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 ベッドの上で上半身を起こしたまま、隣に眠るセレスティナに視線を落とす。
 つい先ほど意識を失うように寝入ってしまったから、しばらくは目を覚まさないだろう。現に、これだけ大きな声で会話していても、ピクリとも動かない。

 銀に近いプラチナブロンドの髪がベッドに流れ、眠る姿は物語の中の眠り姫のようだ。
 なんと美しい。
 彼女の柔らかい頬に人差し指の甲を滑らせると、長い睫がふるると震えた。
 先ほどまで、その瞼の奥に隠れている瞳がリカルドを映していたのだと思うと、それだけでまた下半身に熱が集中してくるから困る。

 ああ、フィーガなど無視して貪ってしまおうか。
 どうせ戦闘に借り出されないかぎりはリカルドに仕事などない。好きにしていいだろうと、もう一度彼女に組み敷こうとすると、ドンドンドンドン! というノック音が大きくなった。

「ちょっと! 僕を無視してそこで奥様を可愛がるとか、やめてくださいね! そろそろ満足してくださいよォ!」
「お前が差し出してきたくせに」
「そ、それはそうなんですけどォ……!」

 扉の向こうから、萎れたような声が響いてくる。
 やはりな、と思った。セレスティナをこの空間に差し向ければ、渇きと飢えに喘いだリカルドが手を出さないはずがないと考えたのだろう。

 フィーガはリカルドのためには、手段を選ばないところがある。そのためには、一国の王女であるセレスティナを犠牲にすることも厭わない。

 4年前の国際会議の場で、リカルドがセレスティナに意識を向けたその日から、フィーガは裏で動き回っていた。
 リカルドは一生、〈糸の神〉の渇望とともに生きる覚悟があったが、フィーガはそんなリカルドの意志を無視して別の道を用意した。結果的に、全てがフィーガの思うままだ。

 ああ、本当に身体が軽い。
 フィーガに感謝する気は到底起きないが、セレスティナにならいくらでも感謝を捧げられる。
 今までは戦闘中しか生きている感覚を得られなかったリカルドだが、もうそのようなことはない。
 まあ、その代わり、存分にセレスティナを貪らなくては気が済まなくなってしまった自分もいるけれど。

「主は頑丈で、食も細くて殺しても死なないような人だからいいですけどォ、奥様が倒れてしまいますって! か弱い方なんですからね! ちゃんと食べさせて、寝かせてあげないと!」
「だったらお前が食糧を運んでくればいいだろう」
「うーわ! ここに一生引き籠もらせる気だ、鬼畜!」

 当たり前だ。
 もうセレスティナを手放すつもりはない。
 彼女にだってそう宣言した。何度も逃がそうとしても逃げなかったということは、彼女もその運命を受け入れるということだ。
 一生、閉じ込めて他の者の目には晒さない。
 ほの暗い欲望が胸の奥に渦巻く。

「あのねェ、主。主のヤンデレっぷりにはね、まァ僕も気付いてはいましたよ。でもね、囲うにしても場所を変えません?」

 囲うことを否定しないあたり、フィーガは本当にリカルドのことをよくわかっている。そして、フィーガにとってはセレスティナよりも、圧倒的にリカルドの方が優先順位が高いことも実感する。

(クソ……)

 セレスティナが蔑ろにされているようで苛立つが、そもそも、彼女を囲おうとしているのはリカルドの意志だ。むしゃくしゃするが、それをねじ曲げるつもりはない。

「どこにいても引き籠もるんだ。同じだ」
「全然違いますってェ! 奥様も、同じ囲われるなら環境がいい方が快適ですって!」

 フィーガはずっと、リカルドをこの執務室の外に出させようとしてきた。
 セレスティナがその餌になることもよく分かっているのだろう。しかし、まんまとそれに乗るのは癪だ。
 小さな抵抗をするも、口論になるとなかなかフィーガには勝てない。

「あのですねェ! 今日までは僕も、ここの地下室の前を誰も通らないように尽力しましたけどねェ! そろそろ限界ですからね! ――いいんですか? 奥様の喘ぎ声、他の兵士に聞かれても」

 瞬間、身体中の血が駆け巡る。

 もちろん、いいはずがない。
 セレスティナの声だってリカルドのものだ。あんなにも可愛い声を、他の男に聞かせてなるものか。

 リカルドは瞬時に手のひらを返した。
 ささやかな抵抗? そんなものは知らない。
 こんな場所、1日でもいられない。

 だからリカルドはガバリと立ち上がったのだった。
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