ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第六章・炎と水と

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 実際のところ、トリガーが指定した待ち伏せポイントは、バリケードというにはあまりにも貧相なものだった。
 通りを横断するように廃車が並び、そこここから突き出した角材や錆びた鉄骨には脂っぽい艶のある有刺鉄線が巻かれた代物で、ちょっとした衝撃でいまにも崩れてしまいそうだった。

「こんなんで大丈夫なのかよ」バリケードを構成する廃車の一台、パンクした前輪に身を寄せた勇三はため息まじりに呟いた。
「さあな」同じ車の、ホイールがむき出しになった後輪にもたれて座る輝彦が返事をする。「けど、おれたちは遮蔽物としてこれを使うわけじゃない。標的を誘い込むだけならこれでじゅうぶんだろ」
「霧子、おまえはどう思う?」

 ボンネットの上に立つ霧子はといえば、先ほどから腕を目一杯突き出して人差し指をぴんと立て、片目を閉じて通りの奥を見つめ続けていた。

「ああ。でも、やるしかないだろう」どこか我関せずと言った様子で言うと、霧子は勇三の耳に届かないような小声でぶつぶつと呟いていた。「三十メートル……まあ、三割ってとこか」

 それから顔をあげ、少女はボンネットからバリケードの向こう側へと降り立った。

「トリガー、準備完了だ。ナビを頼む」
「了解」霧子の声のあと、勇三が身につけたイヤホンからトリガーの声が聞こえる。「他のふたりも準備はいいか?」
「ああ」
「いつでも大丈夫です」
「対象以外のレギオンの反応も周辺に増えてきた。距離はまだ離れているが、三人とも警戒を怠るなよ。状況開始だ」

 勇三がボンネット越しに覗くと、霧子が肩越しに手を振ってきた。

「じゃあ行ってくる。頼むからわたしを撃つなよ」

 彼女はそう言い残すと、人の気配どころか生命の存在すらも感じさせない<アウターガイア>の奥へと歩を進めていった。深い暗闇のなか、水銀灯の光だけがいやに視界をちらつく。

 この一瞬あとには、咆哮とともにレギオンが飛び出してくるのではないか。
 霧子の姿が見えなくなって十秒と経たないうちから、勇三の脳裏をそんな想像がかすめていった。しかし暗闇はいま、静まりかえっている。この不気味な沈黙が、いったいいつ破られるのか。
 警戒を怠るまいとするいっぽうで、勇三の集中力は途切れ途切れにもなっていた。無意識のうちにボンネットの上で構えたライフルの照準から目を逸らしては、彼は隣にいる輝彦に何度も視線を送っていた。
 当の輝彦はと言えば、トランクの上で同じように武器を構えたまま、彫像のようにぴくりとも動かなかった。

「油断するなよ、勇三」

 不意にこちらを見ずに輝彦がそう口を開いたので、勇三は思わず飛びあがりそうになった。

「この方向で撃っていいのは、霧子さんが危なくなったときだけだ。それもできるかぎり標的を引き付けてな。そうしないと霧子さんに当たるかもしれないし、敵に逃げられるかもしれない」
「わかってるよ。あいつが連れてきた獲物がここを飛び越えるまで撃つなってことだろ」

 注意力が散漫になっていたことを密かに内省したあと、勇三はふたたび照準を覗き込んだ。
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