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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
1−13
しおりを挟む帰り道、彼とはぜんぜん話せなかった。
無言になればなるほど、このあとのことを考えてしまって。
彼の素直な行動に呆れもしたけど、でも、やっぱりどきどきしてて。
でも、ラルフの方はちがったのかな。
キスしなかったから、がっかりしたのかな。
同じアパートの前まで帰ってきて、彼は肩をすくめて、
「じゃあ、よ」
って言った。
それ以上なにを言うわけでもない。
もう夜も遅いからと、ちょっと名残惜しそうに笑いながら。肩をすくめて。
それから手を離して、自分の部屋の方へ向かって歩きはじめて。
ちがう。
そうじゃない。
これじゃだめだ。
なに寂しそうな顔させてるんだ、わたし!
「っ!」
全力で追いかけて、彼の背中に抱きつく。
彼の身体がビクって跳ねるように震えて、彼は立ち止まる。
そっと、腕を彼の背中からお腹の方にまわすと、私の手のひらの上にね? 彼の手、重ねてくれて。
「あ。あの……っ」
「っ…………お、う」
「はなしがっ。はなしが、ある、の」
だめだ。心臓。煩い。痛い。言いたくない。でも。
ぎゅっと、両腕に力を入れて、彼を抱きしめる。
ちゃんと話さなきゃ。
このままじゃわたしたち、いつまでも前に進めない。
震えるわたしの声に、ラルフも戸惑ってた。
「お、う。……ここ、で?」
なんて、途切れ途切れにたずねて。
「できれば。へや、で」
「…………」
生唾をのみ込むのが聞こえてきて。
「…………おまえの? おれの?」
「……どっちでも」
「そ、……か」
そ、か。そう、か。
何度かそうやって唱えながら、彼はわたしの腕をはずして、改めて手を繋ぎなおす。
それでもう一度、わたしの手をひっぱった。
今度はがっちり。ちょっと痛いくらいに。
前を進む彼の顔は見えない。でも、ちょっとだけ雰囲気が強ばってた。
そのままずんずんと、ラルフの部屋の方へ向かったかと思うと、彼が鍵を開ける。
背中を押されて中に入ると、彼が照明の魔石を灯した。
もう、何度も何度も来たことのある彼の部屋。
彼は適当に大剣を棚にひっかけ、鎧も外してしまう。袖なしのシャツとズボンだけになって、あらためてわたしの方を見た。
ダイニングにはふたりがけのテーブルがあるけれど、彼はそこを選ばなかった。
ソファー代わりの寝室のベッドまで手を引かれて、ふたりで、ゆっくりと腰をおろす。
そして、彼はわたしの腰に腕を回したまま、動かない。
ううん。たまに自分の額に手を押さえながら、何度も何度も首を横にふってた。
わたしも。話をしなくちゃ。
そう思うのに、やっぱり、怖いみたいで。言葉がうまく出てこなくて、口を開けたり、閉めたり、そればかりで。
「あの……ひとつ言っておくが。夜に、つきあってる男の家に来る意味、わかってるよな……?」
「……」
「メシのあとにも伝えたろ? オレも男で。爆発しそうになることがあるって……」
「…………っ」
「だからほんと、まだ覚悟――」
「あのね!」
声、でた。
震えてるけど、ちゃんと、出て。彼は口を閉じる。
わたしの腰には腕を回したまま。でも、体をこっちにむけて、ちゃんと聞こうとしてくれて。
もちろん、彼の言いたいことはわかってる。
それに、キスの約束も、反故にしたつもりはなくて。
でも、いまのままじゃ。嘘で塗り固めたわたしのままじゃ、それをする資格がないから。
「あの――」
でも、何から話したらいいかわからないわたしは、頭が働く前に、言葉が出ちゃって。
「ごめんなさい!!」
「……っ」
彼の体が震える。でも、わたしももう、止められなくて。
「わたし、ずっとラルフに嘘ついてた!」
ラルフは瞬く。
わたしの言葉の意味がすぐに理解できなかったのか、ぱちぱちって、何度も。
「うそ……?」
「っ。こくはく。誕生日の日の。あれ」
「……」
「…………」
「………………まさか……」
「ば……」
言え。
「罰ゲームで。嘘の、こくはく、した……」
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