7 / 59
第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
1−7
しおりを挟む結論からいうと、言えなかった。
……何度も何度も言おうって思ったのに、言い出せませんでした。ハイ。
だってね。あのラルフがだよ?
わたしの目の前でさ、嬉しそうに笑ったりして。見たことなかったようなはにかんだ顔とか向けられるとさ? なんかもう、だめで。
……で、最初に言いだせないとさ、もう、ずるずるずるずる。
おかしい。
わたし、こんなに引っ込み思案な人間だったかなあ!
相手、あのラルフだよ? 遠慮なんかしたことなかったのに。
ほんっと。
ほんと、ごめん。ラルフ。ごめん……。
でもね? ラルフもラルフでさ、今までとは、ぜんっぜん違うんだもん。
なんか、すごく、優しいし。気をつかってくれるしで。
傷つけたくないって気持ちがどんどん大きくなってって……うん。はい。いいわけです。すみません……。
そんなわけで、ずるずると嘘で塗り固めたままラルフと一緒に過ごしてる……。
もうね? 仕事してる最中もなんかアイツのこと考えちゃって落ち着かないし。
たまにお客さんにも噂の真偽聞かれるしさ!
わたしはどっちつかずの返事しかできなくて、そこでも自己嫌悪になるし……。
せめてラルフと会わずに、もうちょっと頭の中整理する時間があればいいのにさ。
わたしの担当クエストって、セミレアモンスターからの素材採取とか、職人ギルドと連携する特殊素材流通関係の案件が多いのね?
そういうのって、1~2週間くらいの遠征がメインになりがちなの。
だからラルフにそういったお仕事ふって、ちょっと頭冷やす時間を……って思うのに。
……ここのところ、ラルフってさ、遠征には行きたがらないんだよね。
いわく――、
「今、つきあい始めだろ? オレがこの街離れてる間に、焦ったヤツがオマエにちょっかいかけねえか、気が気じゃないっつーか」
「いやいや、ないよ。そんな! わたし、地味だし。今までだってなんもなかったじゃない。今さら――」
「バーカ。お前がそう平和ボケしてるから……まあ、させてきたのはオレのせいでもあるけどよ……」
「???」
「とにかく! オマエがオレの恋人になったって、見せつけてる最中だから。しばらくは遠出のクエストは引き受けてやれねえ。つか、そんな緊急性のたかいモン、ねーよな?」
「な、いけど……」
「だったらいいじゃねーか。オレ、もう少しオマエといたいし」
――――だそうで!!
日帰りでこなせるクエストをいくつか同時進行してくれるっていう荒技を見せながら、朝、一緒にギルドホールへ行って、夜、一緒にギルドホールから帰る日々。
そう。
ラルフってば遠出しない分、わたしの勤務時間にあわせてガッツリ仕事を入れてくれちゃって。難易度は若干落ちるけど、どんどんわたし担当の依頼が捌けていくわけなのです。
そんなこんなで、彼と一緒に過ごす日々が、積み重なっていく。
わたしはどうしていいかわからなくて、いつもみたいになかなか自然にしゃべれなくてさ。
それも彼はわかってくれてたのかな。
ラルフってば、おでことか頭のてっぺんにちゅってすることはあるけど、それ以上のことはしない。……っていうか、なんだか、待っててくれてる気がした。
わたしのイメージしてたラルフのさ……手が早いっていうか……他の女の子たちに見せていた態度とはぜんぜんちがってて。
嫌でもわかる。
なんだか、めちゃくちゃ、大切にされてる。
軽口叩きながらも、ホントに嫌がるようなことは言わないし、別に何をするわけでもないけど、わたしの部屋でごろごろしてる時間が増えた。
自分の部屋は荷物が多いから、こっちの方が居心地いい――とか言ってさ?
今日もね、晩ご飯支度している最中、わざわざわたしの部屋で武器の手入れしたりしてたからさ。
「あのね? ラルフ。前から思ってたんだけど、荷物多いならおっきい家に引っ越せばいいと思うの」
別に本気でダメだししたいわけじゃないよ?
でも、つい素直じゃないことしか言えないっていうかさ。
テーブルにお料理並べなら何気なく言ってみただけ。
「……え?」
「いつも狭いところで武器の手入れしてるしさ? ラルフなら、もう少し大きな部屋借りても――」
「いいのかっ!?」
「は? そんなの、当たり前でしょ?」
ラルフ自身のことなんだから、好きにすれば良いと思う。なのにどうして、そんな嬉しそうな顔するかなあ。
ガタって立ち上がって、わたしの手からいそいそと食器受け取って並べはじめてさ。
「ちょ、手を洗ってからにしてよ!」
「いつ、家探しにいく?」
「は? いつでも行けばいいじゃない。子供じゃないんだから」
「――こどもじゃ、ない」
なんて生唾のみ込んでさ。ぶつぶつぶつぶつ、なにかひとりでつぶやいてた。
「そうだよな。もう、子供じゃないんだもんな。うん、もう少し丈夫で、広いとこ、いいなって思ってたんだ」
「だったらもっと早く引っ越したらよかったのに」
「いやでも、オマエがそんなつもりだったとか、しらねーし。……でも、そっか。じゃあ、次の休みにでも早速」
「いいんじゃない? まあ。こうやってご飯食べに来るなら、ちょっと遠くなるけどさ」
「そうだよな。メシ――――ん?」
今までだって、別にわたしが引き留めてたわけじゃなかったのにな。
ラルフってば結構所得あるはずだから、大きい家に住んだらいいと思ってたんだ。
冒険者って、ただでさえ荷物も多くなりがちだしね?
うんうん、とわたしが頷いていると、わたしの隣でラルフが硬直してた。
なんか、愕然としててさ。
「…………そういうことか……」
「ん?」
「いや。期待したオレがバカだった。いくら彼女になってくれても、オマエはいつまでたってもお子様か……」
「は?」
「あのなあ。オレがどーしてわざわざここに住んでると思ってんだ……」
と、そこまで聞いて、わたしははじめて彼との思い違いに気がついた。
「引っ越さないよ!?」
つまり、一緒に住もう的な!? お誘いだったりしたの!? 今!?
……でもって、ずっとここのアパート住んでるのも、わたしと離れたくなかったから、とでも? 言おうとしたり?
えっ。ええーっ……。
いやいや。しらないよ。
気がつけるわけないよ、そんな。
そんな理由、全然! わかんなかったし!!
83
お気に入りに追加
644
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる