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第26話
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夕刻。
エレーヌとジョアンヌは一緒になって剣の訓練を庭で行っていた。お互いに手合わせをしたり、素振りをして過ごしていた。
ザーバーランドへ向けての出発の日を1週間後とし、それに向けて旅に必要なのは、物資だけでなく身体づくりも重要である。
エレーヌの中に居る、異世界では剣豪であったという魂は、今、女性の身体が華奢で動きが万全でないこと、体力もあまり無いことに少し不安を感じているようで、そのことをジョアンヌに漏らしていた。
とは言っても、ジョアンヌの目には、エレーヌの動きや剣さばきは、そこらへんの剣士たちよりはよっぽど良いと評価している。剣豪であったと言うのは嘘ではないのであろう。しかし、ジョアンヌもまた旅に出るには不安が全くないわけではない。
何かの任務を遂行する際は、かつてジョアンヌがそうだったように賞金稼ぎたちは、大抵、職種の違う者を集めて数名のパーティを組むのが通常だ。
エレーヌとジョアンヌは全く不慣れなザーバーランドに密入国し、魔術師がたくさん居ると言われる魔術塔を目指す。剣の腕が立つと言っても、どう言う事態が待ち受けているかわからない。もし、魔術師と戦闘になることがあれば剣士二人のみでは苦戦するであろう。
剣の訓練中、ジョアンヌはそのことについて話題にした。
「ザーバーランドに行くとするなら、もう少し仲間が欲しい」
「仲間? どうやって見つける?」
「私が、ここに雇われた時のように、紹介所で募集する方法もあったが、出発までに時間がない、募集をかけても間に合わないかもしれない」
「できれば、出発の日を延期したくないが、安全の方が大事だ。仲間が見つかるまで、出発を延期しても構わない」
「そうか…」
「どういった仲間が必要なのだ?」
「ヒーラーと魔術師が一人ずついれば何かと便利だろう」
「魔術師というのは、私を襲ったような者のことか?」
「そうだ、魔術を使って敵を攻撃したり、我々を防御したりできる」
「では、ヒーラーとは何のことだ?」
「ヒーラーは、怪我の治療をすることのできる者のことだ」
「そんなことが出来るのか?」
「ヒーラーの熟練度にもよるけど、余程の重傷でなければ治すことが出来る」
「なるほど、それは心強いな。そういった人物に君は心当たりはないのか?」
「うーん…、軍にいたときには、部隊にそう言った連中も少しはいたけどね、軍を解雇された後は、つながりはないな」
「そうか…」エレーヌは少し考えてから再び口を開いた。「フンツェルマンに聞いてみてはどうだろう?」
「いいかもね。あと、もう一つ。ザーバーランドの地理に詳しい者も居ると便利だな。私たちは旅の目的の魔術塔の正確な位置を知らない。向こうに着いてから魔術塔を探るというのも一つの手だが、もしあらかじめ知っている者がいたほうが手間が省けるし、私たちは密入国するからな、あちらでは、おおっぴらに動くことも出来ないことも考えておくべきだ」
「君は、戦争中にザーバーランドにいたのでは? 地理には詳しくないのかね?」
「いや、戦場だった場所は、以前こっちのレクスリムの領土だったところだ。今は、ほとんどザーバーランドに奪われてしまったけどね。向こうの領土の奥深いところとなると全く知らない。」
「なるほど、そうだったのか。では、案内係も誰かないかフンツェルマンに尋ねてみよう」
エレーヌとジョアンヌは、そこで会話を止めて剣の訓練を再開した。
陽も落ちて、エレーヌは剣の訓練を終えて、夕食のため食堂へ向かう。
すでにニコルが椅子に座っており、いつものようにエレーヌは大きなテーブルを挟んで反対側の椅子に座った。
ニコルは旅に出ることは承知してくれたものの、エレーヌの身を案じていて、いつも不安そうにしていた。今も笑顔の中に不安の色が見える。
フンツェルマンとジータが、食事の乗った皿をどんどん運んで来る。
その途中、エレーヌとニコルは他愛の無い話をしていたが、エレーヌは、フンツェルマンに先ほどのジョアンヌとの話題について話しかけた。
「ジョアンヌと話をしたのだが、彼女によると旅にもっと仲間が必要だと言う。魔術師、ヒーラー、道案内係りだ。心当たりはないか?」
フンツェルマンは皿をテーブルに置いている途中だったが、一旦手を止めエレーヌに向き直った。彼は突然の想定外の質問に戸惑っているようだったが、エレーヌの質問に答える。
「そうですね…。魔術師に知り合いはおりません。ヒーラーは、街の治療院にプレボワという者がおります。しかし、彼は治療院の仕事があるでしょうし、危険が伴う旅には少々年齢が高いと思われます」
「そうか。いないのなら仕方ないな」
「そのプレボワに誰か知り合いがいないかどうか、尋ねてみるのはどうでしょうか?」
「お願いできるか?」
「かしこまりました。明後日、街を訪問する予定がございますので、途中立ち寄りたい思います」
「よろしく頼む」
「あと、道案内係というのうは、どういった?」
「ザーバーランドの地理に詳しい者だ」
「残念ですが、そういった者に心当たりはありません」
「そうか、仕方ない」
エレーヌはそういって、少々考え込むように視線を窓の外に向けた。
