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第二章 仲間探求編
45、何ものにも代え難い者
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アデルがナツメたちと相対している頃。残されたメイリーンにとって、コノハとの二人きりの状況は当に艱難辛苦であった。
「…………」
「…………」
(ち、沈黙が辛い……)
静かな森の中、メイリーンはコノハに対してどう切り出せばよいのか分からず、冷や汗をダラダラと流し続けている。
一方のコノハはボーっと空を見つめるばかりで、メイリーンのことなど見えていないのでは無いかと思える程であった。
メイリーンは未だ、コノハがどういう人間なのか全く知らず、そもそも本人が記憶喪失である。どう切り出すのが正解なのか分かるはずも無かった。
「あ、あの……コノハ様?」
「……?」
「な、何かお飲みになりますか?喉、乾きませんか?」
「……なに?」
メイリーンの言っている意味が分からなかったのか、コノハはキョトンと首を傾げてしまう。思わずメイリーンは苦笑いを浮かべるが、水筒からお茶を注いでコノハに差し出してやる。
「……かか、の……サンドイッチ?」
「これはサンドイッチでは無く、お茶ですよ」
コノハが先刻食べたサンドイッチのことをキチンと覚えていたことが嬉しく、メイリーンは破顔しながら彼の勘違いを訂正した。
「お、ちゃ」
「はい。お茶です」
カップに注がれたお茶をジッと見つめると、コノハはそれを口に含んでみた。すると、彼の口の中からカチカチという妙な音が聞こえ、メイリーンは首を傾げる。
「…………」
「こ、コノハ様?お茶は飲み物なので、噛まなくてもよいのですよ?」
「?」
「そのまま、飲み込んでください」
コノハはサンドイッチの時と同じ要領でお茶を食べようとしており、メイリーンはすぐにその間違いを正してやった。コノハは口に含んだお茶を飲みこむと、すぐに要領を得たのか二口目を飲み始める。
そんな彼を見守っていたメイリーンはふと、ある疑問を覚えた。
(それにしても……食べ方も飲み方も忘れて、記憶を失ってからコノハ様はどうやって生き延びてきたのかしら?ずっと森にいることしか覚えていないと仰っていたから、記憶喪失になってからそれなりに時間が経っているはずなのに……)
記憶を失ってからどれ程の時間が過ぎているのかは分からないが、一日二日では無いことは明らかだ。そうでなければ、「ずっと森にいたのか」というリオの問いに肯定などしないはずだから。
だがそうなると、コノハがこれまで飲まず食わずでどのようにして生き延びたのか理解不能なので、メイリーンは思わず首を傾げてしまう。
「かか……おちゃ……ありがとう」
「っ!……どういたしまして」
思いがけずコノハから感謝され、メイリーンは一瞬呆然としたが、すぐに破顔一笑した。
微笑ましい空気が流れていたかと思うと、突如それに揺らぎが生じた。その揺らぎの発生元へと視線を移したメイリーンたちは、驚きで硬直してしまう。
視線の先には、転移術で帰ってきたアデルたちがおり、突如知らない人間が二人追加されて戻ってきたので、その驚きは一入である。
「っ!?……びっくりしました…………転移術って、心臓に悪いですね」
「すまぬメイリーン。コノハの面倒を見てくれてありがとう」
「いえ……」
メイリーンは転移術を何度か経験しているのですぐに正気を取り戻したが、コノハは初めて目の当たりにしたのでポカンと口を半開きにしてしまっている。
「本当に一瞬で移動できるなんて……」
「驚きですね……お嬢様」
だがそれはナツメたちも同じで、一瞬にして千キロもの距離を移動してしまった事実に、困惑を隠しきれていない。
「え、えっと……どういう状況ですか?リオ様、また眠られてしまわれたのですか?」
「ととにごう、ねてる」
「リオ。話があるから起きてくれ」
「んぅ……アデルんの、背筋……」
「リオは筋肉が好きであるな」
リオに起きるよう促してみるが、彼はアデルの背筋にしがみつくばかりで、起きるのを渋っている。
