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英雄は二度死ぬ
アグネッタの証言~英雄は二度死ぬ
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【現在】
「これが真相よ」。
アグネッタ・ヴィクストレームはゆっくりと言葉を締めくくった。
四人は固唾をのんで聞いていた。
ユルゲン・クリーガーがオレガ・ジベリゴワに斬られて死んだはずなのに、生きて帰ってきたという謎が判明した。
オレガが斬ったユルゲンは傀儡魔術で作られた偽物だったのだ。
偽物が斬られた後は、偽物は自然と土となり、遺体は消えることとなる。戦場に遺体が残らず、ユルゲンは重傷を負ったが戦場から脱出しており、怪我が治るまで潜伏していたということの辻褄を合わせることができる。
「プリブレジヌイでの革命軍と帝国軍の戦いの時も、雹を降らせたり、霧を発生させたりしたのは、あなた方の仲間なのですか?」
「そうです。プリブレジヌイにいる私たちの仲間が、革命軍が敗退するのは見過ごすことができなかったので彼らを助けました。霧を発生させたのは、クリーガーさんの偽物を隠すため。その時に、ちょうど、オレガさんが偽物を倒してくれたから、いいタイミングでした。でも、その後、彼女が偽物の遺体から離れなかったので、魔術で気絶させたとその場にいた者は言っていました」。
しかし、ヴィット王国の秘密組織が大陸全体の命運を左右していたとは、イリーナとクララは全く想像もできなかった。内容が内容だけに、うまく感想が言えなかった。
しかし、ブリュンヒルデは少し違ったようだ。彼女は果敢に質問をする。
「ヴィット王国の秘密組織が他国に内政干渉をしていたことは、私たち新聞社の調べで、ある程度はわかっています。それはいつごろまで続いたのですか?」
「二十数年ぐらい前に、“ある事件”があって、組織の規模を縮小したのよ。今は、あの頃の様に外国に干渉をしていることはないわ」。
アグネッタはそうは言うが、ブリュンヒルデは、それは本当かわからないと思って聞いていた。秘密組織は国家でも重要機密だ、過去はともかく現在の活動の内情を話すことがないだろう。しかも、アグネッタはもう引退してかなり経つようだから、現在の組織の内情などわからないのかもしれない。
「二十数年前の“ある事件”とは何でしょうか?」
「それは言えないわ」。
ブリュンヒルデは、質問を続ける。
「あなた方は、その秘密組織を“リムフロスト”(霧氷)と呼んでいるようですが」。
「そうね。昔からそう呼ばれているわ。誰が名付けたかは知らないけど、なかなか詩的な名前じゃない?」
アグネッタは微笑んで言った。
「帝国軍の“第零旅団”=“エヌ・ベー”よりは、センスはいいわね」。
クララが口を挟んだ。
ブリュンヒルデは、さらに質問を続ける。
「ユルゲンさんの秘密組織“リムフロスト”での活動を具体的に教えていただけますでしょうか」。
「人民革命軍の内情の報告が主だったわ。それとは別にヴィット王国から不法に脱出した魔術師の捜索もお願いしたことがあるわね。大きな事件としては南の大陸 “ダクシニー” からシンドゥ王国の軍隊が侵攻してきたときは、連合軍の内情の報告もお願いしたわ」。
クララが別の質問を口にした。
「お爺さまは脅されて仲間になったわけですが、裏切るなどは思わなかったのですか?」
「まず、彼にはその後も私たちの監視が行われているのは、良くわかっていたでしょうから。もし、下手に動いても無駄だということは重々承知していたでしょう。彼と言えども私たちの魔術には太刀打ちできなかったでしょうから。後は、奥さんとそのご両親を助けたことに関しては感謝してくれていたようですから、それで手伝ってくれたのかもしれませんね。まあ、彼の本心までは見抜けませんが」。
アグネッタは微笑んでクララに話しかけた。
「私がここまで話したのは、クララさんがクリーガーさんのお孫さんだったからよ。それに、今まで話したことは、とうの昔の話だから、もう “時効”ね。それに、この国でも数年内に情報公開法が成立される可能性もあるから、隠しても直にわかってしまうこともあるだろうし」。
その言葉にハッとなってブリュンヒルデが質問する。
「ヴィット王国でも情報公開法が成立しそうなのですか?」
「そうです。鎖国や秘密主義も時代に合わないんじゃないかと考える国民も増えてきています。私もそう思います。我が国もいつまでも同じではいけないのでしょう」。
「では、魔術の禁止はどうでしょうか? ダーガリンダ王国ではかなり前に魔術が禁止されているのはご存じの通りだと思います。ブラウグルン共和国やパルラメンスカヤ人民共和国でも現在、議論が進んでいます」。
「魔術の禁止については、我が国では議論は起こってないわね。ヴィット王国は魔術があってこそ国が成り立っていると言っても過言ではありませんから」。
ユルゲン・クリーガーがオレガ・ジベリゴワに斬られて死んだはずなのに数か月後、生きて現れたことと、革命軍の追っ手から何故逃れることができたのかの謎もわかった。
ヴィット王国の魔術師達が仕組んだことだったのだ。
