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本編
ep16_もしかして、もしかしなくても。
しおりを挟む足にひっかかるこの砂浜の感覚懐かしい。
「海ぃ――!」
「おい! はしゃぎすぎてこけるなよ!?」
「だいじょぶだいじょぶ! って、ひゃあ!」
調子に乗ってよそ見してたら、前のめりに倒れ込む。
ヤバ。お約束すぎて呆れられちゃう……。
「お。おいっ……大丈夫かよ」
「……ぅぅ、砂、口に入った……」
座り込んで、顔とか髪についた砂を払う。……でもほんとに、久しぶりすぎてテンションあがっちゃった。
ちょうど海に夕日が沈む時間。
真っ赤な空に、静かな波の音。だれもいない砂浜をあたしとギリアロさんでふたりじめ。超ぜいたく。
あれからヒコーキでフライトして。ギリアロさん、景色の綺麗なところいろいろ連れてってくれてさ。一緒にお昼食べたり、ちょっとお昼寝もしてね?
午後は目的地に向かってひとっとび。国の保養地って聞いてたけど、なんだか南国のホテル? ヴィラ? みたいなところに辿り着いた。
広いお部屋をギリアロさんとふたりで使えるの。ヒコーキ降りて、荷物も置いて、夕食前にふたりで海に来て。
季節がら、風はだいぶ冷たいけど。でも、すっごいロマンティックで。……まあ、そのロマンティックなのを、いま自分でぶち壊しちゃったんだけど……。
「ほら、大丈夫か?」
「あはは。久しぶりの海ではしゃぎ過ぎちゃった」
ギリアロさんが手を差し出してくれる。あたしは遠慮なくその手をとって、立ちあがった。
ぱんぱんって砂を払ってたら、ギリアロさん、あたしの髪についてた砂もとってくれてさ。
ううう……髪触られてるよっ。まって、今、ベストじゃないのにっ。ブラシで梳かしておきたかった……。
今、ちょっとだけヒールのあるブーツ履いてるから目線がギリアロさんとだいたいいっしょ。スッゴイ顔近いの、緊張するよ……手汗スゴイし。
わあああって、砂払ってるふりして、手汗ぬぐっちゃう。
ギリアロさんはさ、砂払ってくれてたって思ってたけど、あたしの髪、ずーっと梳いてくれてて。ちらって、ギリアロさんの方むいたら目があって。
「……っ」
わあああっ、え、あああっ。
めちゃめちゃ、見られてるっ。え? どんな顔すればいいの? なにその目。めちゃくちゃ、熱っぽい……。
ヒコーキ降りてしばらくしたら、ギリアロさんの左眼、また淡い灰色に戻ってはいるんだけど――それよりも、いつからこんな目向けられるようになったっけ?
キス、してからっ?
ううん……もっと前?
わかんない。わかんないけど。その……あたし、もしかして。ううん、もしかしなくても、ちょっとは……女の子として、見てもらえてるんだよね?
いつからか全然わかんないけど。でも、きっと、そうなんじゃないかなって期待しちゃってて。
「くっ」
って、なんで笑うかなあ?
ギリアロさんてば、急に余裕の顔するのずるくない? めちゃくちゃ大人。あたしばっかり手のひらの上で転がされてない?
「チセ」
ああああ……名前で呼ばれるのもヤバい。
助けてくれた日からだよね。あたし気づいてるよ?
それまで「お前さん」ばっかで、全然名前で呼んでくれなかったもん。
めちゃくちゃうれしくて、好きって自覚しちゃってさ。幸せは、幸せなんだけど。
「うん……」
心臓、もたない。
夕日が沈んでいくこの短い時間を楽しむ余裕なくて、あたしはギリアロさんでいっぱいになる。
「チセ、ほら」
「うう……」
髪を撫でられて――頬も。
熱い。目も、頬も、めちゃくちゃ熱いし、親指で唇なぞられて、ぞくぞくしちゃう。
好きなひとにこんなのされたら、あたし、とけそ。
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