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本編

6-7 里帰りの、寮母♂さん。

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子どもはもう寝る時間。
でも、大人が寝るにはまだ早い時間。

寮母♂さんと庭師は寝室で少しだけお酒を飲むことにしました。
ちなみに、タマサワリノギの時では、寮母♂さんは嗜む程度。庭師は飲んでいません。

「子ども2人を連れて帰る事を考えればな……」

と、庭師。
お酒は嫌いではないみたいです。
寮母♂さんの秘蔵コレクションから、トロリと甘い白葡萄酒が振る舞われました。

おつまみには、カリカリにキャラメリゼされたナッツとデザートチーズです。

「あは、俺この組み合わせ好き」

庭師はチビチビとお酒を飲みながら、カリカリとナッツを食べます。

「庭師、タマサワリノギの前に話していた、お前のこれからの事なんだが」

寮母♂さんが切り出しました。
どうやら考えがあるみたいです。
庭師の本職は薬師です。
ただ、この村で薬師を営むための環境が整えられず、庭師をしているのだと彼は言っていました。
それならば、と寮母♂さんは考えたのです。

「この家、お前に貸すのはどうだろうか?そうすれば薬師の条件も揃うだろう?今は手入れされていないが、薬草を育てる環境もある」

庭師は目を見開きました。
けれども、お口の中に入れたキャラメリゼのナッツは引き続きカリカリカリカリと噛み締めています。

「無理にとは言わねぇ。けど……今住んでる所もアレだって賃貸だろ?家族3人で住むには、、その、手入れがもう少し必要に思えた。ここなら、あの家より雨風凌げるし、部屋数もある。俺の里帰りの時は、泊めて貰う事になるが、それでも良」

「いいのか?」

寮母♂さんの言葉を遮るように庭師が聞きました。

「使われないで年1回の空気の入れ替えと掃除だけで保管されるより人が住んでくれた方が、この家も喜ぶと思う」

寮母♂さんは、まだ両親が健在だった頃を思い出しました。
このお家は、寮母♂さんが小さい頃から、ご両親と一緒に住んでいた場所です。
今の大きなベッドも、幼い頃ご両親と3人で寝ていたベッドなのです。

「家賃はどのくらいだ?」

「うーん、別に金が欲しくてお前に言ってるワケじゃねぇ。本当は要らないと言いたい所だが、それはお前が嫌がるだろ?」

「まぁ、そうだな」

「んじゃ……こんくらいで」

そう言って寮母♂さんが提示した額は、今の賃貸の金額よりかなり抑えられた額でした。

「それは……俺にとってはかなりありがたい額だが……お前は本当にいいのか?」

「問題無ぇ。ただし、俺が里帰りした時は泊めて欲しい」

「そんなの当たり前だろう」

「じゃぁ、問題無ぇな」

契約成立だ、と寮母♂さんはお口の中で呪文を練りました。
そしてスルスルとお口の中から青白い光が紐のように出てきます。

「相変わらずキメェな、それ」

庭師は得体の知れないモノに遭遇した時のような、しかめっ面を寮母♂さんに向けます。
寮母♂さんはお構いなく、お口から青白く光る紐を練り出し、右手を庭師に向けました。
すると、庭師も寮母♂さんの右手に自分の手を重ねます。
重ねた手をグルグルと巻き付ける様に、寮母♂さんのお口から出た青白く光る紐が絡み付きます。

「チンタイケイヤクカンリョウ」

寮母♂さんが契約の呪文を唱えると、2人の腕に絡み付いていた紐は、パァッと一瞬赤く強く光ると直ぐに消えました。
そして、2人の手首は内側に同じマークが浮かび上がります。
大きさは、親指の爪くらいなので目立つ事はありません。
これで、お家の契約が完了しました。

「明日は引越しだな」

クイッとコップに入ったお酒を飲み干すと、庭師もそれに倣って飲み干しました。

そろそろ、大人のお喋り時間もおしまいです。
2人でお酒と食器を片付け、液体歯磨きで口をすすぐと、もう寝る時間です。
大人2人、子ども2人で寝ても十分な広さがあるベッドに入ろうとすれば……

