ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第五章・雨。その帳の向こう

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   Ⅳ


 午前八時五分。

「都内のオフィス街で発生した爆破事件から五年が経つのを前に、警視庁ではチラシなどを配って、情報提供を広く呼びかけました。犯人の女は一時逮捕されたものの、二年前に収監中の警察病院から脱走。警視庁は捜査本部を立ち上げ、いまなお女の行方を追っています。逃走中の女の氏名は――」

 勇三がテレビを切ると、こぎれいな身なりの男性は画面の中から消えた。ただでさえこの天気なのだ。朝っぱらからそんな物騒な話題を耳にはしたくなかった。

 学ランの袖に腕を通しながら、流し台の窓から覗く薄暗い空を見つめる。
 いったい、この雨はいつまで降り続けるのだろう。たまった洗濯物はコインランドリーに持っていけばひとまず片付くものの、どうしてもシワが目立ってしまう。ひとり暮らしをするまでは気づかなかったことだ。日頃からこまめにアイロンをかけてくれた叔母に対して、いまさらながら大きなありがたみを感じる。

 勇三は深いため息をついた。<アウターガイア>や<グレイヴァー>関連のことが原因ではなかった。あらためて霧子たちと協力し合うことを決心したあとは、これらのことに関してある程度踏ん切りもついていた。

 それに悪い面ばかりではない。
 先日レギオン相手に繰り広げたバイクでの逃走劇で稼いだ報酬には、目玉が飛び出る思いだった。この傭兵稼業は、登録制のアルバイトとは比べ物にならないくらいの金が手に入る。勇三はそのことをあらためて実感していた。
 これまでバイト代ではまかないきれず、叔父母からの仕送りに手をつけてしまったたびに味わっていた後ろめたさから解放されることは、勇三にとって非常にありがたいことだった。もちろん、トリガーたちから不意の呼び出しがあるのと、いっさいの油断が許されない事。そしてなにより、命の保障が無いということに目をつぶればの話だが。

 非日常の問題にひとまず解決の目処がついてしまったこと。逆説的だが、勇三の気分を重くさせていた原因はそれだった。

 これまで次々と目の前にあらわれた危機や重圧にひとたび馴れてしまうと、かえって周囲を取り巻く安寧や平穏に身体が拒否反応を示しているように感じてしまったのだ。全力で走り続けていたような日々が落ち着きを取り戻したあと、彼のもとにやってきたのは不安や焦りだった。

 学校で勉強をする時間があるのなら、よほどトリガーの訓練を受けたかった。
 訓練はやりがいがあったし、そこで積み重ねられた自信は死と恐怖に立ち向かう勇気を与えてくれる。
 射撃、格闘術はもちろんのこと、装備の名称、用途、使用方法。戦術の考察やフォーメーションの形勢、ハンドシグナルでの意思疎通まで。

 本人のやる気も大きく関わっているのだろうが、勇三はスポンジが水を吸い込むように、トリガーから教わる知識と技術を吸収していった。戦闘に対して高まる野蛮な期待の存在自体も否定できなかったが、それ以上になにかを覚え、身につけていくことに充実感をおぼえていた。
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