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本編
ep13_お父さんのこと。
しおりを挟む円居千瀬、21歳。
異世界に来て、毎日がますます楽しいですっ!
はー……好きなひとと共同生活でさ? 書面上ではあるけれど、いちおう〈妻〉って名目でお世話できるの最高すぎる……。
ギリアロさんてばすぐ散らかしっぱなしにするから、すっかりギリアロさんの私室と化した部屋の書斎も、お城の執務室も、自由に入る許可もらって、お片付けできるの幸せすぎた……。
てか、ギリアロさん自分のテリトリーに他のひと寄せつけないっての、マジっぽいし。
あたしだけ、なんだよね。あたしだけ!
あ。補佐官のマーキさんとエドアルド殿下はのぞいてね?
それってジューブン特別ポジションにいない? だめ? ただのお世話係?
はーーーっ。
……でも、なんだかんだ「すき」ってちゃんと言えてないんだよね。毎日恥ずかしくていっぱい照れちゃう。
けど、世界が輝いてるのもホント。
あたしめっちゃ恋してる……うわあうわあ! ヤバ。幸せっ。
あー、でも、あまりはしゃぎすぎると、いろいろ面倒くさがりなギリアロさんにはひかれそうだし。
おすまし、おすまし。めちゃくちゃ自分に言い聞かせる。
これからあたし、大人の色気を手にいれて、絶対ギリアロさん誘惑するからっ。マジのマジ。
ってなわけで、あたしはギリアロさんのよき妻になるために、毎日頑張っているのです。
で、今日はエドアルド殿下と、ギリアロさんたちと、これからあたしがどういった順番で街を回っていくかを小会議室で相談中。つまり、一緒にお仕事中ってわけ。
押しかけ掃除婦じゃなくて、一緒に会議とか幸せすぎでは?
はー……ギリアロさんの真面目なお仕事顔、いいよね……。
このお城ってさ、エドアルド殿下以外は部署によって多少形はちがえど、似たような制服着てるじゃない。でも、みんな髪色とかがけっこう派手だったりするんだよね。だからわりと華やか。
そんななかで、ギリアロさんだけが黒髪ってとこもいいよね……。
純粋な黒髪って、この国じゃすっごい珍しいの。てか、ほとんど見たことない。
で、灰色の瞳でしょ? 左右ちょっと色がちがうところも素敵。
「……セ」
雰囲気だけじゃなくて、色彩も渋くて、カッチリしすぎてない肩の力が抜けた大人の男のひと……いいよね。飄々としてるところも、クセがあって好き……。やっぱりギリアロさんだけみんなと全然ちがってみえる。
「チセ。おおい、チセ」
「っ!」
はッ!!
やば。いま、めっちゃエドアルド殿下に呼びかけられていた。
「ふふふ、そんなに見つめていたら、ノウトに穴があいちゃうよ」
「ひあっ!!」
ばれてたっ!?
めっちゃ見てたの、ばれてたーっ!
しかも殿下にだけじゃないの。この会議室にいたひとみんなくすくす笑ってる。ヤバ……あたしの気持ちバレバレじゃん?
大人の女計画さっそく失敗? まってまって。
「ノウト、可愛らしい奥方だね」
「……冗談は勘弁してください」
「おや。私は正直な感想を言っているだけなんだけど」
あ……ぁ……ギリアロさんに呆れられた。うっ……やらかしちゃった。
ギリアロさんこっち向いてくれないのが地味にショックで、あたしはうな垂れる。
はあああ……すぐに感情が顔に出ちゃうから、大人の女になれないんだよ。ううう。
「す、すみませんっ。あの、おはなし、もとに戻してくださいっ」
これ以上ギリアロさんに呆れられたらやだもんっ。会議の時くらいいい子なとこ見せないと。あ、会議の時だけじゃないね。ええと、他のときも。いろいろ。うん、たぶん。
ってか、会議の話の中心はあたしだもん。
気持ちを引き締めなおして、これからの予定を相談する。
これまであたしが、この世界に慣れるためにって、自動車を使っていろいろ見てきたのが貴族街と商業地区。居住地区は城に近いところだけ。
でももちろんそれだけじゃだめなんだ。
この街だけでも広大で、高低差がものすごくある。だから自動車って使い勝手が悪いこと、あたしだってもう気がついている。
小型の飛行機移動がデフォだもんね、ここ。
飛行機って…………まあ、いろいろあって。……あたしがどうしてもってお願いして、今までは乗らずにいたんだけどね。
そろそろって話になったんだよね。
……うん、それは、わかるよ。この国の一番発達した交通機関って、ケーブルカーと飛行機だから。ケーブルカーは警備の関係で使わずにいるとは聞いてるんだけど、そうなると……飛行機一択だよね。しょうがない。
大時計城からのアクセスの悪い工業地区とか、この国の――この街以外の場所にもいずれはって言われているんだもん。
あたしだって、お世話になってるのわかってるから、協力したいって思ってる。
怖い思いはしたけど、それでもこの国のひとたちいいひといっぱいだもん。めちゃくちゃ良くしてもらってるから、あたしだって役に立ちたい。
あたしは歩き回っているだけで、ほんとうに役に立ててるか実感ないけど、それでも、エドアルド殿下やみんながちゃんと喜んでくれてるのわかってるから、応えたいって思うし――それに。
――ちらっとギリアロさんのほうを見た。
飛行機の話題になってから、ギリアロさんってば何ともいえない顔をしてるんだよね。ちょっと、心配そうにしてくれてるのかな。
あはは……けっこう頑なに拒否ってきたもんね、これまで。
うーん……別に、恐怖症とか、そういうわけじゃないんだ。だからね、今日まで飛行機に乗らなかったのって、単なるわがまま。それもちゃんと自覚してるんだよ?
だからあたしは頷いた。
みんなの役にもたちたいもん。
「大丈夫、乗ります。飛行機」
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