17 / 17
終章
しおりを挟む
年末、もう数日で年が明ける。
街では、もう新年を祝う飾り付けがあちこちに飾られていた。
そして、今日のズーデハーフェンシュタットは特に冷え込む日だった。空気は冷たく、吐く息は白かった。
私と軍医アリョーナ・ザービンコワはカフェ “ミーラブリーザ”にいた。休暇の時は彼女も私と休暇を合わせて、このカフェに来るのが恒例となっている。
私たちはラーミアイ紅茶を飲みながら世間話をしていると、ザービンコワが急に話題を変えた。
「この前の事件の事だけど」
「この前の事件とは?」
「メリナの事よ」
「ああ、その事ですね。彼女は無事にシンドゥ王国にたどり着けたのかどうか、心配ですね」
「そうね、でも多分大丈夫でしょう」
その根拠はなかったが、私もそうであると信じたい。
ザービンコワは肘を着き顎を手の甲に乗せて、話を続けた。
「あなたを斬った犯人は、なぜ、メリナを誘拐したんでしょう?」
「それは、わかりません」
私は嘘をついた。
「でも、タイミングが良すぎるわ。それに、あれはメリナが王女であることを知っての上での犯行だと思うわ」
「例の魔術を使えば、どこへでも出入りは自由でしょう。それで、どこかから情報を得たのではないですか?」
「そうなのかしら」
「数日間、海軍が中心に海を捜索していましたが発見できなかったようです。警察は奴が岸にたどり着いたことも想定して、引き続き捜索はしているようです」
「見つかるかしら?」
「どうでしょう。海に転落して死亡しているのではないでしょうか? もし、生きていたとしても岸までは結構、距離はありましたし泳いでたどり着くのは難しいのではないでしょうか? そして、海流を考えると遺体は流されてしまっているでしょう」。私はため息をついて、話を続けた。「でも確かに、この事件は後味の悪い事件だったと思います。メリナの事を忘れようとしても頭から離れません。それに、将来、大陸“ダクシニー”での戦乱の火の粉が、こちらまで届かないとも限りませんし」
私は目線を下げた。
しばらくの沈黙の後、ザービンコワは、ゆっくりと話し掛けて来た。
「もう、この話を一旦辞めましょう。少し、あなたに精神的な負担になっているようですしね」
彼女は微笑んで話を続ける。
「でも、まあ、心の中に溜まっていることを、言葉にして吐き出すのは良い事なのよ」
私は思わず苦笑した。しかし、確かに彼女と話をしていると、心の負担が減っているように感じる。
ザービンコワは窓の外に目を向けた。辺りに飾られている新年の飾りつけを見まわしてから言った。
「数日で年明けです。もう年内は面倒な事件は無いのでは?」
「そうであってほしいですね」
今年を振り返ってみる。
私にとって共和国の崩壊が一番大きな出来事だろう。共和国の人間にとっては、ほとんどすべてがそうだろう。
そして、私が傭兵部隊への参加し隊長を務めたことが、個人的には大きな変化だ。
街の人々の生活も表面上は落ち着いているように見える。潜伏しているテログループや郊外の盗賊も居なくはないが、その摘発の数も徐々に減ってきている。これらは帝国軍や我々傭兵部隊、統治しているルツコイ司令官の手腕だろう。
私もふと、窓の外に目をやった。
空から白いものが落ちてきている。
「雪だ」
私は声に出した。ザービンコワも外に目を向ける。
どおりで寒いわけだ。
しかし、本来、ズーデハーフェンシュタットは暖かい気候なので、雪が降る日はさほど多くない。
「ちょっと、アリーグラードを思い出すわね」
ザービンコワが言った。聞くと、内陸部にある彼女の故郷アリーグラードでは冬、頻繁に雪が降るという。
我々はしばらく、窓の外の雪を眺めていた。
その後、食事をするために場所を変えて、近くのレストランに向かおうと言うことになりカフェを後にした。
(完)
街では、もう新年を祝う飾り付けがあちこちに飾られていた。
そして、今日のズーデハーフェンシュタットは特に冷え込む日だった。空気は冷たく、吐く息は白かった。
私と軍医アリョーナ・ザービンコワはカフェ “ミーラブリーザ”にいた。休暇の時は彼女も私と休暇を合わせて、このカフェに来るのが恒例となっている。
私たちはラーミアイ紅茶を飲みながら世間話をしていると、ザービンコワが急に話題を変えた。
「この前の事件の事だけど」
「この前の事件とは?」
「メリナの事よ」
「ああ、その事ですね。彼女は無事にシンドゥ王国にたどり着けたのかどうか、心配ですね」
