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“帝国の英雄”
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オレガは私の足の傷口を見ると、自分のエプロンを割いて傷跡に巻き付けてくれた。まだ少し出血と痛みがある。
そして、私とオレガは皇帝の遺体を見下ろした。
この皇帝はアーランドソンと言う魔術師に乗っ取られた偽物だ。しかし、その事実を知っているのは、私とオレガだけだ。
最後に皇帝に会っていたのは私だ。このままでは下手をすれば、皇帝殺しの容疑を掛けられてしまう。もちろん死刑だろう。
オレガにそのことを話すと、皇女イリアに話せばわかってくれると言う。私は信じてもらえるかどうかわからないと思ったが、今はそれに賭けるしかない。
皇帝のいない今、皇女イリアが帝国の最高指導者だ。
オレガに肩を借り、脚を引きずりながら城の中を移動し、私とオレガはイリアのいるという部屋に向かった。
オレガによると、イリアには、いつもは親衛隊が警護しているが、召使いであれば比較的簡単に会うことができるという。親衛隊は先ほどアクーニナ含めて全員拘束されてしまっているか、チューリンとの戦いで倒されている。
城内をしばらく進むと、イリアがいるという部屋の前にやって来た。親衛隊が全員拘束された今、警護は誰もいないようだ。さすが皇女の部屋の扉は大きく重厚だ。扉を開ける前から、中の豪華さが想像できる。
オレガは大きな扉をノックして扉を開けた。広い部屋の中、奥の窓際にはイリアが立って窓の外を見ていた。以前会った時と同様に高価なドレスを纏っている。イリアは振り返ってオレガと私を見た。我々は近づいてひざまずいた。
「突然、失礼します」。
オレガは言った。
「オレガか。そっちは確かクリーガーですね」。
イリアは若干困惑した表情をしていたが、毅然とした口調で話した。
「城内が騒がしかったですね。アクーニナがチューリンを拘束すると言っていましたが、どうなったか知っていますか?」。
私は、ヤチメゴロドの宿場で、アクーニナがチューリンを倒すことをイリアに話しておくというようなことを言っていたのを思い出した。
私は今のアクーニナと親衛隊の状況を話した。チューリンを倒したあと、ソローキン率いる軍にチューリン殺害の罪で、アクーニナと隊員は私の弟子ともども拘束されてしまったと伝えた。
イリアは、自分が行って全員解放させると、すぐに約束してくれた。おそらく、こういう事態も予測していたのであろう。
そして、私は皇帝が偽物であったということを伝えた。アーランドソンと言う魔術師が皇帝の体を乗っ取ったあと、帝国を支配し、ゆくゆくは軍事力で大陸全土を征服する野望を持っていたことも話した。オレガは、その話の内容について保証してくれた。
イリアは少し考えてから口を開いた。
「私はチューリンが来てから三年も父と会えていませんでした。そして軍備増強や、以前の父では考えられないような政策を執ったりして、全く別人のようでした。いえ、別人だったのですね。あなたの話を聞いて納得しました。父はもう三年前に死んだのです。そもそも、父でなかったのですから、私はあなたを処罰させようなど考えていません」。
私はそれを聞いて安堵した。私の様子を見て、イリアは少し微笑んで言った。
「“帝国の英雄”が、また国を救いましたね」。
私とオレガは、私の足の治療のため、薬が置いてあるという部屋まで移動することになった。一方の皇女イリアは、城の地下にあるという牢獄に向かっている。
私の弟子たちや、アクーニナと親衛隊員が、拘束されているとしたら、そこしかない。牢獄は城内でも最も端の地下にある。イリアは城内をかなり歩いて、ようやく地下牢獄に到着した。
牢番はイリアを見てかなり驚いたようだ。確かにイリアがこんなところに来ることは、ほとんどないだろう。牢番はひざまずいたが、イリアにとらわれている者達を確認させろと言われ、立ち上がり牢が並ぶ部屋へ続く扉を開けさせた。
イリアはアクーニナ達が捕らえられている牢はすぐに見つかった。そして、私の弟子たちオットーとソフィアの牢も見つかった。捕らえられた者は皆、囚人服に着替えさせられていた。
イリアは、牢番に言って、ソローキンにここへ来るように言う。少し待たされたが、牢番とソローキンが地下牢までやって来た。
ソローキンは、イリアがこんなところまで来ることに驚きを隠さないでいた。イリアはオットー、ソフィア、アクーニナと親衛隊員達を牢から出すように言い、ソローキンはそれに従った。アクーニナは、牢を出るときソローキンをジロリと睨み付けた。
イリアはアクーニナに事情を話し、親衛隊に皇帝の遺体をどこかに移動しておくように言った。皇帝の遺体をそのまま放置しておくのは、まずいだろう。
イリアは私から聞いた話をアクーニナにする。皇帝が偽物で、アーランドソンという魔術師に体を乗っ取られていた、と言う話にはかなり驚いていたようだ。無理もないだろう。イリアはアクーニナに事情を説明し終えると、アクーニナに提案をした。
「アクーニナ、明日の午前、あなたと話をしたいのですが。その場にはクリーガーも同席してもらいます」。
イリアは帝国の今後について意見を聞きたいという。明日、アクーニナは、イリアと会うことになった。イリアは部屋に戻った後、アクーニナは私とオレガの居る部屋までやってくると、そのことを伝えた。私も快諾し明日、イリアと会うことにした。
