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チョコレート狂騒曲編

バレンタインデー~その2

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 放課後、“僕はちょっと用があるから”と、毛利さんを先に歴史研究部の部室に向かわせて、僕はプール横の水泳部の部室前にやって来た。
 すると、1人の女子生徒が待っていた。
 肩ぐらいの長さの髪を二つ結びにしている。
 彼女が赤松さんか。見たことあるな。
 しかし、廊下ですれ違った程度で、会話はしたことがない。

 彼女は僕の姿を見つけると、歩み寄ってきた。
「武田君…。呼び出してごめんね」
 彼女は小声で言った。

 よく見ると、この子、すごく可愛いな。
 目鼻立ちも整っている。
 O.M.G.のプロデューサー(?)をやっているので、アイドルを何人も見る機会があるが、そのアイドルたちよりもかわいいのではないか?
 こんな可愛い女の子が、僕なんかに何の用だろう…?
「うん…。で、何か用?」

「あの…」
 彼女は相変わらず小声だ。そして、うつむき加減。
「これ」
 そう言って、後ろ手に隠すように持っていた、オレンジ色の紙袋を手渡してきた。

「これは、ひょっとして…?」

「うん。バレンタインのチョコ…」

「えっ?!」
 全然話もしたことない子にもらえるとは、ちょっと驚いた。
「えーと…、義理チョコ?」
 一応、尋ねる。

「あっ、いえ…。あの…、その…、本命です」

「ええーっ!?」
 滅茶苦茶驚いた。
「本命…? と言うことは…? ええっ?!」

 赤松さんは、モジモジしたままうつむいている。

 待って、待って…。
 僕も思考が、まとまらない。

「それで、あの…、聞きたいことが…」
 赤松さんは、絞り出すように話し出した。

「な、な、何?」
 僕は動揺を隠せない。

「今、付き合っている人いますか?」

「い、いや…。居ないけど」

「織田さんとは?」

「え? 彼女とは、もう付き合ってないよ」
 キス、しまくってるけど。

「そうですか…」

 そして、しばらく、沈黙。
 赤松さんは、意を決したように顔を上げて言った。
「じゃあ、私と付き合ってください!」

「ええええーっ?!」
 滅茶苦茶驚いた。
「いや…、何で? 今まで口も、きいたことないよね? 僕ら」

「ええ…。でも、いろいろ噂を聞いて、いいなって…」

 噂?
 エロマンガ伯爵の?
 赤松さんもエロマンガが好きだとか?
 それとも、リードでつながれて散歩プレイやらされた時?
 赤松さんはそう言うプレイが好きだとか?
 全く、わからん…。

「あの…、僕の噂って、良い話が全然無いと思うんだけど…?」

「そんなこと無いよ。最近も誰か女子を危ない目から守ったとか」

「え? 何それ?」
 記憶にないのだが。
 ひょっとして、北条先輩に脅されていた件かな?
 あれは雪乃を守ったことになってた、のか?
 そうなのかもしれないが…。

 赤松さんは続ける。
「それに、成績もスポーツもできるって」

 成績は1回だけ学年9位を取ったことがあるが、それ以外のいつもの成績は平凡だし、スポーツも体育の授業をソツなくクリアするぐらい。
 卓球の評価は、なんか知らんけど異様に良いが。

「なんか、すごく過大評価されている気がするんだけど…?」
 僕は引き続き困惑して言う。

「そんなこと無いよ。周りのみんなも武田君のこと、いいって言ってるよ」

「えええーっ!? みんな!? えええーっ!?」
 初耳なんだけど。

「武田君は校内屈指のモテ男だから…」

「はあ?!」
 屈指のモテ男って、一昨日、福島さんに言われたけど。
 本当に、そんな風に言われてるの?
 信じられんな。

 いや、待てよ。
 僕は何とか考えを色々と巡らせる。
 これは、いたずらじゃあないのか?
 陰キャの僕をからかっているだけなのかもしれないぞ。
 こんなに、かわいい子が僕のこと好きになるなんてことがあるか?
 Xのネタにするために、片倉先輩が裏で糸を引いているのかもしれん。
 ということは、近くで片倉先輩が隠し撮りをしているとか?!
 僕はあたりを見回した。
 しかし、誰かが居る気配はしない。
 気づくと、キョロキョロしている僕の様子を不思議そうに赤松さんが見ていた。

「それで…、どうかな?」
 赤松さんは尋ねた。

「え? どうとは?」

「だから、付き合ってほしいのだけど」

 そうだった。告白の返事をしなければ。

 僕は、“好き”の感情が無い子と付き合うのは、基本無しだ。
 それで、雪乃とも別れたし、毛利さんもフッてしまったのだ。
 中途半端な感情で付き合うと、ロクなことがないはずだ。

「えーーーーっと…」
 僕は何とか言葉を発する。
「気持ちは嬉しいけど、付き合うのはちょっと…、ゴメン…」

「やっぱり、他に好きな人が居るの?」

 他に好きな人が居ることにしてしまえば、赤松さんをさほど傷つけずに済ませることができるのだろうか?

「えーーっと…。実は、そうなんだ」
 僕は嘘をついた。

「やっぱり、毛利さん?」

「えっ?! なんで、毛利さん?」

「だって、いつも一緒に居るし…、昨日も一緒に武田君の家に行くのを見たって言う人がいたし…」

「えっ?!」
 昨日、VRゴーグルを試すために僕の家に来たのを誰かに見られていたのか。
「いや、彼女はクラスメートで同じ部活の仲間ってだけで…、それ以上でもそれ以下でもないよ。昨日もゲームをやりに来ただけだし」

「じゃあ、誰のことが好きなの?」

「そ、それは…。誰でもいいじゃない?」

「そうだよね…、言えないよね…」
 赤松さん諦めたように、ため息をひとつついた。
「なんか、ゴメンね」

「いや。別に、いいよ。こちらこそ、ゴメン」

「じゃあ」
 赤松さんは、そう言うと小走りに校舎の方に去って行った。

 僕は、想定外の出来事で、精神的にかなり疲れてしまった。
 こう言うのは苦手だし、慣れないな。
 僕はもらったオレンジ色の包みをカバンに入れると、プール横を後にする。
 そして、呼び出されている歴史研究部の部室に向かった。
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