ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ

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   Ⅰ


 高岡陽一は正面に向き直ると、本題に入る前に緩めたネクタイの隙間からシャツのボタンをひとつはずした。
<特務管轄課>の人間が着るスーツは権威的であると同時に威圧的だ。非正規の傭兵、ましてや脛に傷ある相手には、文字通り胸襟を開いたほうが望ましい。とはいえ、お互いの立場を考えれば効果のほどはたかが知れてはいるが。

 正直なところ、高岡は<グレイヴァー>という化け物退治を生業とした集団をよく思ってはいなかった。
 ごく一部、尊敬できる人物もいるが基本的に彼らは金とスリルを求めてこの世界に足を踏み入れた、規律も協調性もない犯罪者と紙一重のような集団だ。
 いま目の前の椅子に腰掛けている<グレイヴァー>たちも、そんな彼の嫌う荒くれ者ばかりだった。

「VF―134……ナーガ級だ。今回はこいつの討伐にあたってもらう」

 端末を操作するとプロジェクターの画面が切り替わり、スクリーンに岩石の塊のような怪物の姿が映し出された。
<アウターガイア>の入り口にあたる白い廊下に並ぶ一室、そこに集まった連中がどよめいたのはその異様な姿を見てか、それともその等級が示す報酬額に色めいてか。

 本来<特課>の人間が「ナーガ級」という呼び方をすることはないが、<グレイヴァー>相手にブリーフィングをおこなうときとなれば話は別だった。これは服を着崩すのとも違う、彼らに彼らの流儀で脅威を示すためだった。

「これまでに確認された個体の平均体長は十メートル、体高が八メートル、重量は推定十トン。今回もそれに近似したサイズだ。全身が硬い外殻で覆われており、最高時速七十キロほどのスピードで移動する。ここまででなにか質問は?」

 座席の最後尾に陣取っていた男が手をあげた。周囲に取り巻きを従えているところから、<グレイヴァー>のなかではちょっとした存在なのだろう。その顔にはこめかみから口の横にかけてえぐられたような深い古傷がはしっている。
 高岡が発言を促すと、男は椅子に浅く腰かけてふんぞり返った姿勢のまま言った。

「そいつをおれたちだけで仕留めろっていうのか? 冗談じゃねえぜ、それともシャーマン戦車で特攻でもかけろっていうのかよ?」笑みを浮かべた拍子に、男の傷痕がねじれる。
「こちらが援助できるのはハンヴィー三台だけだ」高岡は皮肉に対してそう答えた。

 周囲から失笑が漏れ出す。こんな怪獣まがいの敵を相手に、じゅうぶんな援助も期待できないと知らされれば無理もない。おまけに軍用車両を使う際には貸し出し料も発生するのだ。これではさすがの傭兵稼業でも二の足を踏むだろう。

「おいおい……」傷のある男が言う。「あんたらお役人の頭の中には脳みその代わりに犬のクソでも詰まってんのか?」
「おまえたちみたいになにも詰まってないよりマシだろう」

 この挑発に取り巻きのひとりが立ち上がる。

「まあ話は最後まで聞いてくれないか」と、高岡。「別に我々もこいつと正面からぶつかれとは言わないさ。こいつを殺すのはこちらで請け負う。あんたらに頼みたいのはそのための誘導だ」

 高岡はふたたび端末を操作した。スクリーンの画像がレギオンの姿から、真上から撮影した碁盤の目のように走る街路図へと切り替わる。

「まずはこの作戦に至った経緯を説明しよう……一週間前、我々<特務管轄課>はVF-134が<セントラル・タワー>の探知網に接触したことを確認、これを脅威と認定して撃破にあたった。戦闘により対象を当該作戦範囲である旧市街地に追い込んだ」高岡がスクリーンをしめす。「だがその戦闘によって一個小隊が壊滅、十八人が犠牲となった。事態の重さを鑑みた我々は南側の路地を爆破により封鎖、同時に北側に攻撃ポイントを設置した。つまり対象をこの一帯に包囲したわけだ」

 高岡の説明に合わせてスクリーンの画像が変化する。
 はじめにレギオンを閉じ込めた旧市街の範囲が薄赤の網目状のレイヤーで覆われ、南側と北側にさらに濃い赤でバツ印が描かれた。それからバツ印同士を結ぶように、太い線が南の封鎖ポイントから伸びていく。線は北上しながら最初の突き当りを東に折れると、短い距離を進んだあとふたたび北方面へと曲がり、もうひとつの封鎖ポイントと繋がった。
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