64 / 68
終焉
しおりを挟む
私は、自分の体を支えることができず、そのまま床に倒れ込んでしまった。立ち上がることはできなかったが、体はわずかに動かせた。自分の意識があるのは間違いなかった。まだ、体を乗っ取られていないようだ。アーランドソンの念動魔術が、理由はわからないが一度途切れたようだ。そして、私の体が床に倒れると同時に、聞き覚えのある女性の叫び声がした。しかし、意識が朦朧としているため誰の声だったかすぐには思い出せない。そして、アーランドソンの声も何度かした。そして、何度か稲妻が放たれる音がして、あたりは静かになった。
しばらくして、再び私の体は宙に浮いた。
「邪魔が入ってね」。
アーレンドソンはそう言うと、再び呪文を唱え始めた。
床に崩れ落ち、再び宙に吊り上げられるまでの短い間だったが、朦朧としていた意識がわずかながら戻っていた。
私は気力を振り絞り、先ほど拾っていたナイフをアーランドソンの首に突き立てた。
アーランドソンは、叫び声を上げて、数歩後ろに下がった。
私の体は再び床に落ちた、しかし、今度は倒れ込まずに何とかひざまずく形で体勢を保った。顔を上げるとアーランドソンが首に刺さったナイフを抜くところだった。呪文を唱えているところを見ると、再び治癒魔術を使っているようだ。
何とか次の一撃を。
私は、少し離れて落ちていた剣に手を向けた。その剣はすっと宙を横切り私の手に収まった。
それを見てアーランドソンは驚いたようだった。それもそのはずだ、私がアグネッタから念動魔術を伝授してもらったのは、ここ二週間ぐらいの前の話だ。セバスティアン・ウォルターの記憶の中に念動魔術を使う私の姿はない。
私は力を振り絞り、剣をアーランドソンの心臓めがけて突き刺した。そして、全体重をかけて剣をより深く差し込んで行く。
アーランドソンは叫び声を上げ、私に稲妻を放った。私の体は再び後ろに跳ね飛ばされたが、稲妻の威力は先ほどとは明らかに弱くなっていた。
その後、アーランドソンは倒れて、動かなくなったようだ。アーランドソンは人間だ。傀儡魔術の作り物ではないから、首を切り落とす必要はないだろう。
私も稲妻のダメージで倒れたまま、しばらく動けなかった。
数分立っただろうか、私は何とか立ち上がり、先ほどの女性の声のした方に向かった。そこで倒れている女性を見て驚いた。召使いのオレガだった。
「オレガ!、オレガ!」
私が声を掛け、体を起こし肩をゆすると、オレガは目を開いた。よかった、気絶しているだけだった。
「師」
私を見てかすれた声で言った。
「大丈夫ですか?」
「私なら、なんとか大丈夫だ。そっちこそ、大丈夫か?」。
オレガの意識がはっきりとしているようで、私は安堵した。
オレガは、ハッとして声を上げた。
「陛下は?」
「倒したよ。君が助けてくれたんだね。ここには、いつから居た?」
私は、オレガを落ち着かせるようと、穏やかに尋ねた。
しかし、オレガは、かなり興奮した様子で、まくし立てるように話しだした。
「召使いの控え室にいると、大きな音が何度もしたので、階段を上がってこの階に来てみると、兵隊さんがたくさんいました。その先で、師やソフィアさんたちがチューリン様と戦っているのが見えました。私は、あの奥の壁の後ろに隠れて様子を見ていました。チューリン様が倒された後、陛下と師が一緒に部屋に入って行くのが見えました。でも…嫌な予感がして、師が出て来るまで待っていようと思ったんです。そうしたら、師を追ってくる陛下のお姿が見えて。そして、陛下の話を聞いていました。陛下は偽物で、イリア様も殺してしまうとか言っていて…。そして師も殺されそうになっていたので、何とか助けようと落ちていた剣を拾って陛下に切りつけました。その後の記憶はありません」。
「アーランドソンが自分の秘密を話すのを全部聞いていたのか。君は、多分、奴の放つ稲妻にやられて、それで気を失ったんだろう」。ともかく、オレガのおかけで命拾いしたようだ。「おかげで助かった。命の恩人だ。ありがとう」。
私は改めて礼を言った。
オレガはいつから私のことを“師”と呼んでいるのだろう?
