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暁を覚えない春眠編
カワレスギクライシス
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偽妹生活、最終日。
今日も朝9時に、妹の美咲と偽妹の前田さんにたたき起こされてジョギング。
ジョギングし終わった後、僕は偽妹に釘を刺す。
「今日で、妹はおしまいだからな。ジョギングも、もうしない」
「えー。明日からも走りましょーよー」
「やだ。1人で頑張って卓球で世界を目指せよ」
「冷たーい」
「僕はもともと冷たいんだよ」
自分から言ったこととはいえ、前田さんに1週間翻弄されてしまったな。
もう、2度と『妹をやれと』か言わないぞ。
ジョギングを終え自宅に戻った後は、朝食を食べる。
午前中いっぱいは、3人で自室でうだうだしていた。
お昼からは、O.M.G.のライブ後の物販の手伝いに行かないといけない。
昨日、宇喜多邸から持ってきた新曲CD200枚の入った段ボールを忘れずに抱えて、妹、偽妹を引き連れて秋葉原に向かう。
段ボール、重たい。
今日のイベントは“春日局”こと徳川さん主催の対バンイベント。
O.M.G.の新曲CDのリリースのために、O.M.G.の持ち時間は後半に長めに設定してあるという。
ライブハウスに到着すると、入口前にはスタンドフラワーが立っていた。
見ると、“新曲リリースおめでとう O.M.G.ファン一同”と書いてある札がついていた。
わざわざファンが手配したのだろう。
こんなの初めて見たな。ファンの愛が感じられる。
ライブハウスの中に入る。
会場はまだ、リハーサル中。
準備前の客席あたりにO.M.G.のメンバーがいるのを発見した。
僕は声をかける。
「やあ、来たよ」
真帆が笑顔で答える。
「おお! 純ちゃん、ありがとう。妹さんも、前田さんもありがとう」
妹は、O.M.G.全員と会ったことがあったんだっけ…。
偽妹は、宇喜多さん、竜造寺さんとは初めてなので、それぞれ自己紹介をしている。
真帆に段ボールを楽屋に置いてくれてと言われたので、僕はステージ横から楽屋に入る。
楽屋に入ると、今日の出演アイドルが何人かいた。
その中に徳川さんもいたので、ご挨拶。
「徳川さん。こんにちは」
徳川さんは僕の方を振り返って挨拶を返してきた。
彼女は、まだステージ衣装を着る前で、普段着メガネ。
「ああ。武田さん、こんにちは。今日は、お客さんが沢山で大変かもしれないけど、よろしくね」
「こちらこそ。徳川さんが作曲家さんを紹介してくれたおかげで、リリイベが出来ます」
まあ、お客さんが多くても僕は物販で手伝いをするだけだし、いつもやっているので大したことないだろうと考えている。
なんやかんやで、イベント開始。
僕と妹と偽妹はライブハウスの後ろの方で見学。
お客さんは、ステージが進むにつれてどんどん増えてきて、ほどなく会場はいっぱいになり通勤ラッシュのような様相になってきた。
そして、お客さんは異様な盛り上がり方。
僕と妹と偽妹は、逃げるようにロビーに移動。
ロビーに設置してある、ステージを映し出しているモニターを見ながら待機。
複数のアイドルの出演後、O.M.G.の出番が来た。
いつもやってるカバー曲のあと、今日発表の新曲のパフォーマンスも大盛り上がりで無事終了。
トリの“春日局”の出番まで終わって、1時間の物販タイムに突入。
会場内に各アイドルが物販をやるためのテーブルが準備される。
僕も楽屋から段ボールを持ってきて開封、O.M.G.のテーブルにCDを並べて、ファンの対応を始める。
今日はリリイベのせいか、いつも以上のファンが並んでいる。
妹も偽妹も、最初は不安があったが、僕と分担してなんとかファンを切り盛りしている。
顔見知りのファンが話しかけてくれるが、ちゃんと対応する余裕もない。
物販が始まってさほど時間が経っていないのに、僕ら3人の対応ではかなり厳しい状況になっていた。
CDだけでなく、ほかのグッズも予想以上に売れていく。
CD売って、チェキ撮って、グッズ売って、CD売って、チェキ撮って、CD売って、CD売って、チェキ撮って、グッズ売って、CD売って…。