「そうね、でも多分大丈夫でしょう」
その根拠はなかったが、私もそうであると信じたい。
ザービンコワは肘を着き顎を手の甲に乗せて、話を続けた。
「あなたを斬った犯人は、なぜ、メリナを誘拐したんでしょう?」
「それは、わかりません」
私は嘘をついた。
「でも、タイミングが良すぎるわ。それに、あれはメリナが王女であることを知っての上での犯行だと思うわ」
「例の魔術を使えば、どこへでも出入りは自由でしょう。それで、どこかから情報を得たのではないですか?」
「そうなのかしら」
「数日間、海軍が中心に海を捜索していましたが発見できなかったようです。警察は奴が岸にたどり着いたことも想定して、引き続き捜索はしているようです」
「見つかるかしら?」
「どうでしょう。海に転落して死亡しているのではないでしょうか? もし、生きていたとしても岸までは結構、距離はありましたし泳いでたどり着くのは難しいのではないでしょうか? そして、海流を考えると遺体は流されてしまっているでしょう」。私はため息をついて、話を続けた。「でも確かに、この事件は後味の悪い事件だったと思います。メリナの事を忘れようとしても頭から離れません。それに、将来、大陸“ダクシニー”での戦乱の火の粉が、こちらまで届かないとも限りませんし」
私は目線を下げた。
しばらくの沈黙の後、ザービンコワは、ゆっくりと話し掛けて来た。
「もう、この話を一旦辞めましょう。少し、あなたに精神的な負担になっているようですしね」
彼女は微笑んで話を続ける。
「でも、まあ、心の中に溜まっていることを、言葉にして吐き出すのは良い事なのよ」
私は思わず苦笑した。しかし、確かに彼女と話をしていると、心の負担が減っているように感じる。
ザービンコワは窓の外に目を向けた。辺りに飾られている新年の飾りつけを見まわしてから言った。
「数日で年明けです。もう年内は面倒な事件は無いのでは?」
「そうであってほしいですね」
今年を振り返ってみる。
私にとって共和国の崩壊が一番大きな出来事だろう。共和国の人間にとっては、ほとんどすべてがそうだろう。
そして、私が傭兵部隊への参加し隊長を務めたことが、個人的には大きな変化だ。
街の人々の生活も表面上は落ち着いているように見える。潜伏しているテログループや郊外の盗賊も居なくはないが、その摘発の数も徐々に減ってきている。これらは帝国軍や我々傭兵部隊、統治しているルツコイ司令官の手腕だろう。
私もふと、窓の外に目をやった。
空から白いものが落ちてきている。
「雪だ」
私は声に出した。ザービンコワも外に目を向ける。
どおりで寒いわけだ。
しかし、本来、ズーデハーフェンシュタットは暖かい気候なので、雪が降る日はさほど多くない。
「ちょっと、アリーグラードを思い出すわね」
ザービンコワが言った。聞くと、内陸部にある彼女の故郷アリーグラードでは冬、頻繁に雪が降るという。
我々はしばらく、窓の外の雪を眺めていた。
その後、食事をするために場所を変えて、近くのレストランに向かおうと言うことになりカフェを後にした。
(完)
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
傭兵部隊の任務報告2~ヴェールテ家連続殺人事件
谷島修一
ファンタジー
旧共和国の首都ズーデハーフェンシュタットに駐留する帝国軍傘下の傭兵部隊へ意外な命令が下った。旧貴族のヴェールテ家の長男がパーティの最中に毒殺され、その捜査を警察が進めていた。しかし、何者かが手を回し警察に捜査の中止をさせた。この事件を放置できないと考えた警察長官のピョートル・ミリューコフは駐留軍の司令官ボリス・ルツコイに相談。ルツコイは傭兵部隊に事件の捜査をさせることに決めた。
当初、傭兵部隊隊長のクリーガーは休暇中であったため、副隊長のエーベル・マイヤーとクリーガーの弟子で隊員のオットー・クラクスを中心に捜査を開始。その中で次々に起こる殺人と失踪。ついには意外な人物にまで疑いがかかり捜査は難航する。
そして、軍や政府まで巻き込んだ、大事件へと発展する。
================================
短編のつもりで書き始めましたが、筆が乗ってしまい11万字を超える作品となってしまいました(笑)
”ミステリー”としては、少々不足な内容かもしれませんが、ぜひお読みください。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる