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第一話・パール・カクルック

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ーーーカクルック公爵家。

代々王家直属の部下として、仄暗いことから表側のことまで、ありとあらゆることをやってのけ王家の信頼を勝ち取った、通称『守護門カクルック』。
国の犬だと皮肉られることも多々あるが、ひたすらに王家に従いその地位を築き上げてきたのだ。国の犬上等だとはカクルック家当主談である。

そんなカクルック家に長女であり一人娘として生を受けたのが、パール・カクルックという齢16の少女。

光を織り込んだように淡く輝く白藍のロングヘアーに、髪よりも冷たい印象を感じさせるアイスブルーの瞳。それらを合わせ持った彼女の容姿は大変整っていて、『夜の天使』や『雪薔薇の精霊』などと、社交界では絶賛されていた。

それだけではない。
彼女は努力を惜しまない性格で、勉学に魔法学、はたまた身体能力を鍛えることまで、普通の令嬢がしないようなことを必死にやり続けた。総ては、王家のため。この国のため。この家の総意はその言葉であり、カクルックの一人娘であるパールに、逃げの選択肢など存在しなかった。

周囲はもちろん彼女の肉親もその姿勢を大変高く評価したが、同時に止めてもいた。

彼女は、幼少期から努力を続けたせいで、休み方が分からなくなっていたのだ。

まず、幼い頃の記憶は勉強勉強勉強。スパルタ教育だと意気込んだ両親が大量に与えたテキストを、毎日解く日々であった。

年少期も勉強。両親は流石にやばいと、あんなに小さい頃から刷り込みのように勉強をさせてきたのは洗脳に近かったのではと青褪め必死に気を逸らそうとした。が、毎日『総ては王家のために』とそれこそ産まれた時からずっと言われ続けてきたパールが勉強をやめることはなく、寧ろこの頃から更に色んな分野に手を出し始めた。

年中期、勉強。魔法の練習。魔法学。歴史。刺繍。ダンス。マナー講座。音楽。エトセトラエトセトラ……。彼女の親は必死に止めた。そんなに無理することはないと。ゆっくり私達とお茶会でもしようと。彼女は、幼い頃両親が言っていたのと同じように、必死に止める親たちに言い放った。『これも、総て王家のためです』と。

そこからは、殆ど同じであった。
努力しすぎる彼女を両親が必死に止め、彼女がすきを見ては勉強勉強勉強。
最早、最初のスパルタ教育をしようとした両親と無垢な赤子の面影はどこにもなかった。そりゃそうだ。娘がスパルタ通り越して息するのと同じように勉強してたらそうなる。

彼女の両親はとても落ち込んだ。
幼い頃、洗脳に近い形で刷り込みさせ毎日勉強させるなど虐待だと。私達のせいでこうなってしまったと。だが、それでもどうにもならないと分かってからは、娘をひたすら甘やかした。ほら、もういいよ。ここでだらだらしよう、と何度も何度も甘やかした。


それでも、彼女はやめなかった。


いつしか、両親の良いとこどりをしたパールは大層美しい娘になり、社交界では『夜の天使』と名高い程となった。縁談の申し込みが殺到し、処理しきれなくなって婚約者を決めないことにしたのが記憶に新しい。
何より、パールは努力した分だけ、美しく、知性的で品性のある淑女となった。

いつしか彼女には『ファンクラブ』というものができ、本人の淡泊だが心優しい性格も相まってますます人気は高まった。
まさに、高嶺の花状態である。





ーーーそんな優秀で、令嬢の中でも容姿も要領も家柄もピカイチな彼女が、隣国の特別留学生として選ばれるのは、何ら不思議なことではなかった。
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