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第一章・墓標を立てる者
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同時に、後頭部に硬いなにかが押しつけられる。
「動くな」
少女の声に全身が粟立つ。まるで氷のように冷たい声からは、一切の感情が排されていた。
「いまお前の頭に銃を向けている」
「よせ!」腕を軋ませる苦痛をはねのけるように勇三は言った。「ふざけてるのか。いいからまずその手を放して――」
耳を聾するような破裂音によって声はさえぎられた。
目の前に積まれていた土嚢袋にふたつの穴が空き、中から乾いた砂が軌跡を描いて床に散らばる。勇三はその光景を食い入るように見つめ、痺れる耳で砂のたてる涼やかな音を聞いた。
「さきに忠告しておく」すっかり血の気の引いた勇三の耳元で少女が囁く。「おかしな真似はするな。いまのわたしの引き金は驚くほど軽いぞ」
毛が逆立ったうなじに、ふたたびあのぴりつくような感覚がよみがえっていた。ただし今度は針ではなく、杭を打たれるような痛みを伴っていた。
そのとき、組み伏せられた床から全身を伝うかすかな振動を感じた。
振動が小さなものから徐々に大きくなってゆくにつれ、なにかが駆動するような音が空間全体を満たしていく。
そしてなにかが外れるような決定的な音とともに、勇三はゲートで閉じられた部屋が降下していくのを感じた。
(ああ、そうか)勇三は思った。(あの看板には確か「昇降機ゲート」と書かれてたっけ)
周囲で起きていることを見ようと、勇三が顔の向きを変える。
「おまえ……」
そう呟いたかと思うと、少女は弾かれるように勇三の背中から身を起こし、ゲートの方へとって返した。彼女はゲート横の操作盤のボタンを何度も押したが、昇降機は止まるどころかスピードをあげてさらに地下深くへと潜っていった。
「止めろ!」ボタンを諦めた少女がゲートを叩き、天井を仰ぎながら叫ぶ。「くそ! 見えないのか? 部外者が乗ってるんだ!」
彼女の様子を、解放された勇三は身を起こしながら見守った。
いったいなにが身のまわりで起こっているのか想像もつかなかったが、事態がよくない方向へ進んでいるのだけはわかった。
内部での緊迫をよそに、昇降機は轟音をともなってさらに落ちていく。
立ち上がった勇三は、少女のいる側とは反対に目を向けた。
暗がりの中、闇が下から上へ疾走しているのが見える。
おもむろに近づいてみると、壁だとばかり思っていたのはただの金網で、菱形の網目から外を見ることができるようになっていた。
いまや轟音は、銃声による耳鳴りすら気にならないほどの大きさになっており、背後でゲートを殴りつけながら悪態をつく少女の声さえも耳に届かなかった。
そうしたなか、勇三は魅せられたように闇の奥に視線を注いでいた。
やがて極限までに達した大音量が忽然と消え、金網越しの景色が一気に開かれた。
「動くな」
少女の声に全身が粟立つ。まるで氷のように冷たい声からは、一切の感情が排されていた。
「いまお前の頭に銃を向けている」
「よせ!」腕を軋ませる苦痛をはねのけるように勇三は言った。「ふざけてるのか。いいからまずその手を放して――」
耳を聾するような破裂音によって声はさえぎられた。
目の前に積まれていた土嚢袋にふたつの穴が空き、中から乾いた砂が軌跡を描いて床に散らばる。勇三はその光景を食い入るように見つめ、痺れる耳で砂のたてる涼やかな音を聞いた。
「さきに忠告しておく」すっかり血の気の引いた勇三の耳元で少女が囁く。「おかしな真似はするな。いまのわたしの引き金は驚くほど軽いぞ」
毛が逆立ったうなじに、ふたたびあのぴりつくような感覚がよみがえっていた。ただし今度は針ではなく、杭を打たれるような痛みを伴っていた。
そのとき、組み伏せられた床から全身を伝うかすかな振動を感じた。
振動が小さなものから徐々に大きくなってゆくにつれ、なにかが駆動するような音が空間全体を満たしていく。
そしてなにかが外れるような決定的な音とともに、勇三はゲートで閉じられた部屋が降下していくのを感じた。
(ああ、そうか)勇三は思った。(あの看板には確か「昇降機ゲート」と書かれてたっけ)
周囲で起きていることを見ようと、勇三が顔の向きを変える。
「おまえ……」
そう呟いたかと思うと、少女は弾かれるように勇三の背中から身を起こし、ゲートの方へとって返した。彼女はゲート横の操作盤のボタンを何度も押したが、昇降機は止まるどころかスピードをあげてさらに地下深くへと潜っていった。
「止めろ!」ボタンを諦めた少女がゲートを叩き、天井を仰ぎながら叫ぶ。「くそ! 見えないのか? 部外者が乗ってるんだ!」
彼女の様子を、解放された勇三は身を起こしながら見守った。
いったいなにが身のまわりで起こっているのか想像もつかなかったが、事態がよくない方向へ進んでいるのだけはわかった。
内部での緊迫をよそに、昇降機は轟音をともなってさらに落ちていく。
立ち上がった勇三は、少女のいる側とは反対に目を向けた。
暗がりの中、闇が下から上へ疾走しているのが見える。
おもむろに近づいてみると、壁だとばかり思っていたのはただの金網で、菱形の網目から外を見ることができるようになっていた。
いまや轟音は、銃声による耳鳴りすら気にならないほどの大きさになっており、背後でゲートを殴りつけながら悪態をつく少女の声さえも耳に届かなかった。
そうしたなか、勇三は魅せられたように闇の奥に視線を注いでいた。
やがて極限までに達した大音量が忽然と消え、金網越しの景色が一気に開かれた。
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