大したことないとか思っていたが、予想以上にいろいろと買われすぎで、忙しすぎる。
対応が大変。危機的状況。
物販時間の後半、妹と偽妹がお客さんと一緒にチェキ撮り始めた。
なんか、ファンの要望らしいとの事だが…。
僕は突っ込む余裕もなく、物販の対応を必死に続ける。
そして、物販タイムの1時間が終了した。
とても疲れた…。
CDもグッズもチェキも売れに売れた。
CDが売れる枚数は当初150枚ぐらいと予測していたが、ふたを開けると結局6枚しか残っていなかった。
それは、CDを2、3枚購入するファンがそれなりにいたせいである。
その理由を聞くと自分で聴く用以外に、保存用とか、布教用にするらしい。
僕は、妹と偽妹に尋ねる。
「お前ら、なんでチェキ撮ってたんだよ?」
「なんか、『かわいいから一緒に撮りたい』って、みんなに言われたから」
「お前らは、アイドルじゃあないのに…」
「まあ、いいじゃん。ちゃんとお代はもらったから売り上げに協力したよ!」
妹は、ちょっと嬉しそうに言った。
チェキのフィルムもぎりぎり足りたし、終わったことだから、まあ、いいや。
会場に、お客さんは完全にいなくなって、物販テーブルの上に残った6枚の新曲CDをO.M.G.、僕、妹、偽妹は見下ろした。
「じゃあ、残り6枚はそれぞれ1枚ずつ持って帰るということで、どうかな?」
真帆が提案した。
「いいね!」
宇喜多さんが答える。
「これで完売!」
真帆が嬉しそうに宣言した。
「初オリジナル曲のリリイベ大成功だね!」
厳密にいうと完“売”じゃあないけどな。
まあ、いいでしょう。
完売のおかけで帰りは段ボールもなくなったので、ラクチンだ。
夕方にはイベントが終わりトラブルもなく任務完了で、僕としては珍しくちょっとした満足感を感じている。
最後に真帆からバイト代をもらう。
妹と偽妹はチェキでいくらか売り上げたので、僕より少し多めにバイト代をもらったらしい。
2人とも人生初バイトだったので、すごく嬉しそうにしている。
帰路、真帆と別れ際、
「今度、打ち上げで乾杯しようよ。ウーロン茶で」
と言われた。
それに承諾して、O.M.G.、偽妹と別れて帰宅した。
今日も朝9時に、妹の美咲と偽妹の前田さんにたたき起こされてジョギング。
ジョギングし終わった後、僕は偽妹に釘を刺す。
「今日で、妹はおしまいだからな。ジョギングも、もうしない」
「えー。明日からも走りましょーよー」
「やだ。1人で頑張って卓球で世界を目指せよ」
「冷たーい」
「僕はもともと冷たいんだよ」
自分から言ったこととはいえ、前田さんに1週間翻弄されてしまったな。
もう、2度と『妹をやれと』か言わないぞ。
ジョギングを終え自宅に戻った後は、朝食を食べる。
午前中いっぱいは、3人で自室でうだうだしていた。
お昼からは、O.M.G.のライブ後の物販の手伝いに行かないといけない。
昨日、宇喜多邸から持ってきた新曲CD200枚の入った段ボールを忘れずに抱えて、妹、偽妹を引き連れて秋葉原に向かう。
段ボール、重たい。
今日のイベントは“春日局”こと徳川さん主催の対バンイベント。
O.M.G.の新曲CDのリリースのために、O.M.G.の持ち時間は後半に長めに設定してあるという。
ライブハウスに到着すると、入口前にはスタンドフラワーが立っていた。
見ると、“新曲リリースおめでとう O.M.G.ファン一同”と書いてある札がついていた。
わざわざファンが手配したのだろう。
こんなの初めて見たな。ファンの愛が感じられる。
ライブハウスの中に入る。
会場はまだ、リハーサル中。
準備前の客席あたりにO.M.G.のメンバーがいるのを発見した。
僕は声をかける。
「やあ、来たよ」
真帆が笑顔で答える。
「おお! 純ちゃん、ありがとう。妹さんも、前田さんもありがとう」
妹は、O.M.G.全員と会ったことがあったんだっけ…。
偽妹は、宇喜多さん、竜造寺さんとは初めてなので、それぞれ自己紹介をしている。
真帆に段ボールを楽屋に置いてくれてと言われたので、僕はステージ横から楽屋に入る。
楽屋に入ると、今日の出演アイドルが何人かいた。
