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眩暈する秋涼編

公約実行

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 放課後、僕と毛利さんは歴史研の部室にやって来た。
 今日も伊達先輩が何やら相談したいことがあるということで、LINEで呼びされていたのだ。
 部室の扉を開けると、伊達先輩と上杉先輩がポテチを肴にスマホをいじりながら駄弁っている。

「いらっしゃい」
「来たね!」

「「お疲れ様です」」
 僕と毛利さんは椅子に座る。

 僕は早速、伊達先輩に尋ねた。
「相談したいことって何ですか?」

 伊達先輩は目線をスマホから僕らに向けて答える。
「相談したいことは、生徒会の仕事なんだけど、学校用のパンフレットに新しい制服写真を載せるの。それで、そのモデルをやってほしいのよ」

「え? 僕がですか? モデル?」

「ええ。それと毛利さんも」

「私もですか?!」
 毛利さんは、彼女が滅多に発しないほどの大声を出して驚いた。

「どうして、僕なんですか? 写真のモデルだったら、例えば、イケメンの悠斗とかの方が良いのでは?」

「武田君のような“普通”の生徒がちょうどいいのよ。見た目も優等生っぽいし。毛利さんもそう」

“普通”って…、なんか複雑だなあ。

「あれ? 制服って新しくなるんでしたっけ?」
 僕は疑問をぶつけた。

「来年度から、女子の制服にスラックスが導入されるのよ」

「ああ、そう言えば、それ、生徒会長選挙の公約でありましたね」
 男子には関係の無いことなので、すっかり忘れていたよ。さらに言うと、このまま忘れ去っていても僕には全く影響がない。

「でも、来年度だから、今年の冬はまだ我慢しないといけないんだよなー」
 上杉先輩がぶつくさ言っている。彼女は冬でもスカートを短く詰めているのだろうか?

「男子の制服は何か変化があるんでしたっけ?」
 上杉先輩のボヤキを無視するように、僕は伊達先輩に質問する。

「男子は変化ないわ」

「え? だったら、去年の写真を使えばいいのでは?」

「男子だけ去年の写真って、変でしょ? 別に写真の差し替えは業者にお願いするからこちらはさほど手間はかからないし」

 そんなもんなのかなぁ。
 まあ、いいか。
「わかりました。やります」

「毛利さんも良いわね? スラックスを誰よりも早く履けるわよ」

「はい」
 毛利さんも一応、納得したのか、諦めたかしたようで静かに返事をした。

「撮影は来週月曜の放課後にやるから、忘れないでね」

 生徒会長選挙の公約と言えば…。思い出したので、伊達先輩に質問をする。
「そういえば、選挙公約で部活の活動費のUPとかどうなったんですか?」

「それも、来年度からよ。UPと言っても微々たるものだけど」

「なるほど、やりますね」

「他の評判の良い成果としては、女子トイレに無料で使える生理用品を置いたわ」

「そうなんですか?」
 知らなかったし、ピンとこない。

「なんで、知らないのよ」
 上杉先輩が突っ込んでくる。

「いや、女子トイレの出来事を僕が知ってたら、それは事件でしょ」

「あ、それもそうだね」

 上杉先輩、考えるより先に口を開くなよ。

 伊達先輩は話を続ける。
「食堂の定食の値段を下げたわ」

「あ、その話は今日聞きました」

「まあ、私は提案だけして、業者との交渉は先生たちがやってくれたんだけど」

「本当に、いろいろやってますね」
 伊達先輩は、本当にやり手だなぁ。感心する。

「あと、もう一つ、来年度の学園祭は10月の3連休に、3日間の開催になったから」

「あれ? それって、確か生徒会長選挙で対立候補だった北条先輩の公約じゃあ?」

「そうよ。良いと思ったものは、対立候補の公約でもいただくわ」

「なるほど、貪欲ですね。それにしても、これじゃあ、来年の生徒会長のやることが無くなりますね」

「まあ、来年は武田君が生徒会長やるんでしょ?」

「なんでそんな話になるんですか?」

「冗談、冗談。言ってみただけよ」

 伊達先輩が言うと冗談に聞こえない。
 また策を弄して、僕を罠にはめて、生徒会長に仕立てようとするかも知れない。油断は禁物だな。
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