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2−3
しおりを挟む2年。
そう。かの国からセレスティナが救われたころには、2年もの時が流れていた。
その間のほとんどの記憶が曖昧だ。
今のセレスティナが言えることは、すでに自分が王太子妃という身分ではなくなっていることくらい。
かの国では、重篤な病に見舞われ、王太子妃としての責任に耐えられないということで、セレスティナ自ら離縁を申し出たことになっているらしい。
もちろん、セレスティナ自身にはそのような記憶はない。
イオス王国での日々のことは曖昧で、思い出そうとするだけで頭の中に霧がかかったようにぼーっとしてしまう。
そして祖国ルヴォイア王国に戻ってきてから、さらに1年が過ぎた。
生きているのか死んでいるのかわからないまま眠って過ごし、半年以上が経って、ようやく起き上がれるようになった。
そこからだれかとまともに会話できるようになるまで、さらに半年を要したのである。
いまだにセレスティナはリハビリの最中で、以前の様に社交や外交に精を出すこともできない。
周囲の会話から推測できたことは、かつての夫ラルフレットが、セレスティナを身代わりとしていた愛人リリアンに飽きて、彼女自体を捨てたということだ。
飽きて、というのはもしかしたら語弊があるのかもしれないけれど。
結局ふたりの間に子供はできず、イオス王国はいまだに後継がいないというのだから。
イオス王国では、セレスティナが石女だから離縁された面もあるのではと勘ぐるような目も向けられているようだが、あの国での評判などもう知らない。どうなってもいい。
ただ、ルヴォイア王国に戻ってきて1年。この国にいる両親や兄、かつての侍女たちの献身的な看護を経て、セレスティナの思考はある程度働くようになってきた。
昔と同じ、前向きで明るかったころの片鱗が覗くようになってきている。
そういったセレスティナらしさが出るたびに、周囲も安堵したように微笑みを浮かべる。
(わたしも、もう22歳なのよね。……不思議な感じ)
正直、セレスティナの時間は嫁いだ19歳のときから止まったまま。周囲の時間だけが動いている。
まだ、外に出ることは億劫だ。それでも、現実は待ってくれない。
「ティナ、話がある」
ある、よく晴れた日のことだった。
その日はセレスティナも体調がよく、王族のみが立ち入りを許される中庭でお茶を楽しんでいた。
そこにセレスティナの父であり、この国の国王ディオラル自らが会いに来たのである。
なんとなく、話の内容も推察できる。
「こんなわたしに、再婚話でも出たのでしょうか」
セレスティナは自嘲気味に微笑んだ。
わかっている。セレスティナはもう22歳。その年齢が、現実的に押し寄せる。
あと2年もすれば行き遅れの年齢だ。
痩せぎすだった身体もある程度肉がもどり、女性らしさも戻ってきた。慣れ親しんだ相手なら普通に会話だってできる。
いつまでも実家にしがみついているわけにはいかない。
一応、一度は結婚したわけだし、世間では「病気で王太子妃の座を退いたワケアリ」だ。そんなセレスティナに再婚話ということは、半神の加護でもいいと言ってくれる相手が見つかったということだ。
ろくでもない相手であることは想像に易いが、嫁がない選択肢はない。
それがルヴォイア王女としての矜持である。
(ただ……)
今の自分に、本当に、ほんの少しでも価値はあるのだろうか。
(わたしにはもう、魔力すらない)
死ぬ間際まで魔力を搾り取られた後遺症なのだろう。
セレスティナの魔力だけは枯渇したまま、回復の兆しが全く見えない。
だから魔力供給源としての役割も果たせなくなり、捨てられたとも言える。
(今のわたしをもらってくれるような、酔狂な相手がいるの?)
何もわからない。
でも、セレスティナは自分の存在意義がほしかった。
ルヴォイア王女としての価値など、嫁ぐこと他ない。
だから、半ば諦めるように了承する。
どこへなりとも嫁ぎます、と。
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