上 下
64 / 66
英雄は二度死ぬ

アグネッタの証言~英雄は二度死ぬ

しおりを挟む
【現在】

「これが真相よ」。
 アグネッタ・ヴィクストレームはゆっくりと言葉を締めくくった。

 四人は固唾をのんで聞いていた。
 ユルゲン・クリーガーがオレガ・ジベリゴワに斬られて死んだはずなのに、生きて帰ってきたという謎が判明した。
 オレガが斬ったユルゲンは傀儡魔術で作られた偽物だったのだ。
 偽物が斬られた後は、偽物は自然と土となり、遺体は消えることとなる。戦場に遺体が残らず、ユルゲンは重傷を負ったが戦場から脱出しており、怪我が治るまで潜伏していたということの辻褄を合わせることができる。

「プリブレジヌイでの革命軍と帝国軍の戦いの時も、雹を降らせたり、霧を発生させたりしたのは、あなた方の仲間なのですか?」
「そうです。プリブレジヌイにいる私たちの仲間が、革命軍が敗退するのは見過ごすことができなかったので彼らを助けました。霧を発生させたのは、クリーガーさんの偽物を隠すため。その時に、ちょうど、オレガさんが偽物を倒してくれたから、いいタイミングでした。でも、その後、彼女が偽物の遺体から離れなかったので、魔術で気絶させたとその場にいた者は言っていました」。

 しかし、ヴィット王国の秘密組織が大陸全体の命運を左右していたとは、イリーナとクララは全く想像もできなかった。内容が内容だけに、うまく感想が言えなかった。

 しかし、ブリュンヒルデは少し違ったようだ。彼女は果敢に質問をする。
「ヴィット王国の秘密組織が他国に内政干渉をしていたことは、私たち新聞社の調べで、ある程度はわかっています。それはいつごろまで続いたのですか?」
「二十数年ぐらい前に、“ある事件”があって、組織の規模を縮小したのよ。今は、あの頃の様に外国に干渉をしていることはないわ」。
 アグネッタはそうは言うが、ブリュンヒルデは、それは本当かわからないと思って聞いていた。秘密組織は国家でも重要機密だ、過去はともかく現在の活動の内情を話すことがないだろう。しかも、アグネッタはもう引退してかなり経つようだから、現在の組織の内情などわからないのかもしれない。
「二十数年前の“ある事件”とは何でしょうか?」
「それは言えないわ」。

 ブリュンヒルデは、質問を続ける。
「あなた方は、その秘密組織を“リムフロスト”(霧氷)と呼んでいるようですが」。
「そうね。昔からそう呼ばれているわ。誰が名付けたかは知らないけど、なかなか詩的な名前じゃない?」
 アグネッタは微笑んで言った。
「帝国軍の“第零旅団”=“エヌ・ベー”よりは、センスはいいわね」。
 クララが口を挟んだ。

 ブリュンヒルデは、さらに質問を続ける。
「ユルゲンさんの秘密組織“リムフロスト”での活動を具体的に教えていただけますでしょうか」。
「人民革命軍の内情の報告が主だったわ。それとは別にヴィット王国から不法に脱出した魔術師の捜索もお願いしたことがあるわね。大きな事件としては南の大陸 “ダクシニー” からシンドゥ王国の軍隊が侵攻してきたときは、連合軍の内情の報告もお願いしたわ」。

 クララが別の質問を口にした。
「お爺さまは脅されて仲間になったわけですが、裏切るなどは思わなかったのですか?」
「まず、彼にはその後も私たちの監視が行われているのは、良くわかっていたでしょうから。もし、下手に動いても無駄だということは重々承知していたでしょう。彼と言えども私たちの魔術には太刀打ちできなかったでしょうから。後は、奥さんとそのご両親を助けたことに関しては感謝してくれていたようですから、それで手伝ってくれたのかもしれませんね。まあ、彼の本心までは見抜けませんが」。

 アグネッタは微笑んでクララに話しかけた。
「私がここまで話したのは、クララさんがクリーガーさんのお孫さんだったからよ。それに、今まで話したことは、とうの昔の話だから、もう “時効”ね。それに、この国でも数年内に情報公開法が成立される可能性もあるから、隠しても直にわかってしまうこともあるだろうし」。
 その言葉にハッとなってブリュンヒルデが質問する。
「ヴィット王国でも情報公開法が成立しそうなのですか?」
「そうです。鎖国や秘密主義も時代に合わないんじゃないかと考える国民も増えてきています。私もそう思います。我が国もいつまでも同じではいけないのでしょう」。
「では、魔術の禁止はどうでしょうか? ダーガリンダ王国ではかなり前に魔術が禁止されているのはご存じの通りだと思います。ブラウグルン共和国やパルラメンスカヤ人民共和国でも現在、議論が進んでいます」。
「魔術の禁止については、我が国では議論は起こってないわね。ヴィット王国は魔術があってこそ国が成り立っていると言っても過言ではありませんから」。

 ユルゲン・クリーガーがオレガ・ジベリゴワに斬られて死んだはずなのに数か月後、生きて現れたことと、革命軍の追っ手から何故逃れることができたのかの謎もわかった。
 ヴィット王国の魔術師達が仕組んだことだったのだ。

 これで、イリーナ、クララ、ブリュンヒルデが調べていた、全ての謎が解明されたことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍発売中です 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...