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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。

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「はー……やっぱ、とっとと――」
「うん? なあに?」
「――いや。いい。とにかく、風呂だ風呂」
「?」
「オマエから、別の男の匂いがする。クソ。許せん」
「えっ……」

 なんて。
 まるでいつかの時とはまったく逆で、ラルフがわたしの服を脱がしにかかる。

「いいだろ? めちゃくちゃ心配したんだ。――だから、よ」
「ぅ……うん」

 なにがいいか、なんて、もう聞かれなくてもわかる。
 つまりその……えっちがしたいって……言ってるんだよね?
 それに、余裕のない彼の表情を見て、こたえないはずもない。

 角部屋の、ちょっと大きい部屋。いつもふたりで過ごしている、あのアパートとはぜんぜんちがって。

「お風呂……いっしょに、はいる?」
「っ…………ん、お、おう」

 誘ってみたら、彼の緊張がようやくちょっと緩んで。
 ふふ、わかりやすい。
 こういうところ、すごく彼らしくて、好きだなって思う。

 なんだかふわーって、あったかい気持ちがあふれてきてさ。彼がするように、わたしもね? 彼の服に手をかけて。
 コート脱がせたり。ベルト外したり。
 ……いままでぜんぜん、恥ずかしくてこういうこと積極的にしてこなかったから、手間取っちゃうけど。でも、ラルフはわたしに任せてくれて。

「いいな、こういうのも」
「そう?」
「うん」

 あれ、これもしかして、ぜんぶ?
 ぜんぶわたしが脱がす流れになっちゃったかんじかな!?

 ふふ。でも、いっか、――って。
 わたわたしながら、順番に脱がしていって――。
 いよいよシャツのぼたんにとりかかってね。片腕ずつ、脱がせようってしたときにさ?

「あ」

 なんか、ラルフが急に思いだしたように声を出してさ?

「ん?」
「ま」

 まて。そう言おうとしたんだろうけどね?
 もう片方の袖、ひっかかってたところをはずして、シャツ、ひっくり返した瞬間にね?


 ころん。

 ころころころころころころ。

 こてん。


「……」
「……」
「………………んっ」
「………………んんっ?」

 運悪く? ポケットから転がり落ちた、小さな輪っか。
 無慈悲にもわたしとラルフからころころ遠ざかって行ってさ? こてんと倒れて。

「やっ!? あのっ!? こ、これはっそのっ……!」

 ランプの光うけて、きらきら輝いてるの。

 ゆびわ。
 ゆびわ……では、ないです???

「っっっ……な、ななな、あのっ、なっ」

 えっ?
 いやいやいや?
 まって!?
 ……!!!???
 …………まって!!!!!!

「いや、これはその、あのっ」
「っっっ」
「見て、ない、なっ!?」
「っ! ん、んんん、うん! 見てないっ、うんっ」
「だな! 何も見てねえ! そうだなっ!!!」

 みたけどね!!
 めちゃくちゃばっちり、見たけどねっ!!!

「おばかラルフ! なんでそんなとこっ」
「願掛けだっ!! ……!? ち、ちがっ。なんも見てねえんだろっ」
「見てないっ!! 見てないっ!!!」

 ぎゃあぎゃあふたりで大騒ぎして、ラルフはバタバタその……件の、アレをひろって。
 彼はわたしに背中をむけて、必死で磨くような素振りを見せつつ、しまい直して。
 哀愁漂うその背中に、わたしもどう声をかけていいやら迷うけど。

 あの。
 その。
 指輪って、つまり。
 その。
 ……期待して、いいの、かな。

 わざわざ。いま、見ちゃったけど、ここで――しないってことはさ?
 時期を待ってるって、考えて……いいの、かな?

 いいんだよね???


 はーーーーー。
 おどろいた。
 おどろいたけどさ。
 なんだか落ちこんでる彼が可愛く見えてきて、こっちむいてほしいなって思う。

 だって……たしかにね? ちょっと落ちこんじゃう気持ちはわかるよ? サプライズ、してくれるつもりだったんだよね?
 悪いことしちゃったなって思いつつも、わたし、めちゃくちゃうれしくてさ。
 胸がわーっていっぱいになって、彼を追いかける。

 うしろから抱きついてさ。
 まだしょんぼりしてるラルフの背中にいっぱいキスをして――。

「ね? いっしょにお風呂、入るんでしょ?」
「……はいる」
「ん。いこ? ねっ???」
「ぉぅ」

 ちゃんと待ってるからさ?
 そっと囁いたら、ラルフはなんともいえない顔をしてたけどさ?
 でも、頬が真っ赤だったから。

 背伸びしてちゅってキスしたら、頬がもっとゆるゆるになってね?
 笑いながら彼を浴室に引っ張っていった。

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