21 / 75
6.記事の相談
1
しおりを挟む
方向性も決まったので、記事の構成について野々原さんと話し合うことにした。
狭い一階の部屋で話すと天野社長と長洲さんの仕事の邪魔になりそうなので、二階に上がる。パーテーションで区切られた休憩スペースのパイプ椅子に座り、机に日記と資料を広げた。
「さっそく始めましょうか!」
「星井君気合入ってるね」
野々原さんはパイプ椅子をキィキィ言わせながら言う。確かに僕はなんだかわくわくしていた。なんだかんだ言って、事件の真相を探るのも、それをどうやって発表しようか考えるのも楽しい。
「初めてみたら意外と楽しくて。
アイトの記事って正直言って悪趣味な感じがして、最初は気乗りしなかったんですけど。ほら、被害者のその後を調べたりこの人物が怪しいんじゃないかって匂わせたり」
「そうなの?あんまりちゃんと読んだことないから気づかなかった」
「読んでおいた方が良いですよ。これから僕たちも書くんだし」
「はーい。でも、犯罪の話って読んだ後気分悪くなるからあんまり好きじゃないんだよねぇ」
野々原さんはぼんやりとした口調で返事する。
「わかります。事件の話って気分悪くなりますよね」
「だよねぇ。こんなもの好き好んで買う人理解できない。刺激が欲しいのかな」
野々原さんは今月号のアイトをこんなもの呼ばわりしながら掴み上げる。
「でも、天野社長がせっかく僕ら二人に任せてくれたんですから頑張りたいですよね!どうせなら、ほかのメディアと違う切り口の記事にしてみたいです!」
「そんなことできる?」
「わからないですけどやってみたくないですか?」
「星井君が主導でやってくれるんなら私はいいけど」
野々原さんは気のない返事をする。僕は構わず続けた。
「天野社長には、烏丸……メイドKを中心にするように言われたじゃないですか」
「うん」
「野々原さんはメイドKに対してどんなイメージを持ってますか?」
「え?それは、怖い人だよ。お屋敷で殺人事件を起こして、火事に関わってるかもしれないって話もあって。イメージ的には怪談に出てくる悪霊みたいな感じ」
「世間でも同じようなイメージだと思います。もう都市伝説みたいになってるんですよね。でも、烏丸玲佳だって人間なんだし、何を考えて事件を起こしたか気になりませんか?」
「それは、伊勢さんも言ってた通り嫉妬とかじゃない?」
「それはただの推測じゃないですか。烏丸玲佳が考えていたことなんて誰にもわかりません。烏丸玲佳が何を考えて殺人事件なんて起こしたのか、考えてみたいんです」
「でも、本人は10年以上行方不明なのに考えてたことなんてどうやって調べるの?」
「それが難しそうなんですよね……。でも、鳩羽ひまりの日記が何かヒントになるかもしれません。野々原さんはまだ読んでないと思いますけど、あの日記には鳩羽さんが石鷲見家に来た当初の一家の反応が書かれていました。
正直、大分冷たい人たちだったんだなって印象を受けました。石鷲見家の長女なんか、わざと意地悪をしているとしか思えないし。世間ではメイドKの事件さえ起こらなければ石鷲見家は模範的で仲のいい理想の一家だったなんて言われてますけど、本当なのかどうか。
石鷲見家が烏丸玲佳につらく当たっていたのが事件のきっかけになったって説もなくはないと思うんです」
「へぇ。そんなこと書いてあったんだ。再現ドラマでは雇い入れたメイドがおかしな人物で、しだいに一家は追い詰められていった……みたいな扱いだったけど、実際のところはわからないね」
野々原さんはそう言うとスマホを操作しだす。何をしているんだろうと思っていると、動画サイトの画面を見せてくれた。
「アップされてた!これ多分、私が小学生の時に見たやつと同じ」
「あ、僕も見たことあるかも」
「せっかくだし見てみようよ」
野々原さんはそう言って再生ボタンを押す。まるでホラー映画みたいなBGMとともに、群馬一家焼死事件のタイトルが映し出された。
狭い一階の部屋で話すと天野社長と長洲さんの仕事の邪魔になりそうなので、二階に上がる。パーテーションで区切られた休憩スペースのパイプ椅子に座り、机に日記と資料を広げた。
「さっそく始めましょうか!」
「星井君気合入ってるね」
野々原さんはパイプ椅子をキィキィ言わせながら言う。確かに僕はなんだかわくわくしていた。なんだかんだ言って、事件の真相を探るのも、それをどうやって発表しようか考えるのも楽しい。
「初めてみたら意外と楽しくて。
