、国に戻ることも、隣国を頼ることもさせない。 しかし、精霊の加護を受けた国の姫は、その身に多くの力を秘め、静かな生活はある日終わりを告げる。それでもせめてものけじめとして婚約解消をするが、なぜか何の利益もないはずなのに、シンがそれを許さないと……。 人ならぬものたちに愛された姫と、戦いを常とする王子の落ち着く先は。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

かわいいは正義(チート)でした!

孤子
ファンタジー
 ある日、親友と浜辺で遊んでからの帰り道。ついていない一日が終わりを告げようとしていたその時に、親友が海へ転落。  手を掴んで助けようとした私も一緒に溺れ、意識を失った私たち。気が付くと、そこは全く見知らぬ浜辺だった。あたりを見渡せど親友は見つからず、不意に自分の姿を見ると、それはまごうことなきスライムだった!  親友とともにスライムとなった私が異世界で生きる物語。ここに開幕!(なんつって)

南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。 (全32章です)

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...