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終章

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 年末、もう数日で年が明ける。
 街では、もう新年を祝う飾り付けがあちこちに飾られていた。
 そして、今日のズーデハーフェンシュタットは特に冷え込む日だった。空気は冷たく、吐く息は白かった。

 私と軍医アリョーナ・ザービンコワはカフェ “ミーラブリーザ”にいた。休暇の時は彼女も私と休暇を合わせて、このカフェに来るのが恒例となっている。
 私たちはラーミアイ紅茶を飲みながら世間話をしていると、ザービンコワが急に話題を変えた。
「この前の事件の事だけど」
「この前の事件とは?」
「メリナの事よ」
「ああ、その事ですね。彼女は無事にシンドゥ王国にたどり着けたのかどうか、心配ですね」
「そうね、でも多分大丈夫でしょう」
 その根拠はなかったが、私もそうであると信じたい。

 ザービンコワは肘を着き顎を手の甲に乗せて、話を続けた。
「あなたを斬った犯人は、なぜ、メリナを誘拐したんでしょう?」
「それは、わかりません」
 私は嘘をついた。
「でも、タイミングが良すぎるわ。それに、あれはメリナが王女であることを知っての上での犯行だと思うわ」
「例の魔術を使えば、どこへでも出入りは自由でしょう。それで、どこかから情報を得たのではないですか?」
「そうなのかしら」
「数日間、海軍が中心に海を捜索していましたが発見できなかったようです。警察は奴が岸にたどり着いたことも想定して、引き続き捜索はしているようです」
「見つかるかしら?」
「どうでしょう。海に転落して死亡しているのではないでしょうか? もし、生きていたとしても岸までは結構、距離はありましたし泳いでたどり着くのは難しいのではないでしょうか? そして、海流を考えると遺体は流されてしまっているでしょう」。私はため息をついて、話を続けた。「でも確かに、この事件は後味の悪い事件だったと思います。メリナの事を忘れようとしても頭から離れません。それに、将来、大陸“ダクシニー”での戦乱の火の粉が、こちらまで届かないとも限りませんし」
 私は目線を下げた。

 しばらくの沈黙の後、ザービンコワは、ゆっくりと話し掛けて来た。
「もう、この話を一旦辞めましょう。少し、あなたに精神的な負担になっているようですしね」
 彼女は微笑んで話を続ける。
「でも、まあ、心の中に溜まっていることを、言葉にして吐き出すのは良い事なのよ」
 私は思わず苦笑した。しかし、確かに彼女と話をしていると、心の負担が減っているように感じる。
 ザービンコワは窓の外に目を向けた。辺りに飾られている新年の飾りつけを見まわしてから言った。
「数日で年明けです。もう年内は面倒な事件は無いのでは?」
「そうであってほしいですね」

 今年を振り返ってみる。
 私にとって共和国の崩壊が一番大きな出来事だろう。共和国の人間にとっては、ほとんどすべてがそうだろう。
 そして、私が傭兵部隊への参加し隊長を務めたことが、個人的には大きな変化だ。
 街の人々の生活も表面上は落ち着いているように見える。潜伏しているテログループや郊外の盗賊も居なくはないが、その摘発の数も徐々に減ってきている。これらは帝国軍や我々傭兵部隊、統治しているルツコイ司令官の手腕だろう。
 
 私もふと、窓の外に目をやった。
 空から白いものが落ちてきている。
「雪だ」
 私は声に出した。ザービンコワも外に目を向ける。
 どおりで寒いわけだ。
 しかし、本来、ズーデハーフェンシュタットは暖かい気候なので、雪が降る日はさほど多くない。
「ちょっと、アリーグラードを思い出すわね」
 ザービンコワが言った。聞くと、内陸部にある彼女の故郷アリーグラードでは冬、頻繁に雪が降るという。

 我々はしばらく、窓の外の雪を眺めていた。
 その後、食事をするために場所を変えて、近くのレストランに向かおうと言うことになりカフェを後にした。

(完)
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