魔術師と道案内係はどうしたものか。
エレーヌとジョアンヌは一緒になって剣の訓練を庭で行っていた。お互いに手合わせをしたり、素振りをして過ごしていた。
ザーバーランドへ向けての出発の日を1週間後とし、それに向けて旅に必要なのは、物資だけでなく身体づくりも重要である。
エレーヌの中に居る、異世界では剣豪であったという魂は、今、女性の身体が華奢で動きが万全でないこと、体力もあまり無いことに少し不安を感じているようで、そのことをジョアンヌに漏らしていた。
とは言っても、ジョアンヌの目には、エレーヌの動きや剣さばきは、そこらへんの剣士たちよりはよっぽど良いと評価している。剣豪であったと言うのは嘘ではないのであろう。しかし、ジョアンヌもまた旅に出るには不安が全くないわけではない。
何かの任務を遂行する際は、かつてジョアンヌがそうだったように賞金稼ぎたちは、大抵、職種の違う者を集めて数名のパーティを組むのが通常だ。
エレーヌとジョアンヌは全く不慣れなザーバーランドに密入国し、魔術師がたくさん居ると言われる魔術塔を目指す。剣の腕が立つと言っても、どう言う事態が待ち受けているかわからない。もし、魔術師と戦闘になることがあれば剣士二人のみでは苦戦するであろう。
剣の訓練中、ジョアンヌはそのことについて話題にした。
「ザーバーランドに行くとするなら、もう少し仲間が欲しい」
「仲間? どうやって見つける?」
「私が、ここに雇われた時のように、紹介所で募集する方法もあったが、出発までに時間がない、募集をかけても間に合わないかもしれない」
「できれば、出発の日を延期したくないが、安全の方が大事だ。仲間が見つかるまで、出発を延期しても構わない」
「そうか…」
「どういった仲間が必要なのだ?」
「ヒーラーと魔術師が一人ずついれば何かと便利だろう」
「魔術師というのは、私を襲ったような者のことか?」
「そうだ、魔術を使って敵を攻撃したり、我々を防御したりできる」
「では、ヒーラーとは何のことだ?」
「ヒーラーは、怪我の治療をすることのできる者のことだ」
「そんなことが出来るのか?」
「ヒーラーの熟練度にもよるけど、余程の重傷でなければ治すことが出来る」
「なるほど、それは心強いな。そういった人物に君は心当たりはないのか?」
「うーん…、軍にいたときには、部隊にそう言った連中も少しはいたけどね、軍を解雇された後は、つながりはないな」
「そうか…」エレーヌは少し考えてから再び口を開いた。「フンツェルマンに聞いてみてはどうだろう?」
「いいかもね。あと、もう一つ。ザーバーランドの地理に詳しい者も居ると便利だな。私たちは旅の目的の魔術塔の正確な位置を知らない。向こうに着いてから魔術塔を探るというのも一つの手だが、もしあらかじめ知っている者がいたほうが手間が省けるし、私たちは密入国するからな、あちらでは、おおっぴらに動くことも出来ないことも考えておくべきだ」
「君は、戦争中にザーバーランドにいたのでは? 地理には詳しくないのかね?」
「いや、戦場だった場所は、以前こっちのレクスリムの領土だったところだ。今は、ほとんどザーバーランドに奪われてしまったけどね。向こうの領土の奥深いところとなると全く知らない。」
「なるほど、そうだったのか。では、案内係も誰かないかフンツェルマンに尋ねてみよう」
エレーヌとジョアンヌは、そこで会話を止めて剣の訓練を再開した。
陽も落ちて、エレーヌは剣の訓練を終えて、夕食のため食堂へ向かう。
すでにニコルが椅子に座っており、いつものようにエレーヌは大きなテーブルを挟んで反対側の椅子に座った。
ニコルは旅に出ることは承知してくれたものの、エレーヌの身を案じていて、いつも不安そうにしていた。今も笑顔の中に不安の色が見える。
フンツェルマンとジータが、食事の乗った皿をどんどん運んで来る。
その途中、エレーヌとニコルは他愛の無い話をしていたが、エレーヌは、フンツェルマンに先ほどのジョアンヌとの話題について話しかけた。
「ジョアンヌと話をしたのだが、彼女によると旅にもっと仲間が必要だと言う。魔術師、ヒーラー、道案内係りだ。心当たりはないか?」
フンツェルマンは皿をテーブルに置いている途中だったが、一旦手を止めエレーヌに向き直った。彼は突然の想定外の質問に戸惑っているようだったが、エレーヌの質問に答える。
「そうですね…。魔術師に知り合いはおりません。ヒーラーは、街の治療院にプレボワという者がおります。しかし、彼は治療院の仕事があるでしょうし、危険が伴う旅には少々年齢が高いと思われます」
「そうか。いないのなら仕方ないな」
「そのプレボワに誰か知り合いがいないかどうか、尋ねてみるのはどうでしょうか?」
「お願いできるか?」
「かしこまりました。明後日、街を訪問する予定がございますので、途中立ち寄りたい思います」
「よろしく頼む」
「あと、道案内係というのうは、どういった?」
「ザーバーランドの地理に詳しい者だ」
「残念ですが、そういった者に心当たりはありません」
「そうか、仕方ない」
エレーヌはそういって、少々考え込むように視線を窓の外に向けた。
魔術師と道案内係はどうしたものか。
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