「筋肉が嫌いな女子なんていないでしょ……って俺今男だったわ」
「妙なことに食いついて起きるであるな、リオ」
「おっはよう!アデルんの背中で目覚めるって清々しいよね!」
ふとしたアデルの呟きに反応して目を覚ましたリオは、起きて早々ハイテンションで相変わらずの笑みを浮かべた。
「あれ?何この全員集合状態」
「少し相談があるのだ」
「「?」」
アデルの背から下りたリオは、見知った顔が全て揃っている状況に思わずキョロキョロと目を回してしまう。
そして。揃って首を傾げたメイリーンたちに、アデルは事の経緯を語るのだった。
********
「いやアデルん。お人好しにも程があるわよ」
話を聞き終えて開口一番、リオは呆れた様にそう言った。アデルの後ろでナツメとルークが激しく頷く中、アデルはリオの発言が想定外だったのか、虚を突かれたような顔をしている。
「…………すまぬ?」
「何で疑問形なのよ。まったく……メイメイも何か言ってやってよ」
「えっと……私は別に構わないんですけど……」
「「…………」」
当惑気味に自身の意見を素直に述べたメイリーンに、ナツメたちは驚きのあまり口を半開きにして呆けてしまう。だがリオはそこまで驚いておらず、寧ろ予期していたかのようにため息をついた。
「そりゃ俺だって構いはしないんだけどさ」
「構わないんですか!?」
「え?」
「い、いえ……続けてください」
斜め上の方向からまたもや想定外な事実が発覚してしまったので、ナツメは思わず驚きで声を張り上げた。だが、ほんの少しいらついた様子のリオの一言の圧に負けてしまい、ナツメは発言の主導権を譲った。
「俺が言いたのはね、お人好しが過ぎて危機管理能力下がってるの良くないわよってこと」
「……なるほど」
「言っとくけどメイメイもだからね」
「あ……はい。すみません……」
リオが至極真面な意見を述べているという事実に当惑しつつ、アデルは納得の声を上げた。他人事のようにポケーっとしていたメイリーンだが、リオの指摘でシュンとしてしまう。
「っていうか、俺本来真面キャラじゃないの。自由にのほほんとしていたいの。出来ることならずっと寝てたいの。なのにアデルんたちが天然なせいで俺がしっかりしないといけない状況に追い込まれてるの。非常に不服なの。アンダースタンド?」
「……リオは難しいことを言うであるな」
正直リオの発言のほとんどを理解できなかったアデルは、目を白黒とさせてしまう。一方のメイリーンは、アデルと同じ天然という括りにされたことに若干のショックを受けていた。
「というわけで。真面キャラはそこのルーくんに任せるわ。君イケメンだし一番真面そうだし中々図太そうだから。シクヨロね」
「……それはつまり、リオ様も私たちが仲間に加わることを了承するということですか?」
「うん。もうツッコみ役は懲り懲りよ」
サラッとルークにあだ名をつけた相変わらずのリオだが、それをツッコんでいる余裕は彼には無い。急に名指しされて目を丸くしたルークは、リオまでもが了承したことが信じられなかった。イケメンは全く関係ないが、リオのルークに対する印象は間違っていないのだ。
「……どうなされますか?お嬢様」
「……わ」
「お嬢様!?ルーくんってまさか執事なのっ!?」
「っ……そう、ですが……?」
ルークの問いに答えようとしたナツメの声を遮ってまで、リオはお嬢様という単語に過剰反応した。前世の記憶があるリオにとって、執事というのは興奮せざるを得ないキャラクターのようだ。
鼻息を荒くしたリオにガッチリと肩を掴まれたルークは、困惑気味に答えた。
「ふぉぉぉぉ……リアル執事だ。しかも全身黒とか完璧かよ…………よっし!文句無しよ!むしろ仲間にならないと怒るから!」
「「えぇ……」」
目をキラキラとさせながら、随分とご機嫌な様子で当初の意見を翻したリオを目の当たりにし、ナツメたちは彼の性格の一端を垣間見てしまった。
「……で。お嬢様は先程何を言おうとしたのですか?」
「……」
最終確認するようにルークが尋ねると、ナツメは意を決した様に拳を握り締め、顔を上げる。
「私は、もう二度とルークに傷を負わせたくありません。ルークを失う恐怖を、二度と感じたくありません」
