上 下
79 / 419
波乱の夏休み編

ラケット持たされる

しおりを挟む
 翌日。
 卓球部の面々と僕は合宿所の食堂で朝食を取る。
 朝食も終わったところで、すぐに午前中の練習を開始するが、その直前に僕は島津先生に声を掛けた。

「先生、ちょっと良いですか?」

 そう言って、卓球場の端に来てもらう。

「昨日、明智さんに怒鳴られたんですが…」

「あら、それはどうして?」

「僕がここに来るきっかけになった、歴史研の合宿の温泉卓球のことで、僕が“先生の胸を触らせろ”みたいな話になっているようで、それで怒っているようです。また怒鳴られるのも嫌なので、何とかなりませんか?」

「武田君が卓球部の合宿に来ることになった経緯は、詳しく部員に話したからね」

 先生、そこは、隠しといてくれよ。

「まあ、わかったわ。うまく言っておくから」

「よろしくお願いします」

 先生はクルリと振り返ると、女子部員のところまで行き、女子部員を全員、卓球場の隅に集めて何やら話をする。
 なにを言っているのか聞こえなかったが、うまく話してくれればいいのだけど。

 そんなこんなで、練習が開始された。

 僕は、まずは球拾い、ということで、球拾い用の網を持って卓球場を右往左往する。午前中は、ほぼ球拾いで終わった。
 昼食を取ったあと、羽柴部長が無理難題を言い出した。

「ちょっと、ラケット貸してあげるから、“球出し”をお願いできないかな?」

 昨日から練習を見ているので、“球出し”がどういうものかは、なんとなく分かるが。練習相手に球を切れ目なく繰り出す役といったところか。

「“球出し”…、ですか? 僕に出来るんでしょうか?」

「大丈夫、大丈夫」
 羽柴部長は笑いながら言う。
 軽いな。

 そして、羽柴部長は僕の意思とは関係なく、トップスピンとか、“球出し”をやる時の注意点を説明してくる。
 仕方ないので、ちょっとやってみることにした。
 羽柴部長に向けて延々と球を打っていく。

 3~40球ぐらい打ったところで、羽柴部長が声を掛けて来た。

「ちょっと、交代してみようか?」

「え? 僕が部長さんの球を返すんですか?」

「そうそう」
 また羽柴部長は笑いながら言った。

 そして、また3~40球ぐらい返したところで、羽柴部長は手を止めて言った。

「いやー、武田君、スジいいね」

「そうですか?」
 こんなんで、わかるんだろうか?

「で、卓球部どう?」

「え…? 僕は、歴史研がありますから」
 こういう時だけ、歴史研を言い訳に使う。

「掛け持ちも大丈夫だよ。それに、平日って歴史研あまり活動してないよね?」

「部室に集まって会合をやっていますよ」

「そう? ダべったり、スマホゲームやってるだけって聞いてるけど」

 歴史研の活動内容がばれている。

「でも、運動はあまり好きではないので…」

「そうかー。でも、気が向いたらいつでも来てね」

 羽柴部長はそう言うが、僕の気が向くことは無いと思う。
 その後、午後の大半は、試合形式の練習をするというので球拾いもなく、のんびり見学して過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

この『異世界転移』は実行できません

霜條
ライト文芸
どこにでもいるサラリーマン、各務堂一司《かがみどうかずあき》。 仕事ばかりの日々から離れる瞬間だけは、元の自分を取り戻すようであった。 半年ぶりに会った友人と飲みに行くと、そいつは怪我をしていた。 話しを聞けば、最近流行りの『異世界転移』に興味があるらしい。 ニュースにもなっている行方不明事件の名だが、そんなことに興味を持つなんて――。 酔って言う話ならよかったのに、本気にしているから俺は友人を止めようとした。 それだけだったはずなんだ。 ※転移しない人の話です。 ※ファンタジー要素ほぼなし。

処理中です...