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本編
ep21_うれしいのも、かなしいのも、全部。
しおりを挟む城へ帰って、手錠は無理矢理切断してもらって、ぼろぼろになったドレスを着替えて、お祝いの晩餐をして、――――夜。
くたくたになってお部屋まで帰ってきた。
って思ったら、なかに入ってびっくり!
お花のにおいめちゃくちゃしてるし、あちこち飾り付けられている。
もしかして、結婚式の夜だから気を利かせてくれたのかな?
つかれたねーって言いながら、あたしはソファーにすわる。
「のど渇いたかも……」
「ああ、待ってろ」
なんて言いながらギリアロが上着を脱ぎつつ、キッチンの方へ向かう。あたしたちのためにいくつか飲み物が用意してあったみたいで、どれがいいって聞かれたのでオレンジとこたえる。
ギリアロがジュースをグラスに注いでこちらに持ってきてくれる。ギリアロはミネラルウォーター。お酒じゃない。
ふたりでソファーに並んで座って、片手にグラス。
飲み物はそんなに色気があるものじゃないけど、ジュースと水で乾杯する。
気取ってもしかたない。これがあたしたちだもん。
一気に口に含んで、ぷはーって息をつく。ほんと疲れた。めちゃくちゃ疲れた。
けど――、
「チセ」
肩を抱かれて引き寄せられる。
彼は目の前のローテーブルにグラスを置いててさ。もちろんあたしも、同じようにグラスを置く。
彼の胸に手を当てて体を委ねると、彼があたしの顎をくいってして。目をあわせると、すぐに唇が降ってきた。
ちゅ。ちゅ……。
戦闘機では深いものまでする余裕なかったもんね。
ギリアロってばすぐに舌を絡ませてくる。
「ん……」
「チセ……チセ……」
「ぁ……」
彼の手があたしの胸にのびる。ちょっと性急な手つきに、あたしは笑う。
「――もう、する?」
「ん。…………あ、いや」
「?」
「そうだった……いや。……順番まちがえたな」
「???」
なにかを思い出したように、ギリアロは少しあたしから体を離して。
あー、とか、うーとか言いながら、ぽりぽりと頭をかいている。
いったい何だろ、って思ったら、ギリアロってば上着の内ポケットに手を突っ込んだ。
「これを、だな」
「!」
ギリアロが取り出したのは、ふたつの小さな輪っかだった。
鈍色に輝く鉱石でできているようで、内側には小さく文字が刻まれている。
ふたつとも同じ文字、〈ギリアロ〉と〈チセ〉――。
それがなにかわからないわけがない。
指輪、だ。前に、あたしがなにげなく聞いて、勝手に落ちこんでたの、ギリアロ覚えてくれてたってこと……?
すっごく忙しかったはずなのに、いつの間に手配してくれたんだろ。
びっくりして、めちゃくちゃ心臓がばくばくしてる。
なに? こんなこと考えてくれたの、あたしの旦那さんってば……!
「あぶねえもんじゃねえぞ!? 晶精エネルギー通さない素材にしたし」
「わかってるよ!?」
そうだよね、指につけるには危ない物って認識なんだもんね、こっちでは。
「普段から身につけたいなら手袋をしとけば――いや、愛し子だから事情がある、でいいか。俺と揃いだし。晶精器具の一種だと――」
「わかった、わかったからっ」
もうっ、ギリアロってばすぐ理屈捏ねようとする。
あたし、そういうのあんまり気にしないのにさ。ふふふ、おかしい。
はーーー。
ほんと、空の上だとあんなにロマンティックになるのにさ。
ギリアロらしいよね、すごく。
「ええと。これをどうするんだ? お前さんの国では」
「えっ? 言えばやってくれるの?」
「まあ。今日くらいは――ほら、早く言え」
「ふふふ」
どうしよう。どうしようかな……。
おそろいだから結婚指輪だけど。神父さんとかいないし。……あたし、指輪使ったプロポーズはしてもらってないし。
「片膝ついてかしづいてね?」
「む――こうか?」
「そ。で、指輪を掲げて、えーっと…………」
あたしからねだるのもちょっと変な気がするけど。
「あいのことばを、ください」
ギリアロは両目を丸めて、びっくりして口をへの字にしてさ。でも、すぐにいつもの苦笑いを浮かべる。
眦に皺を浮かべて、まいったなってちょっと恥ずかしそうにしながら、でも、ちゃんとあたしの目をみてくれて――、
「愛してる。俺と、いっしょになってくれ、チセ」
「……っ」
彼は飾らない言葉をくれた。
もちろん、返事はきまってる。
「はい。あたしも、……あたしも、ギリアロを、あいしてる」
「ん」
もう一度キスをして、笑いあって――ギリアロの手が行き場を失ってさまよっていることに気がつく。
そっかそっか。このあともどうしたらいいのかとかもわかんないんだよね。
左手の薬指にはめてねって教えてあげて、ゆっくりつけてもらう。
サイズちょっとだけ大きくて、しょげてるギリアロも可愛くて。
あたしはギリアロの左手の薬指に同じように指輪をはめてから、うれしくて、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。
いいの。
あたし。こういうのが幸せなの。
戦闘機乗りのあなたも好きだけど、地上にいる、ちょっと格好つかないあなたもすき。
なぐさめようって思ってがしがしギリアロの頭撫でてたら、仕返しされた。ちょっといじわるな顔しながら、ぎゅうぎゅうに抱きしめ返される。
「くっそ、好き勝手笑いやがって」
「あはは、だって。――でも、ありがと。あたしの国のやりかたにつきあってくれて」
「まあ、それくらいは」
「そういうところも、あたしすき」
「へいへい、ありがとよ」
なんて言いながら、ギリアロは肩をすくめる。
「指輪、今度ちゃんとサイズ直す。ちょっと作業つきあってくれ」
「ん。――――ん? 作業?」
直しに行くとかじゃなくて?
え? それってつまり……。
「これ、ギリアロがつくったの?」
「? そうだが?」
んんん!?
あの激務のなか、指輪まで作ってくれたってこと!?
めちゃくちゃ器用なのは知ってたけど、ほんとに、どこまで器用なの……!?
形もめちゃくちゃ綺麗なんだけど、それよりもさ。
あたしのこと、いろいろ考えて。あたしを喜ばせようって、がんばってくれたんだよね?
こっちの世界にはない文化なのに。ぜんぶ、いちから考えて……?
「ギリアロっ」
「!」
感激してしまって、あたしはギリアロに抱きつく腕に力をいれる。
「……すき、すき!」
「ん」
「うれしい……あいしてる」
「――喜んでもらえてよかったよ」
あたりまえだよ、よろこぶに決まってるじゃん。
「うん……!」
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