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ユルゲン・クリーガー
邂逅
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夜、焚火の明かりの中、クリーガーは焚火のそばにある石に腰かけて他の隊員数名と怪物について意見交換をしていた。
相手は姿の見えない怪物。追跡も攻撃も難しい。
染料か何かを浴びせることができれば怪物を可視化できるのではないかという案が出たが、染料を調達するには街まで戻らないといけない。そうなると二週間近くはかかってしまう。
しかし、このまま追跡するのは危険だという意見が出た。
コバルスキーの部隊の二の舞いもありうるからだ。クリーガーは帝国軍が最初に展開した駐屯地まで一旦撤退することも視野に入れつつあった。
さらに、しばらく意見交換をしていると、不意に近くに人の気配がしてクリーガーたちに緊張が走った。
クリーガーは慌てて立ち上がり、剣に柄に手を乗せた。
「何者だ?!」
クリーガーは気配のある方に向かって叫ぶ。
闇の中から二人の人物が近づいてきた。
「待って下さい、私たちは敵ではありません」
と、女性の声がした。
顔が判別できるほどにまで、さらに二人は近づいてくる。クリーガーはそのうちの一人の顔を見て息を飲んだ。
「やあ、久しぶりだな」
そう言って笑顔で挨拶したのは、先日、現金輸送馬車を襲撃しクリーガーを負傷させ、王女を誘拐した犯人、ギュンター・ローゼンベルガーであった。
髪は剃り上げてスキンヘッドになっているが、間違いない。
「お前は!」
クリーガーは戦慄した。
ローゼンベルガーが操る加速魔術は、普通の人間では到底太刀打ちのできないものだからだ。
この焚火の周りにいるクリーガーと数名の隊員達など、一瞬で斬り倒してしまうだろう。
さらにクリーガーは怪物の襲撃に備えて見張りを多めに立てていたのに、誰にも見つからず、彼らが自分たちの側まで来ていることにも驚いた。
「どうやって、ここに?」
クリーガーは尋ねた。
「まあ、落ち着けよ」
ローゼンベルガーは不敵な笑みを浮かべながら言う。
そして、彼の隣にいた見慣れぬ女性が口を開く。
「はじめまして。私は、アグネッタ・ヴィクストレームと言います」
ヴィクストレームと名乗る女性は長身で茶色い長髪をしていた。焚火の明かりでは良く見えないが二十歳代前半ぐらいだろうか。珍しい刺繍の入った衣服を身に纏っていた。
「私はこの部隊を率いているユルゲン・クリーガーだ」
「どうか、警戒しないでください」
ヴィクストレームがそう言うと、クリーガーは手で合図をして隊員達に落ち着くように指示した。自らも剣の柄から手を離した。
「あなた方が追っている怪物を、私たちも追っているのです」
ヴィクストレームはそう言うと地面を指さした。
「座って話しましょう」
ヴィクストレームとローゼンベルガーは焚火に近づく。
クリーガー達は二人の場所を開けて座った。ヴィクストレームとローゼンベルガーもクリーガーの隣に座った。
「あなたたちは、どこから来たのですか?」
クリーガーは尋ねた。
「私たちは、オストハーフェンシュタットから来ました」
「あの怪物を追っているとは、どういうことでしょうか?」
「あの怪物は、私の国、ヴィット王国の魔術によって作られた可能性があるからです」
「魔術?」
「ええ、あくまで可能性ですが。怪物を調べ、正体を突き止めて、魔術によるものであれば、あれを倒さなくてはいけません」
「あれのせいで帝国軍が百人以上が犠牲になっています。我々の部隊からも犠牲者が出ました。犠牲がこれ以上増やさないためにも、出来る限り早く怪物の正体を突き止め、倒さなくてはいけません。魔術で作られたということであれば、倒す方法があるんですか?」
「それはわかりません。怪物の詳細は私にも不明なのです。あなたは、何かご存知ですか?」
「奴は姿が見えない。巨大で火を吹く。皮膚は固いようだ。我々が知っているのはこの程度です」
「戦闘を?」
「つい数時間前に接触しましたが、二名隊員が炎に焼かれて死亡しました」
「ということは、まだこの近くに居るのですね?」
「おそらくは。奴はボールック山脈に向かって北東へ進んでいるようです、歩みは遅いので、夜が明けて追跡を開始すれば、明日の午後か夕方には追いつけるでしょう」
「俺にかかれば、怪物なんて怖くないぜ」
ローゼンベルガーはそう言って胸を叩いた。
確かに、ローゼンベルガーであれば、怪物を倒せるかもしれない。
ここは、ローゼンベルガーとヴィクストレームという女性に任せた方がいいのだろうか。
クリーガーたちは話をほどほどに切り上げて、横になって眠ることにした。
夜はかなり冷える。焚火を点けたまま、皆、毛布に包まって眠る。
翌朝、クリーガーが目を覚ますと、ローゼンベルガーとヴィクストレームの姿はなかった。
先に、出発したのであろうか。
クリーガーは、見張りをしていた隊員たちに確認するも、誰の姿も見ていないという。
見張りに姿を見られることなく、居なくなるとは一体どういうことだ?
