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本編
ep09_2
しおりを挟む「はああああ、疲れたーっ」
「!? ど、どうした。なにかあったか」
ちょっと駆け足でギリアロさんの執務室に逃げ込んだ。
あ、もちろん、ヴィリオってひとは追って来なかったんだけどさ。
ずーっと見られてる感じして気持ち悪かったし。晶精がちょっとざわついている感じがわかったからかもしれない。まだ肌がぞくぞくしてる。
護衛のみんなは部屋の外で待機してもらって、あたしはふらふらひとりでギリアロさんの部屋にはいってさ。
「はー……。ギリアロさん、ソファーかりていい?」
「ん? ああ、まあ」
はーっ……ほんっとつかれた。
ギリアロさんってば出窓手前のとっておきのソファーまるごと空けてくれて、自分は執務机につけてる椅子の方に移動してる。
この部屋にある椅子はそれだけだからね。てか、仕事の時は執務机のほうに座ってよ……せっかく使えるようにキレーにしたのに。
……まあいいや。
ここのソファー、使いこみすぎてくたびれてるけど、ブーツ脱いで足までのっけちゃう。ふぅー、らくちんらくちん。
あっ、ギリアロさんがスゴイ目でみてきてるけど、いいじゃんね。ロングブーツ足蒸れるし。ギリアロさんだって普段からここでぐーたらしてるんだから。……まあ、寝っ転がりながら仕事もしてるみたいだけどさ。
「……ずいぶん疲れてるな」
「めちゃくちゃ早足で来たの、ここまで。遠回りで。さっき……なんだっけ、赤髪のひとにまた話しかけられてさ」
「ヴィリオ・ジ・ティーガか?」
「そうそう、そのひと」
出窓のところにのけられてた緑色のクッションを手にとって、抱きかかえる。
はー……あの手の威圧感、別にこれまでもなかったわけじゃないけどさあ。ギリアロさん以外の、オッサンでエラいひととかにも似たような目で見られたことあるし。
まあ、あたしスルースキルあるんで、そのへんはね? べつにって感じだけど。
「なんか、めちゃ威圧感マシマシ。こわ……」
威圧感も、ヴィリオってひとはちょっと飛び抜けてるよね。
ってか、思いだしたわ。
召喚された時もさ。めちゃくちゃ大勢のギラギラした目とか怖かったけど、一番怖かったの、多分あのひと。黒い目なんだけど、ギラギラしててさ。ヤなかんじ。
「お前さんとは年も近いだろ? 話は合わないのか?」
ああもう、ギリアロさんてばまだ他人勧めてくるの? いいかげん諦めてよね。
「あうわけないし。……いや、別にそんなに話してはないけど。根本的な価値観のちがいにじみ出すぎ」
「ああ……」
ギリアロさん納得してるね。
あたしの性格もうわかってるだろうから、そりゃそうかってかんじ?
でも、ヴィリオってひと、誰に対してもあんななのかな。
なんとなくだけど、この世界、なんだかんだいいひとが多いから、貴族のひとも気さくなとこあるって思ってたよ。
でもやっぱ、みんながみんなそういうわけじゃないんだね。そりゃそっか。
この国の貴族は、大体が北の貴族街に家をかまえてる。上から順番に、特級貴族、一級貴族、二級、三級まで。
もちろん大半の貴族が、この街の外に土地もってるみたいなんだけど。
特級貴族って、いちばん上じゃん?
「次男さんだけど、特級貴族なんでしょ? どうして奥さんいないの?」
いくら女のひとが少ない世界だっていっても、特級貴族の息子さんともなれば、婚約者くらいいそうだけど。
大隊長って言ってたし、なんだかんだ面倒見いいギリアロさんがあたしにも勧めるくらいのひとでしょ? ……いや、ちがうか。ギリアロさんの場合は、誰でもてきとーに勧めてただけか。――って気づくと、ややショックなんだけどさあ。
「あー……それは、だな……」
そうそう、それよりもヴィリオの話。
てか、ギリアロさんどもってるけど、なに?
「お前さんを待ってたんだよ」
「………………は?」
すごい面倒くさそうな言葉が聞こえたけど?
うーーーーーん、……マ?
「召喚のための晶精エネルギーの蓄積具合から、召喚の儀が今年執り行われることは3年ほど前には決められていたからな。アイツは22歳。嫁をとらずに、今年まで待っていた」
「……」
「特級貴族で、年回りがよさそうな未婚の男はあの男くらいだったからな。お前さんの婿の、第1候補だった」
「…………」
「蓋を開けてみりゃこのザマだったわけだが。特級貴族の面目は丸つぶれ。おそらく、今からでもお前さんを嫁に、とか考えてるんだろうな。俺もこの調子だし――お前さんと仲良くなりたいんだろう。
生活の安定はまちがいない。少し貴族らしい鼻につくところはあるが、身分は確かだ。今からでもアイツに変えていいんだぞ」
「ぜったいイヤ」
「くくっ……絶対か」
「ないない。あたし、ああいうひと、あう気がしない。…………ふつーに……怖いよ」
「そうか」
ぷーって頬を膨らませる。
なによなによ。あたしは、ギリアロさんのお嫁さんなのに、まだそういうこと言う???
……ま、わかってるけどね。どうせ、書面上の妻ですもんね。なんだかんだ世話焼いてくれるけど、あたしの存在、面倒くさいんでしょ。ふんだ。
これだけ仲良くなってるのに、あいっかわらず友達か保護者だもんね。
〈建前:お掃除〉に来たけど、これは傷心のサボりで決定。クッションぎゅーって抱きしめて、そのままふて寝しちゃう。
「おいおい、お前さん」
「なによなによ。ギリアロさんのばか」
「はああ?」
「傷ついたからここでふて寝するもん。ソファー占拠します。ギリアロさんはそこで仕事すれば?」
「はああああ?」
……もしかして、なにに傷ついたのかもわかってない感じ?
ギリアロさんデリカシーなさすぎでしょ。もう。
「お……おい……」
オロオロしてるのわかるけど、返事してあげないもん。なんで怒ってるかちょっとは考えてほしい。
そんなわけで、あたしはギリアロさんに背中向けちゃう。
ふんだ。ちょっとはあたしの気持ち、考えてよね。
「わ……悪かったよ……」
……なんて。
なにが悪いかぜんっぜんわかってないクセに、ご機嫌とるために頭なでるのもやめて。
他の男のひと勧めるの、やめてくれるだけでいいのにさ……。
ギリアロさんのばーか。
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