アイトの記事って正直言って悪趣味な感じがして、最初は気乗りしなかったんですけど。ほら、被害者のその後を調べたりこの人物が怪しいんじゃないかって匂わせたり」
「そうなの?あんまりちゃんと読んだことないから気づかなかった」
「読んでおいた方が良いですよ。これから僕たちも書くんだし」
「はーい。でも、犯罪の話って読んだ後気分悪くなるからあんまり好きじゃないんだよねぇ」
野々原さんはぼんやりとした口調で返事する。
「わかります。事件の話って気分悪くなりますよね」
「だよねぇ。こんなもの好き好んで買う人理解できない。刺激が欲しいのかな」
野々原さんは今月号のアイトをこんなもの呼ばわりしながら掴み上げる。
「でも、天野社長がせっかく僕ら二人に任せてくれたんですから頑張りたいですよね!どうせなら、ほかのメディアと違う切り口の記事にしてみたいです!」
「そんなことできる?」
「わからないですけどやってみたくないですか?」
「星井君が主導でやってくれるんなら私はいいけど」
野々原さんは気のない返事をする。僕は構わず続けた。
「天野社長には、烏丸……メイドKを中心にするように言われたじゃないですか」
「うん」
「野々原さんはメイドKに対してどんなイメージを持ってますか?」
「え?それは、怖い人だよ。お屋敷で殺人事件を起こして、火事に関わってるかもしれないって話もあって。イメージ的には怪談に出てくる悪霊みたいな感じ」
「世間でも同じようなイメージだと思います。もう都市伝説みたいになってるんですよね。でも、烏丸玲佳だって人間なんだし、何を考えて事件を起こしたか気になりませんか?」
「それは、伊勢さんも言ってた通り嫉妬とかじゃない?」
「それはただの推測じゃないですか。烏丸玲佳が考えていたことなんて誰にもわかりません。烏丸玲佳が何を考えて殺人事件なんて起こしたのか、考えてみたいんです」
「でも、本人は10年以上行方不明なのに考えてたことなんてどうやって調べるの?」
「それが難しそうなんですよね……。でも、鳩羽ひまりの日記が何かヒントになるかもしれません。野々原さんはまだ読んでないと思いますけど、あの日記には鳩羽さんが石鷲見家に来た当初の一家の反応が書かれていました。
正直、大分冷たい人たちだったんだなって印象を受けました。石鷲見家の長女なんか、わざと意地悪をしているとしか思えないし。世間ではメイドKの事件さえ起こらなければ石鷲見家は模範的で仲のいい理想の一家だったなんて言われてますけど、本当なのかどうか。
石鷲見家が烏丸玲佳につらく当たっていたのが事件のきっかけになったって説もなくはないと思うんです」
「へぇ。そんなこと書いてあったんだ。再現ドラマでは雇い入れたメイドがおかしな人物で、しだいに一家は追い詰められていった……みたいな扱いだったけど、実際のところはわからないね」
野々原さんはそう言うとスマホを操作しだす。何をしているんだろうと思っていると、動画サイトの画面を見せてくれた。
「アップされてた!これ多分、私が小学生の時に見たやつと同じ」
「あ、僕も見たことあるかも」
「せっかくだし見てみようよ」
野々原さんはそう言って再生ボタンを押す。まるでホラー映画みたいなBGMとともに、群馬一家焼死事件のタイトルが映し出された。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
アザー・ハーフ
新菜いに/丹㑚仁戻
ミステリー
『ファンタジー×サスペンス。信頼と裏切り、謎と異能――嘘を吐いているのは誰?』
ある年の冬、北海道沖に浮かぶ小さな離島が一晩で無人島と化した。
この出来事に関する情報は一切伏せられ、半年以上経っても何が起こったのか明かされていない――。
ごく普通の生活を送ってきた女性――小鳥遊蒼《たかなし あお》は、ある時この事件に興味を持つ。
事件を調べているうちに出会った庵朔《いおり さく》と名乗る島の生き残り。
この男、死にかけた蒼の傷をその場で治し、更には壁まで通り抜けてしまい全く得体が知れない。
それなのに命を助けてもらった見返りで、居候として蒼の家に住まわせることが決まってしまう。
蒼と朔、二人は協力して事件の真相を追い始める。
正気を失った男、赤い髪の美女、蒼に近寄る好青年――彼らの前に次々と現れるのは敵か味方か。
調査を進めるうちに二人の間には絆が芽生えるが、周りの嘘に翻弄された蒼は遂には朔にまで疑惑を抱き……。