そして、私とオレガは皇帝の遺体を見下ろした。
この皇帝はアーランドソンと言う魔術師に乗っ取られた偽物だ。しかし、その事実を知っているのは、私とオレガだけだ。
最後に皇帝に会っていたのは私だ。このままでは下手をすれば、皇帝殺しの容疑を掛けられてしまう。もちろん死刑だろう。
オレガにそのことを話すと、皇女イリアに話せばわかってくれると言う。私は信じてもらえるかどうかわからないと思ったが、今はそれに賭けるしかない。
皇帝のいない今、皇女イリアが帝国の最高指導者だ。
オレガに肩を借り、脚を引きずりながら城の中を移動し、私とオレガはイリアのいるという部屋に向かった。
オレガによると、イリアには、いつもは親衛隊が警護しているが、召使いであれば比較的簡単に会うことができるという。親衛隊は先ほどアクーニナ含めて全員拘束されてしまっているか、チューリンとの戦いで倒されている。
城内をしばらく進むと、イリアがいるという部屋の前にやって来た。親衛隊が全員拘束された今、警護は誰もいないようだ。さすが皇女の部屋の扉は大きく重厚だ。扉を開ける前から、中の豪華さが想像できる。
オレガは大きな扉をノックして扉を開けた。広い部屋の中、奥の窓際にはイリアが立って窓の外を見ていた。以前会った時と同様に高価なドレスを纏っている。イリアは振り返ってオレガと私を見た。我々は近づいてひざまずいた。
「突然、失礼します」。
オレガは言った。
「オレガか。そっちは確かクリーガーですね」。
イリアは若干困惑した表情をしていたが、毅然とした口調で話した。
「城内が騒がしかったですね。アクーニナがチューリンを拘束すると言っていましたが、どうなったか知っていますか?」。
私は、ヤチメゴロドの宿場で、アクーニナがチューリンを倒すことをイリアに話しておくというようなことを言っていたのを思い出した。
私は今のアクーニナと親衛隊の状況を話した。チューリンを倒したあと、ソローキン率いる軍にチューリン殺害の罪で、アクーニナと隊員は私の弟子ともども拘束されてしまったと伝えた。
イリアは、自分が行って全員解放させると、すぐに約束してくれた。おそらく、こういう事態も予測していたのであろう。
そして、私は皇帝が偽物であったということを伝えた。アーランドソンと言う魔術師が皇帝の体を乗っ取ったあと、帝国を支配し、ゆくゆくは軍事力で大陸全土を征服する野望を持っていたことも話した。オレガは、その話の内容について保証してくれた。
イリアは少し考えてから口を開いた。
「私はチューリンが来てから三年も父と会えていませんでした。そして軍備増強や、以前の父では考えられないような政策を執ったりして、全く別人のようでした。いえ、別人だったのですね。あなたの話を聞いて納得しました。父はもう三年前に死んだのです。そもそも、父でなかったのですから、私はあなたを処罰させようなど考えていません」。
私はそれを聞いて安堵した。私の様子を見て、イリアは少し微笑んで言った。
「“帝国の英雄”が、また国を救いましたね」。
私とオレガは、私の足の治療のため、薬が置いてあるという部屋まで移動することになった。一方の皇女イリアは、城の地下にあるという牢獄に向かっている。
私の弟子たちや、アクーニナと親衛隊員が、拘束されているとしたら、そこしかない。牢獄は城内でも最も端の地下にある。イリアは城内をかなり歩いて、ようやく地下牢獄に到着した。
牢番はイリアを見てかなり驚いたようだ。確かにイリアがこんなところに来ることは、ほとんどないだろう。牢番はひざまずいたが、イリアにとらわれている者達を確認させろと言われ、立ち上がり牢が並ぶ部屋へ続く扉を開けさせた。
イリアはアクーニナ達が捕らえられている牢はすぐに見つかった。そして、私の弟子たちオットーとソフィアの牢も見つかった。捕らえられた者は皆、囚人服に着替えさせられていた。
イリアは、牢番に言って、ソローキンにここへ来るように言う。少し待たされたが、牢番とソローキンが地下牢までやって来た。
ソローキンは、イリアがこんなところまで来ることに驚きを隠さないでいた。イリアはオットー、ソフィア、アクーニナと親衛隊員達を牢から出すように言い、ソローキンはそれに従った。アクーニナは、牢を出るときソローキンをジロリと睨み付けた。
イリアはアクーニナに事情を話し、親衛隊に皇帝の遺体をどこかに移動しておくように言った。皇帝の遺体をそのまま放置しておくのは、まずいだろう。
イリアは私から聞いた話をアクーニナにする。皇帝が偽物で、アーランドソンという魔術師に体を乗っ取られていた、と言う話にはかなり驚いていたようだ。無理もないだろう。イリアはアクーニナに事情を説明し終えると、アクーニナに提案をした。
「アクーニナ、明日の午前、あなたと話をしたいのですが。その場にはクリーガーも同席してもらいます」。
イリアは帝国の今後について意見を聞きたいという。明日、アクーニナは、イリアと会うことになった。イリアは部屋に戻った後、アクーニナは私とオレガの居る部屋までやってくると、そのことを伝えた。私も快諾し明日、イリアと会うことにした。
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