「ありゃ……」

兄弟は仲良くしっかり2人でしがみついて、ベッドの壁側で団子の様になって寝ているのです。

「そんな端で寝なくてもなぁ?」

寮母♂さんは苦笑いしながら庭師に言いました。

「いや、子どもなんてこんなもんだよ。デカい布団に寝かせてもはみ出るし絡まるし乗ってくる。これ隣で寝るだろ?1人は俺の顔に乗り上げるし、1人は俺の腹の上に乗ってる」

「そりゃ大変だ」

寮母♂さんはゲラゲラと笑いました。

「お前もいい機会だ。あいつらの隣に寝てみろ」

庭師がけしかけると、寮母♂さんは「そりゃぁいい」と喜んで兄弟の隣に寝そべりました。
その横には庭師が寝そべります。
大きなベッドなので、子ども2人、大人2人が寝ても十分な広さがありました。

「「おやすみ」」

寝室の明かりを消して、2人も就寝です。


𓂃𓈒𓂂𓏸


チュンチュンと、窓の外から小鳥の囀りが聞こえてきます。
陽の光も、柔らかく窓辺を照らしています。

朝が来ました。

1番先に目を覚ましたのは、寮母♂さんでした。
状況を確認して、少しだけ身動ぎをしてベッドの上での居住まいを整えます。

「なるほど?」

何かを納得したみたいです。
寮母♂さんの口の端がニュッと上がりました。
楽しそうですね。

次に目を覚ましたのは、庭師でした。
見慣れない天井に一瞬驚き、寝たままキョロキョロと周囲を確認し、納得顔をしました。
寮母♂さんのお家にお泊まりした事を一瞬忘れてしまってたみたいですね。
そして庭師は、もう一度寮母♂さんの方を向きました。

「……おまえら……」

そう呟くと、寮母♂さんも庭師の方に顔を向けて笑いました。

「おはよう。庭師が言ってた事、理解した」

そう。兄弟2人はゴロンゴロンと寝相に寝相を重ね、最終的には二人揃って寮母♂さんの雄っぱいを枕にするように、寮母♂さんに乗り上げ、うつ伏せでスヤスヤと眠っていたのです。
因みに、左の雄っぱいを枕にしているのが弟君で、右の雄っぱいを枕にしているのがお兄ちゃんです。
どちらも幸せそう。

「俺の時と全然違う!なんか可愛いじゃねぇか!」

「確かに可愛いだけだな。それに両手にすっぽりと収まりがいいぜ?この2人。これなら毎晩でもいいなぁ」

「違う……!もっと酷ぇ……もっと酷ぇんだよ!!おい!お前ら!お前らの本気はそんなもんじゃねぇはずだ!!!」

庭師が大声で2人を起こします。
兄弟たちはムニャムニャ言いながら、寮母♂さんの雄っぱいをモミ……と揉み始めました。

「んぁ……こらこら、揉まない揉まない」

思わず寮母♂さんも声が漏れます。

「うわっ。寮母♂すまん。ほら!起きろ!!」

庭師が強引に兄弟2人を寮母♂さんから引き剥がしました。

「やぁーん」
「とうちゃんおはよー」

嫌がったのは、お兄ちゃん。
いい子にご挨拶出来たのは弟君でした。
そして弟君は、ちゃっかり庭師に引っ付いて抱っこされています。
お兄ちゃんは……寮母♂さんに抱っこされていますね。

「おい、息子ら。急で悪いが、あの家を引っ越す。寮母♂がこの家を貸してくれる事になった」

「え?」
「え?」

兄弟が同じお顔をしてビックリしています。

「なぁ、父ちゃんの本当の仕事を知ってるか?」

寮母♂さんが、お兄ちゃんに聞きました。

「知ってるよ。くすりやさんでしょ?」

「そうだ。で、その薬屋をするために、俺の家を貸す事になったんだ」

寮母♂さんは、お兄ちゃん頭を優しく撫でながら説明をしました。

「そういう事だ。お前らも、もうちょっとマシな生活が出来るようになるからな」

庭師が自虐的に言うと、

「僕は父さんと一緒に暮らせるなら、何処だって構わないよ」

「僕も、父ちゃんが一緒ならお家はどこでもいいよ」

幼い兄弟は、ハッキリと答え、寮母♂さんはお兄ちゃんを、庭師は弟君をムギュギュギューっと抱きしめるのでした。
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