しばらくして、再び私の体は宙に浮いた。
「邪魔が入ってね」。
アーレンドソンはそう言うと、再び呪文を唱え始めた。
床に崩れ落ち、再び宙に吊り上げられるまでの短い間だったが、朦朧としていた意識がわずかながら戻っていた。
私は気力を振り絞り、先ほど拾っていたナイフをアーランドソンの首に突き立てた。
アーランドソンは、叫び声を上げて、数歩後ろに下がった。
私の体は再び床に落ちた、しかし、今度は倒れ込まずに何とかひざまずく形で体勢を保った。顔を上げるとアーランドソンが首に刺さったナイフを抜くところだった。呪文を唱えているところを見ると、再び治癒魔術を使っているようだ。
何とか次の一撃を。
私は、少し離れて落ちていた剣に手を向けた。その剣はすっと宙を横切り私の手に収まった。
それを見てアーランドソンは驚いたようだった。それもそのはずだ、私がアグネッタから念動魔術を伝授してもらったのは、ここ二週間ぐらいの前の話だ。セバスティアン・ウォルターの記憶の中に念動魔術を使う私の姿はない。
私は力を振り絞り、剣をアーランドソンの心臓めがけて突き刺した。そして、全体重をかけて剣をより深く差し込んで行く。
アーランドソンは叫び声を上げ、私に稲妻を放った。私の体は再び後ろに跳ね飛ばされたが、稲妻の威力は先ほどとは明らかに弱くなっていた。
その後、アーランドソンは倒れて、動かなくなったようだ。アーランドソンは人間だ。傀儡魔術の作り物ではないから、首を切り落とす必要はないだろう。
私も稲妻のダメージで倒れたまま、しばらく動けなかった。
数分立っただろうか、私は何とか立ち上がり、先ほどの女性の声のした方に向かった。そこで倒れている女性を見て驚いた。召使いのオレガだった。
「オレガ!、オレガ!」
私が声を掛け、体を起こし肩をゆすると、オレガは目を開いた。よかった、気絶しているだけだった。
「師」
私を見てかすれた声で言った。
「大丈夫ですか?」
「私なら、なんとか大丈夫だ。そっちこそ、大丈夫か?」。
オレガの意識がはっきりとしているようで、私は安堵した。
オレガは、ハッとして声を上げた。
「陛下は?」
「倒したよ。君が助けてくれたんだね。ここには、いつから居た?」
私は、オレガを落ち着かせるようと、穏やかに尋ねた。
しかし、オレガは、かなり興奮した様子で、まくし立てるように話しだした。
「召使いの控え室にいると、大きな音が何度もしたので、階段を上がってこの階に来てみると、兵隊さんがたくさんいました。その先で、師やソフィアさんたちがチューリン様と戦っているのが見えました。私は、あの奥の壁の後ろに隠れて様子を見ていました。チューリン様が倒された後、陛下と師が一緒に部屋に入って行くのが見えました。でも…嫌な予感がして、師が出て来るまで待っていようと思ったんです。そうしたら、師を追ってくる陛下のお姿が見えて。そして、陛下の話を聞いていました。陛下は偽物で、イリア様も殺してしまうとか言っていて…。そして師も殺されそうになっていたので、何とか助けようと落ちていた剣を拾って陛下に切りつけました。その後の記憶はありません」。
「アーランドソンが自分の秘密を話すのを全部聞いていたのか。君は、多分、奴の放つ稲妻にやられて、それで気を失ったんだろう」。ともかく、オレガのおかけで命拾いしたようだ。「おかげで助かった。命の恩人だ。ありがとう」。
私は改めて礼を言った。
オレガはいつから私のことを“師”と呼んでいるのだろう?
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる