地下アイドルを推してたワープアコミュ障陰キャな僕だけど気付いたら執着系ハイスペイケメンに僕が推されて(性的にも)磨かれました?

黒川

文字の大きさ
上 下
77 / 80
その他(設定・番外編 等)

ファンブック、お渡し会  中編

しおりを挟む

 思いがけない話題を出されて、顔が強張る。反射的に体を起こした和彦は口を動かしはするものの、言葉が出ない。自分が何を言いたいのか、思考が追い付かないのだ。まず頭に浮かんだのは、血なまぐさい事態が起こったのではないかというものだった。
「安心しろ。表立って物騒なことになっているわけじゃない。むしろ――」
「むしろ?」
 鷹津は皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「気になるか?」
「気にならないはずがないだろ」
 取り繕ったところで意味はなく、正直に答える。少しの間沈黙したあと、鷹津は意外なことを口にした。
「俺は、長嶺を脅した」
「……本当に命知らずだな、あんた」
「いまさらだな。――電話越しだったが、それでもあいつが心底怒っているのは伝わってきた。さすがに寒気がしたが、まあ、仕方ない。俺なんかに煽られる、あいつが悪い」
 ここに来てから和彦は、賢吾だけでなく、長嶺組や総和会絡みの話題は避けるようにしていたが、今夜は気負うことなく触れることができた。そのタイミングが訪れたということだろう。一生触れないまま、ここにいるわけにはいかないのだ。
「俺は総和会という組織が昔から嫌いだ。ヤクザの生き血を啜るひるみてーなものだ。性質が悪すぎて反吐が出る。だからといって、木っ端の警官にできることなんてない。それは、組織犯罪対策の刑事になったあとも変わらなかった。気がつけば、俺もヤクザと生き血を啜り合う仲だ。俺はこの程度の人間なんだと納得していたが――……」
 意味ありげな視線を向けられ、和彦はベッドに座り直す。
「長嶺には、何度も警告していた。てめーのオンナを、総和会に近づけるなと。だがどうだ。あっさり取り上げられて、囲い込まれる寸前だった」
 鷹津の声にわずかに滲むのは、怒りだった。咄嗟に和彦は、鷹津の腕に手をかける。
「あの人の……、賢吾の立場の特殊さはわかってるだろ」
「お前のそういうところが、長嶺を調子づかせたんだ。だいたい、何もかもわかったうえで、ヤクザになったはずだ。大事なものを取り上げられたくなかったら、そもそも、お前みたいな人間を薄汚い世界に引きずり込むべきじゃなかった」
 ここまで言って鷹津は忌々しげに唇を歪めたあと、大きく息を吐いた。
「……ムカつくが、長嶺がお前を引きずり込まなきゃ、俺とお前が出会うこともなかった」
 後悔はしていないと鷹津は言い切る。
「お前のおかげで、俺の人生はけっこうおもしろいものになってきた。ヨボヨボのじじいになるまで退屈したくないが、そのためには、どうしたって長嶺には踏ん張ってもらわなきゃならない。お前が総和会の檻に閉じ込められると、俺が困るんだ」
「賢吾を脅したって、つまり――」
「総和会と、自分の父親を抑える目処がつくまで、お前を返さないと言った。お前の父親である佐伯俊哉が、資金やらなんやらと手を貸してくれたのは、やっぱりお前が総和会の手の中にあるのは困るからだ」
 和彦は、俊哉のことを考えた途端、胸苦しさに襲われる。膝を抱えると、鷹津は上着を肩からかけてくれた。自らの社会的地位を守るために、俊哉は立ち回っているという側面は確かにあるだろうが、それだけではない。佐伯俊哉という人間が抱えた闇は深く、その闇と同じものを抱えているのは、この世で守光だけなのだと、確信めいたものが和彦にはあった。
 血の縛りを愛す男と、血の縛りを厭う男が、駆け引きを繰り広げているのだ。
「――……お前の態度次第では、縛り上げてでも、ここから出すなと言われていたんだ」
「父さん、が?」
「他に誰がいる」
 多くを語らない間、鷹津が自分を観察していたのだと知っても、負の感情は湧かなかった。俊哉から何かしら任務を課されていたのは明らかだったし、実際のところ、鷹津は自由に行動させてくれたのだ。
「正直なところ、お前が長嶺のことを聞きたがらなかったのは、意外だった。他人の顔色をうかがうのが上手いお前のことだから、俺が機嫌を損ねると思って話題にするのを避けていた……というだけじゃないだろ」
 和彦はぐっと唇を噛むと、膝に額を押し付ける。
「和泉の家を出てから、ずっと不安だった。自分がどこに帰ったらいいのか、わからなかったんだ。佐伯の家は、ぼくが本当に帰っていい場所じゃないのはわかった。総和会はもっと違う。長嶺組は……。帰ったら、面倒が起きるのはわかりきってる。それでなくても、賢吾を難しい立場に追いやっているのに」
「最初にお前を難しい立場に追いやったのは、あいつだ。なんなら、お前をさっさと手放すこともできたのに、それをしなかった」
 怒りを押し殺すように、鷹津の声が低く掠れる。和彦がそっと顔を上げると、鷹津は真っ直ぐ正面を見据えていた。まるで誰かを睨みつけるように。和彦の視線に気づくと、決まり悪そうに顔をしかめる。
「……執着心ってのは厄介だな。ヤバイと頭ではわかっていても、手を引けない。もっと欲しいと思っちまう」
「本当にバカだ。悪徳刑事のままでいられたのに、辞めるなんて」
「おい。俺は長嶺の話をして――」
 途中で言葉を切った鷹津は、数拍の間を置いてからこう言った。
「帰る先が不安なら、ずっとここにいるか? 生活のことは心配しなくていい。俺がなんとかする」
 現実的ではない申し出だと、おそらく言った本人である鷹津もわかっている。和彦は小さく声を洩らして笑った。
「初めて会ったときのあんたに聞かせたい台詞だな、それ。ぼくのこと、養ってくれるのか」
「お前のことだから、いままで何人もから言われてきて、新鮮味もないだろ」
 和彦が、そっと鷹津の手を握り締めると、きつく手を握り返される。否定しないところが性質が悪いとぼやきながら。
「――お前の父親は、総和会会長より、その息子を扱いやすいと見ている。俺にしてみりゃ、顔馴染みの分、長嶺の蛇の尾なんて踏みたくないが、あっちはあっちで総和会会長と昔馴染みのようだから、気質をよくわかっているのかもな。なんにしても、同じ業界にいる父親に息子をぶつけるというのは、手段として正しい。俺たちは待つだけだ」
「待つだけ……」
「長嶺父子と佐伯俊哉の三つ巴だ。それぞれに面子があって、通したい要求がある。お前の身柄を抑えている分、佐伯俊哉が有利ともいえるが、その代わり、社会的地位が足枷となる。交渉にどうカタをつけるか、当事者のお前は気になって仕方ないだろ?」
 和彦はそっと嘆息した。
「弱っているときに、そんなことを聞かされなくてよかった。安定剤なしで、眠れる気がしない」
「今は?」
「……しばらくライトをつけていてくれ。さすがに今夜は、いろいろと考え込みそうだ」
 考える素振りを見せたあと、鷹津は再びベッドを出た。
「やっぱりお茶を淹れてきてやる。俺はコーヒーにする。――夜更かしにつき合ってやる」
 優しいな、と呟いた和彦は、微笑んで頷いた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...