その中に徳川さんもいたので、ご挨拶。
「徳川さん。こんにちは」
徳川さんは僕の方を振り返って挨拶を返してきた。
彼女は、まだステージ衣装を着る前で、普段着メガネ。
「ああ。武田さん、こんにちは。今日は、お客さんが沢山で大変かもしれないけど、よろしくね」
「こちらこそ。徳川さんが作曲家さんを紹介してくれたおかげで、リリイベが出来ます」
まあ、お客さんが多くても僕は物販で手伝いをするだけだし、いつもやっているので大したことないだろうと考えている。
なんやかんやで、イベント開始。
僕と妹と偽妹はライブハウスの後ろの方で見学。
お客さんは、ステージが進むにつれてどんどん増えてきて、ほどなく会場はいっぱいになり通勤ラッシュのような様相になってきた。
そして、お客さんは異様な盛り上がり方。
僕と妹と偽妹は、逃げるようにロビーに移動。
ロビーに設置してある、ステージを映し出しているモニターを見ながら待機。
複数のアイドルの出演後、O.M.G.の出番が来た。
いつもやってるカバー曲のあと、今日発表の新曲のパフォーマンスも大盛り上がりで無事終了。
トリの“春日局”の出番まで終わって、1時間の物販タイムに突入。
会場内に各アイドルが物販をやるためのテーブルが準備される。
僕も楽屋から段ボールを持ってきて開封、O.M.G.のテーブルにCDを並べて、ファンの対応を始める。
今日はリリイベのせいか、いつも以上のファンが並んでいる。
妹も偽妹も、最初は不安があったが、僕と分担してなんとかファンを切り盛りしている。
顔見知りのファンが話しかけてくれるが、ちゃんと対応する余裕もない。
物販が始まってさほど時間が経っていないのに、僕ら3人の対応ではかなり厳しい状況になっていた。
CDだけでなく、ほかのグッズも予想以上に売れていく。
CD売って、チェキ撮って、グッズ売って、CD売って、チェキ撮って、CD売って、CD売って、チェキ撮って、グッズ売って、CD売って…。
大したことないとか思っていたが、予想以上にいろいろと買われすぎで、忙しすぎる。
対応が大変。危機的状況。
物販時間の後半、妹と偽妹がお客さんと一緒にチェキ撮り始めた。
なんか、ファンの要望らしいとの事だが…。
僕は突っ込む余裕もなく、物販の対応を必死に続ける。
そして、物販タイムの1時間が終了した。
とても疲れた…。
CDもグッズもチェキも売れに売れた。
CDが売れる枚数は当初150枚ぐらいと予測していたが、ふたを開けると結局6枚しか残っていなかった。
それは、CDを2、3枚購入するファンがそれなりにいたせいである。
その理由を聞くと自分で聴く用以外に、保存用とか、布教用にするらしい。
僕は、妹と偽妹に尋ねる。
「お前ら、なんでチェキ撮ってたんだよ?」
「なんか、『かわいいから一緒に撮りたい』って、みんなに言われたから」
「お前らは、アイドルじゃあないのに…」
「まあ、いいじゃん。ちゃんとお代はもらったから売り上げに協力したよ!」
妹は、ちょっと嬉しそうに言った。
チェキのフィルムもぎりぎり足りたし、終わったことだから、まあ、いいや。
会場に、お客さんは完全にいなくなって、物販テーブルの上に残った6枚の新曲CDをO.M.G.、僕、妹、偽妹は見下ろした。
「じゃあ、残り6枚はそれぞれ1枚ずつ持って帰るということで、どうかな?」
真帆が提案した。
「いいね!」
宇喜多さんが答える。
「これで完売!」
真帆が嬉しそうに宣言した。
「初オリジナル曲のリリイベ大成功だね!」
厳密にいうと完“売”じゃあないけどな。
まあ、いいでしょう。
完売のおかけで帰りは段ボールもなくなったので、ラクチンだ。
夕方にはイベントが終わりトラブルもなく任務完了で、僕としては珍しくちょっとした満足感を感じている。
最後に真帆からバイト代をもらう。
妹と偽妹はチェキでいくらか売り上げたので、僕より少し多めにバイト代をもらったらしい。
2人とも人生初バイトだったので、すごく嬉しそうにしている。
帰路、真帆と別れ際、
「今度、打ち上げで乾杯しようよ。ウーロン茶で」
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