「お嬢様……」
ナツメとルークの過去を、アデルたちは何一つ知らない。だからこそ、彼女のその意思に込められた感情を理解できるのはルークだけだが、ナツメの言葉に息を呑んだのは、彼だけでは無かった。
「アデル様たちの迷惑になるかも、いえ……なります。断言できます。ですが、それでも……私はルークとの未来がより確実な選択肢を取りたい。……だから……お願いします。アデル様たちのお力を貸してください」
ナツメが深く頭を下げると、その意思を汲んだルークも同じように頭を下げた。
ナツメは誰よりも、何よりも。ルークのことが大事なのだ。例えアデルの優しさに甘えても、迷惑をかけても、その選択を取って誰かに罵られようとも。ルークの命に代えることなどできない。この手段を選んで、ルークが生き延びる可能性がより上がるのであれば、ナツメにとってそれが全てだった。
だがその考えは、ルークと全く同じものでもあった。寧ろ従者である彼の方が、主人であるナツメを守りたいという気持ちは顕著にあるだろう。
だからこそ。同じ気持ちを共有しているからこそ、二人揃って頭を下げたのだ。
「もちろんである」
そんな二人の姿に思わず笑みを浮かべると、アデルたちは彼らを歓迎した。
こうして。ナツメとルークの二人が、新たなレディバグの仲間に加わったのだった。
********
「それでリオ。移動手段の構想は出来たのであるか?」
「もうばっちしよ。それにルーくんも精密機械作るの得意みたいだし、手伝ってもらったから大分楽だったわ」
仲間が増えた際に、どのようにして移動するのかという問題がさっそく現実のものになってしまったので、アデルは構想を練っていたリオに進捗を尋ねた。
ナツメの超絶的な狙撃を可能にしている狙撃銃の制作者がルークであることを知ったリオは、製作しようとしている移動手段の構想、設計を手伝ってもらったのだ。
ルークは頭の回転が速く、提示された問題に対してある程度の答えを出すことが出来るので、リオはその才能に目を瞠った。
「それで?何をどのようにするのだ?」
「乗り物を作ろうと思うんだけど、アデルんのジル使わせてくれない?」
「もちろんである。我はジルを提供するだけで良いのか?」
「うん。操作は俺とルーくんがやるから」
アデルは二人に自身のジルを自由に使わせるため、メイリーンにやった物と同じ指輪を一時的に手渡した。赤い輪に黒く輝く石が嵌めこまれた指輪を介して、アデルのジルを送ることが出来るのだ。
二人はその指輪をはめると、早速リオの思い描く乗り物の制作に取り掛かる。
とは言っても、ジルを原料に作る乗り物なので、イメージさえ強固であれば一瞬にして完成してしまうのだが。
「――テッテレー、ワゴン車ぁ」
「「…………」」
突如現れた巨大な鉄の塊――ワゴン車にアデルたちは茫然自失としてしまい、リオの小ネタにツッコむ余裕も無い。丸くした目を頻りに瞬きさせ、目の前の異物に釘付けである。
黒く四角い車体に、赤いヘッドライト。どう考えてもアデルの色をした車を作りたかったリオのイメージが影響されまくっている出来である。
「何ですか?その効果音」
「コッチの話だから気にしないで」
「?」
リオ以外で唯一完成品をイメージ出来ていたルークが代わりに彼の前世ネタをツッコんでやったが、リオの返答は相変わらずなので事情を知らない二人は首を傾げてしまう。
「ルーくん運転の仕方分かる?」
「はい。作る段階でこのワゴン車の構造は頭に入れましたから」
「やったぁ……実は俺が運転しなきゃだよなぁって最初は思ってたんだけど、ルーくんが運転できるなら万々歳よ。俺はなーんにも心配せずに、思う存分車の中で眠れるわ」
車という乗り物はこの世界に存在しておらず、操作方法が分かるのも当然リオただ一人のはずだった。なのでリオは移動中一切眠ることが出来ない点だけを危惧していたのだが、その心配が無くなったのでリオは一気にだらけてしまう。
「リオがいた世界にはこのような物があるのだな……驚きである」
呆けたように言ったアデルの感想は、リオ以外の全員が同調せざるを得ないものであった。この世界の移動手段と言えば、馬といった動物を使役するものや、操志者が船などの乗り物をジルの力で操作するものばかりなので、誰でも練習すれば運転できる乗り物というのは、この世界の人間にとって画期的なものだったのだ。