誰が誰に嘘を吐いているのか――騙されているのが主人公だけとは限らない、ファンタジーサスペンス。
※ミステリーにしていますがサスペンス色強めです。
※作中に登場する地名には架空のものも含まれています。
※痛グロい表現もあるので、苦手な方はお気をつけください。
本作はカクヨム・なろうにも掲載しています。(カクヨムのみ番外編含め全て公開)
©2019 新菜いに
【完結】タイムトラベル・サスペンス『君を探して』
crazy’s7@体調不良不定期更新中
ミステリー
過去からタイムトラベルをし逃げてきた兄弟が、妹の失踪事件をきっかけに両親が殺害された事件の真相に挑むミステリー
────2つの世界が交差するとき、真実に出逢う。
5×××年。
時を渡る能力を持つ雛本一家はその日、何者かに命を狙われた。
母に逃げろと言われ、三兄弟の長男である和宏は妹の佳奈と弟の優人を連れ未来へと飛んだ。一番力を持っている佳奈を真ん中に、手を繋ぎ逃げ切れることを信じて。
しかし、時を渡ったその先に妹の姿はなかったのだ。
数年後、和宏と優人は佳奈に再会できることを信じその時代に留まっていた。
世間ではある要人の命が狙われ、ニュースに。そのことを発端にして、和宏たちの時代に起きた事件が紐解かれていく。
何故、雛本一家は暗殺されそうになったのだろうか?
あの日の真実。佳奈は一体どこへ行ってしまったのか。
注意:この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
【解説】
この物語は、タイムトラベルして事件の真相を暴くのではなく、縛りがあってタイムトラベルすることのできない兄弟が、気づきと思考のみで真相に辿り着くという話。
なので殺害方法とかアリバイなどの難しいことは一切でない。知恵で危機を乗り越えていく。
雛本三兄弟シリーズとは、登場人物(性格などベース)だけは変わらずに色んな物語を展開していくパラレルシリーズです。
なにかと困る 磯貝プリント株式会社
霜月透子
ミステリー
下町の小規模企業、磯貝プリント株式会社。従業員80人くらい。社員20人、あとはバイトとパート。社長、専務など役員は主に身内という、アットホームな会社。基本平穏。たまに謎発生。そんなときはちょっとだけ困る。
20代若手社員・石井祐介と60代パート従業員・大塚幸枝のコンビが困りごとを解決していく、ささやかな日常ミステリー。(お仕事タグを付けたのにお仕事っぽさがなくてすみません……)
【第一章 また蓋がなくなりました】
最近、職場の給湯室で、容器の蓋という蓋がなくなるという。
【第二章 またネズミが鳴きました】
最近、社長室で決まった時間にネズミの鳴き声がするという。
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
人狼ゲーム『Selfishly -エリカの礎-』
半沢柚々
ミステリー
「誰が……誰が人狼なんだよ!?」
「用心棒の人、頼む、今晩は俺を守ってくれ」
「違う! うちは村人だよ!!」
『汝は人狼なりや?』
――――Are You a Werewolf?
――――ゲームスタート
「あたしはね、商品だったのよ? この顔も、髪も、体も。……でもね、心は、売らない」
「…………人狼として、処刑する」
人気上昇の人狼ゲームをモチーフにしたデスゲーム。
全会話形式で進行します。
この作品は『村人』視点で読者様も一緒に推理できるような公正になっております。同時進行で『人狼』視点の物も書いているので、完結したら『暴露モード』と言う形で公開します。プロット的にはかなり違う物語になる予定です。
▼この作品は【自サイト】、【小説家になろう】、【ハーメルン】、【comico】にて多重投稿されております。
「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」
百門一新
ミステリー
雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。
彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!?
日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。
『蒼緋蔵家の番犬』
彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる