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番外編(後日談)

番外編2 なあ、シェリル オレは9年も待たせちまったんだな−1

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* * * * * * * * * *

シェリルとレオルドが結婚して最初の春。
冬明けの大討伐を終えて、レオルドは久しぶりにシェリルの顔を見るため、全力で自宅へ向かっていた。

* * * * * * * * * *





 ダッダッダッダッ!

 あと少し。もう少し。
 そう考えるだけでオレの足はますます速くなる。

 今回の仕事を終えるなり、船着き場から飛び出し、オレは全力で屋敷を目指す。
 身体強化をしているからそれほど時間もかかりはしないけれども、何日もあのぽやっとした顔を見ていないと、どうもソワソワする身体になっちまったらしい。

 レオルド・ヘルゲン――――いや、ちがうな。まだなかなか慣れねえが、レオルド・アルメニオは、冬明けの大討伐を終えて真っ先に可愛い嫁さんの顔を見に走る。


 ここ、フォ=レナーゼでは、冬の間は近海のモンスターが凶暴になるから一般商船の渡航は禁止されている。
 春になるとようやく諸々の取引が解禁になるわけだが、渡航する船が増える直前のこの時期に、国からの依頼で増えたモンスターの大討伐をするのが習慣なんだそうな。
 今年からは当然、オレも駆り出されることになった。かなり割の良い仕事だし、喜び勇んで出たはいいんだがな……。

 わかっていたが、海への航海は数日は陸に戻れない。
 今年はオレが居たから討伐期間が短くすんだとは言われたけれども、それでも二週間近く船の上。
 そのうえ、シェリルが居なけりゃ魔力欠乏による欲求不満の解消もままならねえ。
 オレはシガレットはやんねえから、クッソ不味い高魔力保有植物のジュースみたいなモンをしょっちゅう飲ませられたんだが、マジで吐きそうなほどクッッッソ不味かった……。
 船室にひとりで籠もってヌいてなんとか処理してはいたんだけど、たまにマジで熱が出てフラフラしてたし、つのるイライラを全力でモンスターにぶつける日々だったよな……。

 アレをシェリルはずっと続けてきたわけだ。
 改めてシェリルのすごさを実感しながらも、オレは早々に自分には無理だと判断した。

 絶対に護るから、来年はシェリルも連れていくと強く決めて、オレはひた走る。
 街の住民がオレを見つけるたびに挨拶してくれるんだが、それもそこそこに手を振りかえしつつ、中央公園を抜けた向こう――高級住宅地の一角にあるアルメニオの本邸に向かった。

 丁度オレが討伐から帰る頃には新しい家への引っ越し時期とかぶるはずだから、本邸か、商会の方か、新居にいるかは定かじゃない。
 けどシェリルには、オレが長期不在の間、できる限り本邸にいろよとは口を酸っぱくして言っているからな。
 なぜって?
 そんなの、警護の問題に決まっているだろう。

 新居は護衛も使用人もあまり雇わず、無理のない範囲で生活していこうってシェリルが提案してきたんだ。
 まあ、オレが使用人が多い生活にあんまり慣れなかったことも配慮してくれたんだろうな。
 アンナやキースには日中シェリルについていてもらうことをすでに了承済みだが、住み込みの使用人を雇うつもりはなかった。だから、オレが居ないと夜の間、シェリルの護衛がいなくなっちまうんだ。

 オレが当面の金を貯めたら、お互い働き方については考えていこうって話はしている。
 オレたちはふたりとも魔法使いだからな。離れて仕事すると、いつかきっと破綻する。
 ――というか、オレがあの激マズ料理で我慢できるはずもなし。
 遠征するなら絶対シェリルは連れていくし、シェリルを連れていくとすれば過酷すぎる遠征なんかはさせる気はないわけで。

 っとまあ、シェリルを置いて長期の遠征に出ることは、今後ないつもりでいる。
 シェリルはシェリルで、従来やってたっつう商会の仕事もあるらしいしな。これから先は、基本、オレはシェリルの護衛だ。それが一番、オレ自身も安心ができるしな。


 ――と、いろいろ考えをめぐらせているうちに、アルメニオ家の正門が見えてきた。
 閉ざされた正門をひょいっと跳び越えて、オレは真っ直ぐ玄関口へと向かう。
 こういうことをするとすぐにキースが怒りやがるが、まあ、今日は許してほしい。一刻も早く、シェリルの顔が見たいだけなんだ。

「!? レオルド様!?」
「まあ、いつのまにお帰りに?」

 やっぱり使用人たちが目を丸めているけれど、軽く流してオレはシェリルの居場所を聞く。
 今日は本館の方の昔の部屋の荷物を整理しているらしく、オレは真っ直ぐ上の階へと脚を進める。

 丁度、シェリルの部屋の前にはいくつか荷物が運び出されているようで、作業中ではあるらしい。
 けれども、この部屋自体は使えるようにして残しておくらしいので、荷物自体は少なめだ。

「ごくろーさん」

 出入りしている使用人たちに声をかけて中に入ると、そこにはこぎれいに片付けられたシェリルらしいさっぱりとした部屋が残っている。

 ちまちまとした花柄やら何やらの女らしい装飾が散りばめられていて、シンプルでかわいいモノが好きなアイツに似合いの部屋だ。
 とはいえ、ぱっと見シェリルの姿が見当たらない。
 と、丁度、部屋の奥の扉が開いていて、そこから出てきたアンナと目があった。

「あら、レオルドさま。お帰りなさいませ」

 オレがシェリルと結婚してから、アンナもオレのことを様をつけて呼ぶようになった。シェリルのことも、名前で呼ぶようになったしな。
 アンナは少し驚いたような顔を見せてから、奥の扉の向こうに声をかける。

「シェリルさま、レオルドさまがお戻りでいらっしゃいます」
「!? レオルド!? ちょっと、まって……!」

 と、パタパタと奥から出てきたシェリルの姿を見て、オレはゴクリと唾を飲み込んだ。

 いつもは真っ直ぐに下ろしているか、ハーフアップにしている長くて黒い髪を、今日は左右にそれぞれ三つ編みでまとめている。
 まるで尻尾みてえにふわっと揺れて、素朴なその髪型が妙に愛らしく見えた。

 シェリルは自ら部屋の奥の荷物を片付けているらしくて、動きやすい軽めのワンピースを着ている。
 それがまるで町娘みたいで、普段の彼女と雰囲気が違って、これはこれで可愛らしかった。

(ヤベエ……こういう格好の女、昔はまるで興味なかったのに)

 それがシェリルだっていうだけで、あっという間に勃っちまいそうだから困る。

「あー……今ちょっと、片付けてるところだから。すぐに終わるから! そこで待っててっ」

 久しぶりってこともあってすぐさまアイツを抱きしめたかったのだけれども、アイツは慌てて向こうの扉の奥に隠れちまいやがった。
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