「…………」
「…………」
(ち、沈黙が辛い……)
静かな森の中、メイリーンはコノハに対してどう切り出せばよいのか分からず、冷や汗をダラダラと流し続けている。
一方のコノハはボーっと空を見つめるばかりで、メイリーンのことなど見えていないのでは無いかと思える程であった。
メイリーンは未だ、コノハがどういう人間なのか全く知らず、そもそも本人が記憶喪失である。どう切り出すのが正解なのか分かるはずも無かった。
「あ、あの……コノハ様?」
「……?」
「な、何かお飲みになりますか?喉、乾きませんか?」
「……なに?」
メイリーンの言っている意味が分からなかったのか、コノハはキョトンと首を傾げてしまう。思わずメイリーンは苦笑いを浮かべるが、水筒からお茶を注いでコノハに差し出してやる。
「……かか、の……サンドイッチ?」
「これはサンドイッチでは無く、お茶ですよ」
コノハが先刻食べたサンドイッチのことをキチンと覚えていたことが嬉しく、メイリーンは破顔しながら彼の勘違いを訂正した。
「お、ちゃ」
「はい。お茶です」
カップに注がれたお茶をジッと見つめると、コノハはそれを口に含んでみた。すると、彼の口の中からカチカチという妙な音が聞こえ、メイリーンは首を傾げる。
「…………」
「こ、コノハ様?お茶は飲み物なので、噛まなくてもよいのですよ?」
「?」
「そのまま、飲み込んでください」
コノハはサンドイッチの時と同じ要領でお茶を食べようとしており、メイリーンはすぐにその間違いを正してやった。コノハは口に含んだお茶を飲みこむと、すぐに要領を得たのか二口目を飲み始める。
そんな彼を見守っていたメイリーンはふと、ある疑問を覚えた。
(それにしても……食べ方も飲み方も忘れて、記憶を失ってからコノハ様はどうやって生き延びてきたのかしら?ずっと森にいることしか覚えていないと仰っていたから、記憶喪失になってからそれなりに時間が経っているはずなのに……)
記憶を失ってからどれ程の時間が過ぎているのかは分からないが、一日二日では無いことは明らかだ。そうでなければ、「ずっと森にいたのか」というリオの問いに肯定などしないはずだから。
だがそうなると、コノハがこれまで飲まず食わずでどのようにして生き延びたのか理解不能なので、メイリーンは思わず首を傾げてしまう。
「かか……おちゃ……ありがとう」
「っ!……どういたしまして」
思いがけずコノハから感謝され、メイリーンは一瞬呆然としたが、すぐに破顔一笑した。
微笑ましい空気が流れていたかと思うと、突如それに揺らぎが生じた。その揺らぎの発生元へと視線を移したメイリーンたちは、驚きで硬直してしまう。
視線の先には、転移術で帰ってきたアデルたちがおり、突如知らない人間が二人追加されて戻ってきたので、その驚きは一入である。
「っ!?……びっくりしました…………転移術って、心臓に悪いですね」
「すまぬメイリーン。コノハの面倒を見てくれてありがとう」
「いえ……」
メイリーンは転移術を何度か経験しているのですぐに正気を取り戻したが、コノハは初めて目の当たりにしたのでポカンと口を半開きにしてしまっている。
「本当に一瞬で移動できるなんて……」
「驚きですね……お嬢様」
だがそれはナツメたちも同じで、一瞬にして千キロもの距離を移動してしまった事実に、困惑を隠しきれていない。
「え、えっと……どういう状況ですか?リオ様、また眠られてしまわれたのですか?」
「ととにごう、ねてる」
「リオ。話があるから起きてくれ」
「んぅ……アデルんの、背筋……」
「リオは筋肉が好きであるな」
リオに起きるよう促してみるが、彼はアデルの背筋にしがみつくばかりで、起きるのを渋っている。
「筋肉が嫌いな女子なんていないでしょ……って俺今男だったわ」
「妙なことに食いついて起きるであるな、リオ」
「おっはよう!アデルんの背中で目覚めるって清々しいよね!」
ふとしたアデルの呟きに反応して目を覚ましたリオは、起きて早々ハイテンションで相変わらずの笑みを浮かべた。
