【R18】嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

浅岸 久

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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

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 そんなこんなで、ラルフってばしばらく落ちこんでたんだけどね。
 ご飯食べてるうちにすっかり元気になってた。なんか、美味い美味い、って何度も言ってくれてさ。
 お家のこととかも、もう蒸し返したりしないの。
 なにそれ。なにひとりで大人みたいな……。

「はー……美味かった! やっぱ、オマエの料理は美味いよな」

 ……なんて。
 全部気持ちよく食べきってから、改まって、すごーく満足そうに言ってくれるしさ。

「綺麗に食べてくれてありがと」
「たりめーだろ?」

 でね、ここでも改めて気づいたことがある。
 前まで、彼がうちのご飯食べに乱入してくるときってさ、ほんっといきなり来て横から勝手に手を出して食べちゃうから、いつも腹立っちゃって気がつかなかったんだけどさ?
 彼ね? 美味しいって、いままでも、いつも言ってくれてた。
 もっと味わって食べてよ! って、わたしは怒ってばかりで、そんな……そんな……。
 ……そんないまさらな、日常の当たり前すぎるやりとり、気がつけないよ……!

 でも、ケーシャにも言われてから、ちょっとずつ見えてくることが増えたんだよね。
 ラルフってば、前からずっと、当たり前のようにさ? いろんな場所で、わたしのこと尊重してくれてた。……多分だけど。
 近くに住んでた理由もそうだし、美味しいのひとことだってそう。
 ほんとに、わたしが気づけてなかっただけなんだよね。


 ……はぁーって、ためいきをつきたくなる気持ちを抑えて、わたしは食器を片付けはじめる。
 流し場の方にお皿を持って移動して、水を出す魔石を入れたところで、後ろからにゅっとごっつい腕が伸びてきて。

「!」
「オレも、手伝う」
「え!? あ!? なんで!?」
「なんでって……そんなの」

 ごにょごにょって、ラルフってば何か呟いているけど、聞き取れません!
 頭ひとつぶん背の高い彼の方を見上げると、なんか、ちょっと頬が赤くなってるみたいで。

「いーから。ほら。とっととやるぞ。ふたりでやった方が早いだろ」
「いや、ウチの流し場狭いんだけど? 知ってるでしょ?」
「そうだけどよ。だからとっとと……いっしょに――――」
「ん?」
「――――いや。ほら。とにかく。オマエ洗え? な? オレ、拭くからよ」
「ぅ……うん……」

 狭い流し場にふたり並んで、身を縮こまらせながら一緒に洗い物してさ?
 いつもよりちょっと楽で、いつもよりちょっと恥ずかしかった。

 別に、恋人らしいことされてるわけじゃないのにねっ。
 わたしがお料理したんだから、お片付けくらい手伝ってもらってあたりまえと言いますかっ。
 はぁ――――っ。
 なのになんでかな。
 なんでこんな、心臓どきどきするのかなっ。

 彼と一緒にご飯食べること、すっごく増えて。朝と、夜はもうほんと毎日。
 食材買い込むのなんか、彼が昼間のうちに済ませてくれることも増えてさ。家も、同じアパートだからね? なんか、ほんとに、別々に寝ているだけで、一緒に住んでいるみたいになってる。

 いやいや、でも、前からそういう感じではあったし。
 あー……うん。改めて考えてみると、そっかぁ。そういう、感じ、だったんだよなあって。

 ラルフってば、なにかとわたしの部屋に転がり込んでさ? 
 ……もらったとか、なんか言いながら、食材持ってきてくれたりさ。
 うん。
 わかんないよ。
 そんなの、感覚マヒしちゃって、全っ然気づかなかったって。

 ……なのに今ならわかる。
 いろいろ、繋がっちゃった。
 あれが彼なりの、当時の精一杯の気づかいとか、そういうので。
 はぁー……もう、ほんと、胸、痛いよ。
 なんだかラルフを騙してるような、すっごく悪いことしてる気分だ。



「――よし、これでおわりか」

 なんて、考えごとしているうちに、手元のお皿はぴかぴかになってた。
 ついついぼーっとしちゃってたから、わたしは慌ててさ、食後のコーヒーでもって、言おうとした。

 そしたらなんか、

「な。リリー……」

 にょきっと、また横から腕が伸びてきて。

「!」
「逃げないでくれ……っ」

 ぎゅって、抱きしめられてたんだ――。
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