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人民革命
オレガの証言~人民革命~その4
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【現在】
大陸歴1710年5月3日・パルラメンスカヤ人民共和国・首都アリーグラード
「あの時の人々の熱気といったら、今では想像もできないわね。誰もがひどい生活に耐えていたからその鬱憤、怒りが爆発したのね」。
「民衆のデモは自然に大きくなって行ったんだけど、最初、ナタンソーン達は静観しようと思っていたのよ。でも、夜になっても人々は解散せず、次の日の朝まで集会が続いたのよ。その熱狂をみてナタンソーンは表に出て決起を促すようにしたのよ」。
イリーナとクララはそのことは書物で読んだことがあった。何十万人という人々が革命の為に決起したのだ。
オレガは話をつづけた。
「男も女も老いも若きも、手に木の棒や農作業で使うような鎌などを持って帝国軍と戦おうとしていたわ」。
「そんな武器とも言えない者で軍と戦おうなんて勇気があったんですね」。
イリーナは感心したように言う。
「勇気というより、やはり怒りだわ。それこそ、帝国の建国以来二百五十年はこの地域は虐げられてきたわけがだから」。
「二百五十年の恨みかあ」。
クララは感嘆して、ため息をついた。
「私があなたのお爺様の弟子になったのも、自分の現状を変えたいというのもあったけど、あの状況を何とか変えることができないかと思ったのよ。自分が強くなって生まれた土地のことを良くしたいとね」。
「じゃあ、その願いは叶ったということですね」。
「そうね。でも、お爺様を傷つけてしまった」。
オレガは寂しそうにうつむいた。
「お爺さまは、結局、最後まで帝国や皇帝に忠義を感じて、帝国軍の指揮官として革命軍と戦った。だから、私とは敵同士。そういう事があったからか、彼は私以降、弟子を取らなかったようね」。
“深蒼の騎士” は剣術、魔術の伝承に徒弟制度を取っているが、ユルゲンは生涯にたった三人と他の者が生涯に十数名弟子を取っていたことに比べて極端に少ない。
共和国が帝国占領されていたなどのごだごだもあったが、帝国や人民共和国時代に弟子を取ることを禁止されていたわけでもなさそうだ。その証拠にオレガ、オットー、ソフィアが弟子であった期間は、帝国軍に所属している時だ。
「オレガさんのせいですか?」
イリーナが尋ねると、オレガは少し俯いて静かに話した。
「いくつか、理由はあると思うけど。“深蒼の騎士”は共和国の制度であったこと。師は帝国の人間としての人生を送ったから、その後は弟子を取る気持ちはなかったのでしょう」。そして、オレガは少し暗めの声で付け加えた。「あとは、弟子である私が、彼の敵になってしまったことも影響はあったかもしれないわね。彼は口には出さなかったけれど、きっとそう感じていたに違いないわ」。
イリーナはそれには口には出さなかったが、考えすぎでは?と思った。
「じゃあ、話の続きをするわね」。
オレガはそう言って話し始めた。
大陸歴1710年5月3日・パルラメンスカヤ人民共和国・首都アリーグラード
「あの時の人々の熱気といったら、今では想像もできないわね。誰もがひどい生活に耐えていたからその鬱憤、怒りが爆発したのね」。
「民衆のデモは自然に大きくなって行ったんだけど、最初、ナタンソーン達は静観しようと思っていたのよ。でも、夜になっても人々は解散せず、次の日の朝まで集会が続いたのよ。その熱狂をみてナタンソーンは表に出て決起を促すようにしたのよ」。
イリーナとクララはそのことは書物で読んだことがあった。何十万人という人々が革命の為に決起したのだ。
オレガは話をつづけた。
「男も女も老いも若きも、手に木の棒や農作業で使うような鎌などを持って帝国軍と戦おうとしていたわ」。
「そんな武器とも言えない者で軍と戦おうなんて勇気があったんですね」。
イリーナは感心したように言う。
「勇気というより、やはり怒りだわ。それこそ、帝国の建国以来二百五十年はこの地域は虐げられてきたわけがだから」。
「二百五十年の恨みかあ」。
クララは感嘆して、ため息をついた。
「私があなたのお爺様の弟子になったのも、自分の現状を変えたいというのもあったけど、あの状況を何とか変えることができないかと思ったのよ。自分が強くなって生まれた土地のことを良くしたいとね」。
「じゃあ、その願いは叶ったということですね」。
「そうね。でも、お爺様を傷つけてしまった」。
オレガは寂しそうにうつむいた。
「お爺さまは、結局、最後まで帝国や皇帝に忠義を感じて、帝国軍の指揮官として革命軍と戦った。だから、私とは敵同士。そういう事があったからか、彼は私以降、弟子を取らなかったようね」。
“深蒼の騎士” は剣術、魔術の伝承に徒弟制度を取っているが、ユルゲンは生涯にたった三人と他の者が生涯に十数名弟子を取っていたことに比べて極端に少ない。
共和国が帝国占領されていたなどのごだごだもあったが、帝国や人民共和国時代に弟子を取ることを禁止されていたわけでもなさそうだ。その証拠にオレガ、オットー、ソフィアが弟子であった期間は、帝国軍に所属している時だ。
「オレガさんのせいですか?」
イリーナが尋ねると、オレガは少し俯いて静かに話した。
「いくつか、理由はあると思うけど。“深蒼の騎士”は共和国の制度であったこと。師は帝国の人間としての人生を送ったから、その後は弟子を取る気持ちはなかったのでしょう」。そして、オレガは少し暗めの声で付け加えた。「あとは、弟子である私が、彼の敵になってしまったことも影響はあったかもしれないわね。彼は口には出さなかったけれど、きっとそう感じていたに違いないわ」。
イリーナはそれには口には出さなかったが、考えすぎでは?と思った。
「じゃあ、話の続きをするわね」。
オレガはそう言って話し始めた。
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