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婚約破棄編

第2話・呼ばないでぇ!不敬罪はいやあ!

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「浮気ですわ!そもそも、王族と子爵令嬢が婚約なんて、ありえませんわっ」
「私はエミリアを愛しているのだ!」

エミリアは、顔を真っ青にするしかできず、その美貌も相まって小動物のようでーーと、そんなことはどうだっていいのだが、ついにエミリアが呼ばれた。
突然アルベルトがエミリアの方を向き、大きな声でこう言ったのだ。

「エミリア、来てくれ!君からも何か言ってやれ!」

エミリアは、肩をびくつかせた後、恐る恐るアルベルトの元へ向かった。
内心ではふざけんなこのばかおうじが、と口汚く罵りながら、表面上はビクビクしながら近づく。

王族に対する礼をした後、スカーレット公爵令嬢に対しても礼をしようとしたら必要ないと言われたが、構わず礼をした。
嫌がらせされた相手に、王族に止められても礼をするとはなかなか神経の図太い女である。まあ、虫や小動物の死骸を靴箱に入れられても動じず、それどころか美少年と呼ばれる部類の顔であるカイベルにもらったバラや、机に置かれた明らかに悪意の塊である葬花を供えて埋める程度には鋼の心を持った少女である。

「あの、殿下。私、殿下とお話した覚えがございませんわ。なぜ、婚約者になど…。」
「そんなの、愛の前には関係ない。」

周りの貴族達は、その発言に眉を寄せた。
なるほど、愚息とまで王に言われたアルベルトは、どうやら勝手に子爵令嬢に惚れ、勝手に婚約破棄をしようとしていたのだと理解した。伊達に貴族社会で生きていない。察する能力は人一倍に高いのが、貴族と言うものなのだ。

「そもそも、お前はエミリアに嫌がらせをしていただろう!なぜだ!」

咎めるようにアルベルトはスカーレットを見た。
蔑視の意思がこもったその瞳は、唯一の取り柄である容姿も相まって恐ろしいとエミリアは考えた。
さり気なく近寄ってこようとするアルベルトを避けながら、エミリアは確かに何故だろうとスカーレットに視線を寄越す。

「そ、れは…、それはっ、それはっ、その女が悪いのですわ!私の弟に色目を使ってっ!しかも、聖女の生まれ変わり!?それは、私ですわ!!それなのに、その女ばかり!皆、みんなひどいですわ!!」


悲劇のヒロインのように、また、抑えていたものが爆発したようにスカーレットは怒り狂って、嘆いた。
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