クリーガーは首をかしげる。しかし、あまり考えている余裕はない。自分たちの部隊に怪物の追跡をさせるか、さもなくば撤退するか、すぐに決めなければならなかった。
クリーガーは考えを巡らせる。隊員たちの疲労も激しい。その上、食料も残り少ないこともあり、撤退し最初の駐留地に戻ることに決めた。
相手は姿の見えない怪物。追跡も攻撃も難しい。
染料か何かを浴びせることができれば怪物を可視化できるのではないかという案が出たが、染料を調達するには街まで戻らないといけない。そうなると二週間近くはかかってしまう。
しかし、このまま追跡するのは危険だという意見が出た。
コバルスキーの部隊の二の舞いもありうるからだ。クリーガーは帝国軍が最初に展開した駐屯地まで一旦撤退することも視野に入れつつあった。
さらに、しばらく意見交換をしていると、不意に近くに人の気配がしてクリーガーたちに緊張が走った。
クリーガーは慌てて立ち上がり、剣に柄に手を乗せた。
「何者だ?!」
クリーガーは気配のある方に向かって叫ぶ。
闇の中から二人の人物が近づいてきた。
「待って下さい、私たちは敵ではありません」
と、女性の声がした。
顔が判別できるほどにまで、さらに二人は近づいてくる。クリーガーはそのうちの一人の顔を見て息を飲んだ。
「やあ、久しぶりだな」
そう言って笑顔で挨拶したのは、先日、現金輸送馬車を襲撃しクリーガーを負傷させ、王女を誘拐した犯人、ギュンター・ローゼンベルガーであった。
髪は剃り上げてスキンヘッドになっているが、間違いない。
「お前は!」
クリーガーは戦慄した。
ローゼンベルガーが操る加速魔術は、普通の人間では到底太刀打ちのできないものだからだ。
この焚火の周りにいるクリーガーと数名の隊員達など、一瞬で斬り倒してしまうだろう。
さらにクリーガーは怪物の襲撃に備えて見張りを多めに立てていたのに、誰にも見つからず、彼らが自分たちの側まで来ていることにも驚いた。
「どうやって、ここに?」
クリーガーは尋ねた。
「まあ、落ち着けよ」
ローゼンベルガーは不敵な笑みを浮かべながら言う。
そして、彼の隣にいた見慣れぬ女性が口を開く。
「はじめまして。私は、アグネッタ・ヴィクストレームと言います」
ヴィクストレームと名乗る女性は長身で茶色い長髪をしていた。焚火の明かりでは良く見えないが二十歳代前半ぐらいだろうか。珍しい刺繍の入った衣服を身に纏っていた。
「私はこの部隊を率いているユルゲン・クリーガーだ」
「どうか、警戒しないでください」
ヴィクストレームがそう言うと、クリーガーは手で合図をして隊員達に落ち着くように指示した。自らも剣の柄から手を離した。
「あなた方が追っている怪物を、私たちも追っているのです」
ヴィクストレームはそう言うと地面を指さした。
「座って話しましょう」
ヴィクストレームとローゼンベルガーは焚火に近づく。
クリーガー達は二人の場所を開けて座った。ヴィクストレームとローゼンベルガーもクリーガーの隣に座った。
「あなたたちは、どこから来たのですか?」
クリーガーは尋ねた。
「私たちは、オストハーフェンシュタットから来ました」
「あの怪物を追っているとは、どういうことでしょうか?」
「あの怪物は、私の国、ヴィット王国の魔術によって作られた可能性があるからです」
「魔術?」
「ええ、あくまで可能性ですが。怪物を調べ、正体を突き止めて、魔術によるものであれば、あれを倒さなくてはいけません」
「あれのせいで帝国軍が百人以上が犠牲になっています。我々の部隊からも犠牲者が出ました。犠牲がこれ以上増やさないためにも、出来る限り早く怪物の正体を突き止め、倒さなくてはいけません。魔術で作られたということであれば、倒す方法があるんですか?」
「それはわかりません。怪物の詳細は私にも不明なのです。あなたは、何かご存知ですか?」
「奴は姿が見えない。巨大で火を吹く。皮膚は固いようだ。我々が知っているのはこの程度です」
「戦闘を?」
「つい数時間前に接触しましたが、二名隊員が炎に焼かれて死亡しました」
「ということは、まだこの近くに居るのですね?」
「おそらくは。奴はボールック山脈に向かって北東へ進んでいるようです、歩みは遅いので、夜が明けて追跡を開始すれば、明日の午後か夕方には追いつけるでしょう」
「俺にかかれば、怪物なんて怖くないぜ」
ローゼンベルガーはそう言って胸を叩いた。
確かに、ローゼンベルガーであれば、怪物を倒せるかもしれない。
ここは、ローゼンベルガーとヴィクストレームという女性に任せた方がいいのだろうか。
クリーガーたちは話をほどほどに切り上げて、横になって眠ることにした。
夜はかなり冷える。焚火を点けたまま、皆、毛布に包まって眠る。
翌朝、クリーガーが目を覚ますと、ローゼンベルガーとヴィクストレームの姿はなかった。
先に、出発したのであろうか。
クリーガーは、見張りをしていた隊員たちに確認するも、誰の姿も見ていないという。
見張りに姿を見られることなく、居なくなるとは一体どういうことだ?
クリーガーは首をかしげる。しかし、あまり考えている余裕はない。自分たちの部隊に怪物の追跡をさせるか、さもなくば撤退するか、すぐに決めなければならなかった。
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