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本編
ep20_3
しおりを挟むそうやって、中央区から商業地区の方へと移動していく。
たっくさんのひとに見守られて、商業地区のメインストリート近くの滑走路まできた。
ここはたくさんの飛行機を止めるために倉庫があって、道幅も広いの。もちろん飛行機を飛ばすためにね。
このあと、ギリアロのフライトがあるからね? スタート地点はここ。
あたしはあたしで、ギリアロの飛行を見守るための花嫁席があるの。
この街は大時計城から街の外に向かってずーっと斜面になってるからね。この共有の滑走路は片側が崖みたいになっててるんだ。で、街の西っかわには大きな湖が広がってる。今日はよく晴れてるから、キラキラ湖面もキレー。
「じゃ、行ってくるわ」
「うん、気をつけて。楽しみにしてるね?」
「まあ期待には応えるさ」
うわー。もうギリアロってば自信満々っ。
普段ダルそうでヤル気ないくせに、ヒコーキのことになるとめちゃくちゃ男らしくなるよね? すき。
目立つこと嫌いそうなのに、こういうときはギリアロの目キラキラしてる。
なんかね? 普段は飛行機の交通量多いから、街の上ではスピードも出せないし、アクロバティックなことなんて当然できないんだって言ってた。そういうルールがあるんだって。
だからギリアロもギリアロで、めったにできないことができるって楽しみにしてたっぽい。お空、独り占めだもんね! なっとくの戦闘機オタクだったよね。
……どっちかっていうと、自分自身が見せ物になるより、戦闘機乗って見せ物になるほうが気が楽、って思ってるんだろうなって気がついてるけどね?
でも、うれしそーだもん。
「しっかり見てろよ?」
なんて言い残して飛びたっていくギリアロかっこよすぎ!
ギリアロの戦闘機は、灰色で結構地味かなって思うのに、空の青と重なるとすごくハッキリ見えるんだよね……!
あっという間に遠くにとんでっちゃったギリアロの機体をみる。
あたし、ばかみたいに口開けててさ? だって、圧倒的なんだもん。
ぐるーって旋回したり、急降下急浮上。機体をぐるぐるスクリューさせて……よく目が回らないよね。
高い建物すれすれに、縫うようにして抜けてったり。
あたし乗せて飛んでるときとは全然ちがって、街のあちこちを猛スピードで移動していく。きっと、ここだけじゃなくて、居住地区とか工業地区とかのほうでも、いろんなひとがギリアロの戦闘機見て盛り上がってるだろうな。
ギリアロの機体が放つ白い雲が軌跡を描いたとき、みんなめちゃくちゃ大騒ぎしてた。それがあたしもうれしくって。すっごく夢があって、ふわふわした気持ちでいてさ。
だからね。
ぱらぱらぱらぱらって、プロペラ音近づいてくるの、全然気がつかなかった。
ばばばばばば!
爆音と振動が響いて、あわてて振り返る。
わわわ、なにこの土埃っ!?
威嚇のために、銃弾みたいなのが打ち込まれたのがすぐにわかる。
で、向こうからすごい勢いで中型飛行機が飛んでくるのがみえた。
「愛し子を護れ!」
「チセ様、お退きくださいっ」
あたしを護ろうとしている兵隊さんたちが銃で応戦するけど、全部弾かれちゃってる!? っていうか、砂埃でなにも見えないっ。
さっきの威嚇で、人の波が綺麗に左右にわかれ――その飛行機は地面ギリギリの低空飛行でこっち突っ込んできて――、
ヤバ! って逃げようとしたけど、間に合わなかった。護衛のひとたちがあたしを護るよりも飛行機の方が速い。
目の前に網がばっ! って広がって。
あれ? あれえええ!?
体が勝手に持ち上がる。まって。網!? 網でつかまったのあたし!?
ひょああああ、痛いっ! まって浮くのまって!?
「だめだ!」
「撃つのをやめろっ、愛し子がっ」
あっという間に地上から遠ざかっちゃって、みんなの声すら届かなくなる。
風がすごすぎて、網にスカートが絡まる。
突然の浮遊感に体がぎゅううって縮こまって。どこ踏んでいいのかもわからないし、力いれようとしても入らないし。ヒールが変な風に絡まって、動けない。
「嘘でしょ!?」
あたし、攫われたっ!? 結婚式の日に!? あんなに大勢いたところで!?
運悪く――っていうより、あえて狙ったとしか思えないんだけど――ギリアロがひとりで飛行しているときでしょ!?
ギリアロいますっごく遠くにいるもん。豆粒だよっ! 豆粒!
やだあああギリアロ、ギリアローっ! 助けてっ。さ、攫われた……っ!!
あまりの事態にただただ混乱していたら、ばんっ、って上の方からハッチが開く音が聞こえた。
中型の飛行機だけど、かなりスピードが出てる。
銃とか全部はじき返してたもん。見た感じも新しそうだし、厳つい。
とにかく、風が痛いくらいに強いんだけど、あたしはそこに網ごと引き上げられた。
で、船内に引き上げられたときにはっとした。
あまり広くないんだけど、人間が歩くことができるスペースがある。
なかに人間は4名。操縦席に2名と、あとのふたりはあたしの網を引き上げている。……んだけど、そのうちのひとりが――、
「…………ティーガ、さん……」
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