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第2話 恋のライバル登場に「えっ、ベタな……」ってなるのは許してほしい。
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しおりを挟む「いやー。この時期はいつもながらに壮観ねえ」
大小様々なモンスターの素材の山を確認しながら、ケーシャが手元のメモを埋めていく。
わたしリリーも、この日はエイルズの街中央付近にあるギルドホール……ではなくて、この日は西の職人街の方にある大倉庫の方へとやってきている。
毎年、秋の終わりごろに行われる冒険者たち合同の大討伐の一回目が、今年も無事に終わったところ。
大勢の冒険者が北のフィアーク山の麓の森へと出かけていって、一斉に狩りをして、素材を持って帰ってくるんだけどね?
これが、査定とかいろいろ大変でさあ。
冒険者ギルドだけじゃ追いつかないから、商人ギルドと職人ギルドも全部共同で、品評会――っていうか、競りが行われるの。
だから、ギルドホールじゃなくて、職人街の方でやってるんだけどね?
とにかく量が多いせいで、ごまかしも多い。
わたしは立場上、冒険者の利益を守らないといけないからね!
しっかり目を光らせてもらっている。
とはいえ、ちがう業種のひとと話すいい機会でもあるし、勉強にもなるしね。ちょっとしたお祭りの準備みたいな感じ。
どうしても稼ぎが少なくなっちゃう冬に向けて、冒険者のみんなもかき入れ時だし、わたしだって頑張らなきゃね。
すっごく忙しいけど、楽しいし……うん、この仕事、嫌いじゃない。
それに……今年はいつもより気合いが入っちゃって、いっそう、頑張らないと! って思ってるし、うん。
「あ、いたいた、リリーちゃん!」
と、そこで遠くから大きな声で呼ばれて顔を上げる。
「ジャックさん! お疲れさまです。ご確認に来てくださったのですね」
「ん。まあね」
と、私の方へ駆けてくる黒髪の男の人はジャックさん。
腕利きの冒険者で、銃士って呼ばれる特殊な銃を扱う専門職のひとだ。
仕事でラルフとよく組んでいて、今回も一緒に行っていたはずなんだけど。
「あれ? ラルフは?」
「ぷっ。……ふふ、リリーちゃん。いいね、ふふ」
「えーっと……?」
真っ先にラルフのこと聞いちゃったら、なんだか笑われてしまった。
すっごく微笑ましいものを見るような目をむけられてしまい、いたたまれない。
ううー……ラルフと正式につきあうようになってから、こういうからかうような目で見られること、しょっちゅうなんだけどね?
気恥ずかしくてどうしたらいいかわかんなくなる。
「ラルフもリリーちゃんのことばっか言ってたよ。仕事ぶりは――まあ、それなりに上の空だったけど。そこそこ素材はあったろう?」
「……すごい量でした……。あ、でも、上の空……?」
「もうね、惚気がすごいのなんのって」
「……ああ……」
ラルフが最近ずーっと浮かれてるってのはね?
ええと。知ってる。
めちゃくちゃいろんな人から言われるし……まあ、わたし自身もね? 見てたらわかるようになったっていうか。
いつもすごく嬉しそうだし、結構……すき、とか? わかりやすい言葉もくれちゃったりするし。
隙あらばえっちなことしようとするし……って、うわ! ちょっとわたし、気持ち悪い顔しちゃったかも!
わたしも人のこと言ってられないね!!
「ラルフがご迷惑をおかけしました。本当に、ごめんなさい……」
恥ずかしいことを思い出しちゃって顔が真っ赤になりそうだったので、慌ててぺこりと頭をさげる。
ははははは! ってめちゃくちゃ笑われたけど。
ううう、はずかしい。
「いやいや。それでも、元々の実力が実力だから。ひと一倍成果は持って帰ってきてるだろ? 怒らないであげて」
「でも、ジャックさんにご迷惑かけて……まったく、もう」
「いーよ。ま、流石に今リリーちゃんの邪魔をさせるわけにはいかないからね。置いてきたけど」
「うっ……正直……助かります……」
「ははははは!」
ちょっと詳しく聞いたところ、ラルフに言い聞かせるの、苦労したって。
申し訳ない……。
昨日、冒険者のみなさんが帰還してからさ、お互いにずっとバタバタしてて、帰ったらすぐ寝ちゃったしね。
今朝、わたしは仕事ではやく出なくちゃいけなくて。ラルフを起こすのも悪いなって思ったから、置いてきちゃったんだ。
久しぶりだったからいろいろ話したい気持ちはあるんだけど、もちろん仕事優先。
残念なようなほっとしたような気持ちになりながら、はーってため息をつく。
で、気持ちを入れ替えて、ジャックさんにわたしのほうでチェックした素材・品目を確認してもらう。
大まかな素材の解体は業者を通して作業中なのだけれど、内容にもれがないかってね。
「――で。リリーちゃんは今日、もうお仕事終わり?」
「? そうですね。あとちょっとです」
おおよそ確認が終わってようやく。
各素材にラベルも残したし、あとはギルドホールに帰還、報告書を提出して終わりっていうところだ。
「そ。じゃあ、ギルドホールまで送っていくよ」
「いいんですか?」
「暗くなってきたし、ラルフの彼女を一人歩きさせられないでしょ。あ、ケーシャちゃんも一緒?」
「はい」
「じゃあ、彼女も一緒に」
このあとの予定を確認しつつ、ケーシャも呼んで出口の方へと向かう。
ケーシャとジャックさんに囲まれて、他の職員に挨拶しつつ、先にギルドホールへ戻ることにして。
……で。この三人であるいていると、やっぱり、話題はひとつなわけですよ。
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