これで、イリーナ、クララ、ブリュンヒルデが調べていた、全ての謎が解明されたことになった。
「これが真相よ」。
アグネッタ・ヴィクストレームはゆっくりと言葉を締めくくった。
四人は固唾をのんで聞いていた。
ユルゲン・クリーガーがオレガ・ジベリゴワに斬られて死んだはずなのに、生きて帰ってきたという謎が判明した。
オレガが斬ったユルゲンは傀儡魔術で作られた偽物だったのだ。
偽物が斬られた後は、偽物は自然と土となり、遺体は消えることとなる。戦場に遺体が残らず、ユルゲンは重傷を負ったが戦場から脱出しており、怪我が治るまで潜伏していたということの辻褄を合わせることができる。
「プリブレジヌイでの革命軍と帝国軍の戦いの時も、雹を降らせたり、霧を発生させたりしたのは、あなた方の仲間なのですか?」
「そうです。プリブレジヌイにいる私たちの仲間が、革命軍が敗退するのは見過ごすことができなかったので彼らを助けました。霧を発生させたのは、クリーガーさんの偽物を隠すため。その時に、ちょうど、オレガさんが偽物を倒してくれたから、いいタイミングでした。でも、その後、彼女が偽物の遺体から離れなかったので、魔術で気絶させたとその場にいた者は言っていました」。
しかし、ヴィット王国の秘密組織が大陸全体の命運を左右していたとは、イリーナとクララは全く想像もできなかった。内容が内容だけに、うまく感想が言えなかった。
しかし、ブリュンヒルデは少し違ったようだ。彼女は果敢に質問をする。
「ヴィット王国の秘密組織が他国に内政干渉をしていたことは、私たち新聞社の調べで、ある程度はわかっています。それはいつごろまで続いたのですか?」
「二十数年ぐらい前に、“ある事件”があって、組織の規模を縮小したのよ。今は、あの頃の様に外国に干渉をしていることはないわ」。
アグネッタはそうは言うが、ブリュンヒルデは、それは本当かわからないと思って聞いていた。秘密組織は国家でも重要機密だ、過去はともかく現在の活動の内情を話すことがないだろう。しかも、アグネッタはもう引退してかなり経つようだから、現在の組織の内情などわからないのかもしれない。
「二十数年前の“ある事件”とは何でしょうか?」
「それは言えないわ」。
ブリュンヒルデは、質問を続ける。
「あなた方は、その秘密組織を“リムフロスト”(霧氷)と呼んでいるようですが」。
「そうね。昔からそう呼ばれているわ。誰が名付けたかは知らないけど、なかなか詩的な名前じゃない?」
アグネッタは微笑んで言った。
「帝国軍の“第零旅団”=“エヌ・ベー”よりは、センスはいいわね」。
クララが口を挟んだ。
ブリュンヒルデは、さらに質問を続ける。
「ユルゲンさんの秘密組織“リムフロスト”での活動を具体的に教えていただけますでしょうか」。
「人民革命軍の内情の報告が主だったわ。それとは別にヴィット王国から不法に脱出した魔術師の捜索もお願いしたことがあるわね。大きな事件としては南の大陸 “ダクシニー” からシンドゥ王国の軍隊が侵攻してきたときは、連合軍の内情の報告もお願いしたわ」。
クララが別の質問を口にした。
「お爺さまは脅されて仲間になったわけですが、裏切るなどは思わなかったのですか?」
「まず、彼にはその後も私たちの監視が行われているのは、良くわかっていたでしょうから。もし、下手に動いても無駄だということは重々承知していたでしょう。彼と言えども私たちの魔術には太刀打ちできなかったでしょうから。後は、奥さんとそのご両親を助けたことに関しては感謝してくれていたようですから、それで手伝ってくれたのかもしれませんね。まあ、彼の本心までは見抜けませんが」。
アグネッタは微笑んでクララに話しかけた。
「私がここまで話したのは、クララさんがクリーガーさんのお孫さんだったからよ。それに、今まで話したことは、とうの昔の話だから、もう “時効”ね。それに、この国でも数年内に情報公開法が成立される可能性もあるから、隠しても直にわかってしまうこともあるだろうし」。
その言葉にハッとなってブリュンヒルデが質問する。
「ヴィット王国でも情報公開法が成立しそうなのですか?」
「そうです。鎖国や秘密主義も時代に合わないんじゃないかと考える国民も増えてきています。私もそう思います。我が国もいつまでも同じではいけないのでしょう」。
「では、魔術の禁止はどうでしょうか? ダーガリンダ王国ではかなり前に魔術が禁止されているのはご存じの通りだと思います。ブラウグルン共和国やパルラメンスカヤ人民共和国でも現在、議論が進んでいます」。
「魔術の禁止については、我が国では議論は起こってないわね。ヴィット王国は魔術があってこそ国が成り立っていると言っても過言ではありませんから」。
ユルゲン・クリーガーがオレガ・ジベリゴワに斬られて死んだはずなのに数か月後、生きて現れたことと、革命軍の追っ手から何故逃れることができたのかの謎もわかった。
ヴィット王国の魔術師達が仕組んだことだったのだ。
これで、イリーナ、クララ、ブリュンヒルデが調べていた、全ての謎が解明されたことになった。
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