「あれ?何この全員集合状態」
「少し相談があるのだ」
「「?」」
アデルの背から下りたリオは、見知った顔が全て揃っている状況に思わずキョロキョロと目を回してしまう。
そして。揃って首を傾げたメイリーンたちに、アデルは事の経緯を語るのだった。
********
「いやアデルん。お人好しにも程があるわよ」
話を聞き終えて開口一番、リオは呆れた様にそう言った。アデルの後ろでナツメとルークが激しく頷く中、アデルはリオの発言が想定外だったのか、虚を突かれたような顔をしている。
「…………すまぬ?」
「何で疑問形なのよ。まったく……メイメイも何か言ってやってよ」
「えっと……私は別に構わないんですけど……」
「「…………」」
当惑気味に自身の意見を素直に述べたメイリーンに、ナツメたちは驚きのあまり口を半開きにして呆けてしまう。だがリオはそこまで驚いておらず、寧ろ予期していたかのようにため息をついた。
「そりゃ俺だって構いはしないんだけどさ」
「構わないんですか!?」
「え?」
「い、いえ……続けてください」
斜め上の方向からまたもや想定外な事実が発覚してしまったので、ナツメは思わず驚きで声を張り上げた。だが、ほんの少しいらついた様子のリオの一言の圧に負けてしまい、ナツメは発言の主導権を譲った。
「俺が言いたのはね、お人好しが過ぎて危機管理能力下がってるの良くないわよってこと」
「……なるほど」
「言っとくけどメイメイもだからね」
「あ……はい。すみません……」
リオが至極真面な意見を述べているという事実に当惑しつつ、アデルは納得の声を上げた。他人事のようにポケーっとしていたメイリーンだが、リオの指摘でシュンとしてしまう。
「っていうか、俺本来真面キャラじゃないの。自由にのほほんとしていたいの。出来ることならずっと寝てたいの。なのにアデルんたちが天然なせいで俺がしっかりしないといけない状況に追い込まれてるの。非常に不服なの。アンダースタンド?」
「……リオは難しいことを言うであるな」
正直リオの発言のほとんどを理解できなかったアデルは、目を白黒とさせてしまう。一方のメイリーンは、アデルと同じ天然という括りにされたことに若干のショックを受けていた。
「というわけで。真面キャラはそこのルーくんに任せるわ。君イケメンだし一番真面そうだし中々図太そうだから。シクヨロね」
「……それはつまり、リオ様も私たちが仲間に加わることを了承するということですか?」
「うん。もうツッコみ役は懲り懲りよ」
サラッとルークにあだ名をつけた相変わらずのリオだが、それをツッコんでいる余裕は彼には無い。急に名指しされて目を丸くしたルークは、リオまでもが了承したことが信じられなかった。イケメンは全く関係ないが、リオのルークに対する印象は間違っていないのだ。
「……どうなされますか?お嬢様」
「……わ」
「お嬢様!?ルーくんってまさか執事なのっ!?」
「っ……そう、ですが……?」
ルークの問いに答えようとしたナツメの声を遮ってまで、リオはお嬢様という単語に過剰反応した。前世の記憶があるリオにとって、執事というのは興奮せざるを得ないキャラクターのようだ。
鼻息を荒くしたリオにガッチリと肩を掴まれたルークは、困惑気味に答えた。
「ふぉぉぉぉ……リアル執事だ。しかも全身黒とか完璧かよ…………よっし!文句無しよ!むしろ仲間にならないと怒るから!」
「「えぇ……」」
目をキラキラとさせながら、随分とご機嫌な様子で当初の意見を翻したリオを目の当たりにし、ナツメたちは彼の性格の一端を垣間見てしまった。
「……で。お嬢様は先程何を言おうとしたのですか?」
「……」
最終確認するようにルークが尋ねると、ナツメは意を決した様に拳を握り締め、顔を上げる。
「私は、もう二度とルークに傷を負わせたくありません。ルークを失う恐怖を、二度と感じたくありません」
「お嬢様……」
ナツメとルークの過去を、アデルたちは何一つ知らない。だからこそ、彼女のその意思に込められた感情を理解できるのはルークだけだが、ナツメの言葉に息を呑んだのは、彼だけでは無かった。
