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本編
ep20_4
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「久しぶりだな、愛し子どの――いや、チセ」
赤髪に、黒い瞳をギラギラさせた男のひと。たしか、ヴィリオ・ジ・ティーガ……だっけ。
あたしを見おろして、愉悦にひたっている。
「あ、あたし、結婚式中だったんですけど」
「ああ、そうだな」
「結婚式に花嫁攫うとか、なに考えてるんですかっ」
「ふん。今日しかチャンスはなかったろう? 公衆の面前で花嫁を攫われて――あの男の面目も丸つぶれだ」
その発想がこわいわ……。
あたしは頬を引きつらせる。
ってか、あの。さっきから震えが止まらなくてですねその。足にも力が入らなくてですね。
こんな奴に攫われてしおらしくなるとかあり得ないけど、素で怖いっぽい。
網に引っかけられたまま空をぶんぶん振り回されたのもヤバかったし、それよりも。
「!」
ヴィリオに網を引っ張られる。
もうひとりの男と協力して、船の後方まで引きずられ、ふたりしてあたしの網を外す。
腕を強く掴まれて、そのまま金属の床に転がされた。
びりって、嫌な音がした。床の金属を固定しているビスにドレスが引っかかったみたい。せっかくキレーな真っ白なドレスが汚れて、ボロボロになる。
それだけであたしは泣きそうになっちゃって、声もまともに出せない。
「ほう、そんな顔もできるのか」
「……っ」
「気の強いじゃじゃ馬だと思っていたが――調教しがいはありそうだ」
「そ、そんな……」
そうしてあたしは、手錠をかけられ、捕らえられたんだ。
愉悦に満ちた表情でヴィリオが見おろしてくる。
「諦めろ、チセ。君は、私の妻になるんだ」
「ハア!? あ、あたしっ、旦那さんいるんですけどっ」
「そんなものは関係ない」
「てか、あたしの旦那さん、世界一の戦闘機乗りだしっ。こ、こんなことして……っ、国からも逃げられるわけないでしょっ!?」
「元、だろ? 何年も前に引退した、頼みの晶精眼だって失った男になにができる。――それに、君がほしいという国は他にいくらでもある。手土産に持っていけば、どこでも受け入れてくれるさ」
ヤッバ。このひと、目がマジだ……っ。
つまりこれからあたしを連れてどこかに亡命?
いやいやいや、まって。ない!
このヴィリオってひとのお嫁さんなんか絶対なりたくないし!
怖くてぶんぶん顔を横に振った。
でもそんなあたしの反応が気に入ったのか、ヴィリオってひとはしゃがみ込み、あたしの顎に手を触れる。
ぞわわわわって、全身に鳥肌がたった。
体に力が入らなくて、せめて逃げるように背中を丸めようとする。けど、指が頬にくい込むくらいにがっちり顎を掴まれちゃって、動けない。
「や、やだっ……やだっ……!」
「その恐怖に満ちた顔はなかなかそそるっ」
「ひぃ!? や、やめ……っ」
顔近づけてくるな、バカ!!
やめてっ!! そう叫ぼうとしたとき、前の方から叫び声があがる。
「ヴィリオさまっ!!」
操縦席に座っているうちのひとりが、前方のモニターを見ながら、慌てて声をあげた。
「ヤツが追ってきました! 灰の死神です!」
「! ……早速きやがったか」
吐き捨てるようにいって、慌ててヴィリオが立ち上がる。
灰の死神――それって、つまり。
ぎ、ギリアロ……っ! やっぱり、来てくれたっ。
どんなスピードできたのよ、めっちゃ速い! さすがギリアロの戦闘機……!
ヴィリオに突き飛ばすように床に転がされる。
かなり痛かったけど、へーき。ギリアロが追いかけてきてくれるってわかったから。少しだけ、余裕出た。
船内がにわかに騒がしくなる。
ヴィリオも操縦席について、モニターを確認。まもなく、たくさんの銃声が聞こえはじめた。
ババババババ!
ドドドドドッ!!!
音の高さがちがう、何種類かの弾が後方に撃ちこまれていく。
ヴィリオって人も相当腕に自信があるみたいだったけど、でも、ギリアロならって思う。
怖いし。不安だし。もし一発でもギリアロの戦闘機が被弾したらって思うけど。でもっ……!!
って、あたしはそこで気がついた。
…………ん?
まって? あたし、この船のなかいるじゃん?
ギリアロ、どうやってあたしを助けてくれるの!? あたしがいたら、撃ち返せなくない???
その事実に気がついてあたしは真っ青になる。
あたしががんばってこの船から逃げようとしたところで、ハッチの外は空だよ?
逃げようもなくない???
もうこれ、ギリアロが戦闘機ひっつけて、こっちに飛び乗って、敵をばったばったなぎ倒すとかアニメ映画みたいなことするしかなくない!? いくらギリアロでも、さすがにムリじゃない!?
これは本人の名誉のために伏せておいたけど、前もあたしを助けてくれた翌々日にさ、筋肉痛で苦しんでたもんね。さすがにキビシイのでは……って思っちゃうんだけどっ。
でも、あたしは祈るしかない。
ギリアロに。助けてって……!