「アデル様たちの迷惑になるかも、いえ……なります。断言できます。ですが、それでも……私はルークとの未来がより確実な選択肢を取りたい。……だから……お願いします。アデル様たちのお力を貸してください」
ナツメが深く頭を下げると、その意思を汲んだルークも同じように頭を下げた。
ナツメは誰よりも、何よりも。ルークのことが大事なのだ。例えアデルの優しさに甘えても、迷惑をかけても、その選択を取って誰かに罵られようとも。ルークの命に代えることなどできない。この手段を選んで、ルークが生き延びる可能性がより上がるのであれば、ナツメにとってそれが全てだった。
だがその考えは、ルークと全く同じものでもあった。寧ろ従者である彼の方が、主人であるナツメを守りたいという気持ちは顕著にあるだろう。
だからこそ。同じ気持ちを共有しているからこそ、二人揃って頭を下げたのだ。
「もちろんである」
そんな二人の姿に思わず笑みを浮かべると、アデルたちは彼らを歓迎した。
こうして。ナツメとルークの二人が、新たなレディバグの仲間に加わったのだった。
********
「それでリオ。移動手段の構想は出来たのであるか?」
「もうばっちしよ。それにルーくんも精密機械作るの得意みたいだし、手伝ってもらったから大分楽だったわ」
仲間が増えた際に、どのようにして移動するのかという問題がさっそく現実のものになってしまったので、アデルは構想を練っていたリオに進捗を尋ねた。
ナツメの超絶的な狙撃を可能にしている狙撃銃の制作者がルークであることを知ったリオは、製作しようとしている移動手段の構想、設計を手伝ってもらったのだ。
ルークは頭の回転が速く、提示された問題に対してある程度の答えを出すことが出来るので、リオはその才能に目を瞠った。
「それで?何をどのようにするのだ?」
「乗り物を作ろうと思うんだけど、アデルんのジル使わせてくれない?」
「もちろんである。我はジルを提供するだけで良いのか?」
「うん。操作は俺とルーくんがやるから」
アデルは二人に自身のジルを自由に使わせるため、メイリーンにやった物と同じ指輪を一時的に手渡した。赤い輪に黒く輝く石が嵌めこまれた指輪を介して、アデルのジルを送ることが出来るのだ。
二人はその指輪をはめると、早速リオの思い描く乗り物の制作に取り掛かる。
とは言っても、ジルを原料に作る乗り物なので、イメージさえ強固であれば一瞬にして完成してしまうのだが。
「――テッテレー、ワゴン車ぁ」
「「…………」」
突如現れた巨大な鉄の塊――ワゴン車にアデルたちは茫然自失としてしまい、リオの小ネタにツッコむ余裕も無い。丸くした目を頻りに瞬きさせ、目の前の異物に釘付けである。
黒く四角い車体に、赤いヘッドライト。どう考えてもアデルの色をした車を作りたかったリオのイメージが影響されまくっている出来である。
「何ですか?その効果音」
「コッチの話だから気にしないで」
「?」
リオ以外で唯一完成品をイメージ出来ていたルークが代わりに彼の前世ネタをツッコんでやったが、リオの返答は相変わらずなので事情を知らない二人は首を傾げてしまう。
「ルーくん運転の仕方分かる?」
「はい。作る段階でこのワゴン車の構造は頭に入れましたから」
「やったぁ……実は俺が運転しなきゃだよなぁって最初は思ってたんだけど、ルーくんが運転できるなら万々歳よ。俺はなーんにも心配せずに、思う存分車の中で眠れるわ」
車という乗り物はこの世界に存在しておらず、操作方法が分かるのも当然リオただ一人のはずだった。なのでリオは移動中一切眠ることが出来ない点だけを危惧していたのだが、その心配が無くなったのでリオは一気にだらけてしまう。
「リオがいた世界にはこのような物があるのだな……驚きである」
呆けたように言ったアデルの感想は、リオ以外の全員が同調せざるを得ないものであった。この世界の移動手段と言えば、馬といった動物を使役するものや、操志者が船などの乗り物をジルの力で操作するものばかりなので、誰でも練習すれば運転できる乗り物というのは、この世界の人間にとって画期的なものだったのだ。
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