赤髪に、黒い瞳をギラギラさせた男のひと。たしか、ヴィリオ・ジ・ティーガ……だっけ。
あたしを見おろして、愉悦にひたっている。
「あ、あたし、結婚式中だったんですけど」
「ああ、そうだな」
「結婚式に花嫁攫うとか、なに考えてるんですかっ」
「ふん。今日しかチャンスはなかったろう? 公衆の面前で花嫁を攫われて――あの男の面目も丸つぶれだ」
その発想がこわいわ……。
あたしは頬を引きつらせる。
ってか、あの。さっきから震えが止まらなくてですねその。足にも力が入らなくてですね。
こんな奴に攫われてしおらしくなるとかあり得ないけど、素で怖いっぽい。
網に引っかけられたまま空をぶんぶん振り回されたのもヤバかったし、それよりも。
「!」
ヴィリオに網を引っ張られる。
もうひとりの男と協力して、船の後方まで引きずられ、ふたりしてあたしの網を外す。
腕を強く掴まれて、そのまま金属の床に転がされた。
びりって、嫌な音がした。床の金属を固定しているビスにドレスが引っかかったみたい。せっかくキレーな真っ白なドレスが汚れて、ボロボロになる。
それだけであたしは泣きそうになっちゃって、声もまともに出せない。
「ほう、そんな顔もできるのか」
「……っ」
「気の強いじゃじゃ馬だと思っていたが――調教しがいはありそうだ」
「そ、そんな……」
そうしてあたしは、手錠をかけられ、捕らえられたんだ。
愉悦に満ちた表情でヴィリオが見おろしてくる。
「諦めろ、チセ。君は、私の妻になるんだ」
「ハア!? あ、あたしっ、旦那さんいるんですけどっ」
「そんなものは関係ない」
「てか、あたしの旦那さん、世界一の戦闘機乗りだしっ。こ、こんなことして……っ、国からも逃げられるわけないでしょっ!?」
「元、だろ? 何年も前に引退した、頼みの晶精眼だって失った男になにができる。――それに、君がほしいという国は他にいくらでもある。手土産に持っていけば、どこでも受け入れてくれるさ」
ヤッバ。このひと、目がマジだ……っ。
つまりこれからあたしを連れてどこかに亡命?
いやいやいや、まって。ない!
このヴィリオってひとのお嫁さんなんか絶対なりたくないし!
怖くてぶんぶん顔を横に振った。
でもそんなあたしの反応が気に入ったのか、ヴィリオってひとはしゃがみ込み、あたしの顎に手を触れる。
ぞわわわわって、全身に鳥肌がたった。
体に力が入らなくて、せめて逃げるように背中を丸めようとする。けど、指が頬にくい込むくらいにがっちり顎を掴まれちゃって、動けない。
「や、やだっ……やだっ……!」
「その恐怖に満ちた顔はなかなかそそるっ」
「ひぃ!? や、やめ……っ」
顔近づけてくるな、バカ!!
やめてっ!! そう叫ぼうとしたとき、前の方から叫び声があがる。
「ヴィリオさまっ!!」
操縦席に座っているうちのひとりが、前方のモニターを見ながら、慌てて声をあげた。
「ヤツが追ってきました! 灰の死神です!」
「! ……早速きやがったか」
吐き捨てるようにいって、慌ててヴィリオが立ち上がる。
灰の死神――それって、つまり。
ぎ、ギリアロ……っ! やっぱり、来てくれたっ。
どんなスピードできたのよ、めっちゃ速い! さすがギリアロの戦闘機……!
ヴィリオに突き飛ばすように床に転がされる。
かなり痛かったけど、へーき。ギリアロが追いかけてきてくれるってわかったから。少しだけ、余裕出た。
船内がにわかに騒がしくなる。
ヴィリオも操縦席について、モニターを確認。まもなく、たくさんの銃声が聞こえはじめた。
ババババババ!
ドドドドドッ!!!
音の高さがちがう、何種類かの弾が後方に撃ちこまれていく。
ヴィリオって人も相当腕に自信があるみたいだったけど、でも、ギリアロならって思う。
怖いし。不安だし。もし一発でもギリアロの戦闘機が被弾したらって思うけど。でもっ……!!
って、あたしはそこで気がついた。
…………ん?
まって? あたし、この船のなかいるじゃん?
ギリアロ、どうやってあたしを助けてくれるの!? あたしがいたら、撃ち返せなくない???
その事実に気がついてあたしは真っ青になる。
あたしががんばってこの船から逃げようとしたところで、ハッチの外は空だよ?
逃げようもなくない???
もうこれ、ギリアロが戦闘機ひっつけて、こっちに飛び乗って、敵をばったばったなぎ倒すとかアニメ映画みたいなことするしかなくない!? いくらギリアロでも、さすがにムリじゃない!?
これは本人の名誉のために伏せておいたけど、前もあたしを助けてくれた翌々日にさ、筋肉痛で苦しんでたもんね。さすがにキビシイのでは……って思っちゃうんだけどっ。
でも、あたしは祈るしかない。
ギリアロに。助けてって……!
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