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■フェーズ:018『正義の気孔師、荒神 陣のカルテ』
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Title:『正義の気孔師、荒神 陣のカルテ』
「あの……ここに来たら、
楽になれるってテレビで見たんですけど」
「ああ、昨日のアノマチック天国だね。
じゃあ、すぐに邪気を浄化するから
椅子に座ってもらってもいい?」
「はい……お願いします。
もう何ヶ月も酷い頭痛に悩まされていて……」
「大丈夫、3分で楽になれるよ」
俺の名は荒神 陣、気孔師だ。
普段は診察室で予約診療を行っているんだが、
時折り街に出ては、医者に見離された人達の悩みを聞き、
体と心を蝕む邪気を無料で取り除いている。
「先生の手が触れたところが……すごくあついです」
「首の付け根が、頭痛の原因になっていた邪気の棲み処なんだ。
どうやらキミは、悪い気や邪気の影響を受けやすい、
エンパス体質のようだね」
「エンパス……?」
「周囲の気や感情のエネルギーに当てられやすく、
邪気を受けやすい体質のことだよ。
あまり知られていないけど、
日本人では5人に1人くらいが、
このエンパスに苦しめられている」
そう――そして、浄化されなかった邪気は、
やがて悪意や殺意へと変貌し、
凶悪な犯罪を生み出す芽となる。
「テレビで見ました……。
先生の助手をしていた妹さんが、
負の感情に飲まれた人に襲われたって……」
「ははっ、テレビってのは怖いね。
でも……その通りだよ。
だから俺は邪気を取り除くんだ。
……また誰かが涙を流さないで済むように」
俺は小さく笑って、彼女の華奢な首から手を離した。
すると、先程まで沈んだ表情をしていた彼女の瞳に、
驚きと感激の色が広がり始めた。
「先生、頭痛が治まりました!
それに……体が嘘みたいに軽いです!」
「邪気が取り除かれたからだよ。
これでもう、キミは大丈夫。
笑って楽しく過ごすんだ。
そうすれば、邪気は寄って来ないから」
「ありがとうございます……先生」
今にも泣きそうな彼女の肩を叩き送り出す。
瞬間、俺は全身を駆け巡るような激痛に襲われ、
その場にへたり込んでしまった。
「くぅっ……昨日から10人連続で吸い取ったから、
そろそろ限界のようだな」
周囲の気や感情のエネルギーに当てられやすく、
邪気を受けやすい体質。
自身もエンパスである俺は、
自分の性質と気孔を利用して、
邪気を吸い集めている。
だが、俺には邪気に飲まれない術があった。
「そろそろ、ディジェスションするか……」
そう、それは集めた邪気を掌から解放して、
一気に浄化するという方法だった。
俺は痛みに抗いながら空に手をかざし、
呻きと共にドス黒く揺らめく、
靄のような物体を放った。
「よし……これでまた戦える。
さぁ、次の患者は……」
汗を拭い立ち上がる。
その時、繁華街の向こうから、
身の毛がよだつような大勢の人々の悲鳴が、
幾重にも重なりあって聞こえ――。
続いて激しい衝突音が響いた。
「な、なんだ今のは!?
事故でも起きたのか?」
眉根を寄せ通りの先を見据える。
すると、「逃げろ! 車が暴走してるぞ!」という声や、
「無差別殺人だ!」という声が周囲を埋め尽くした。
「またか……また邪気が人をおかしくさせたのか!」
腸が煮えくり返りそうな程の怒りが、
腹の底から沸き上がる。
俺はギリギリと拳を握り、叫んだ。
「邪気め、妹を奪っただけじゃまだ足りないのか!
くそっ! 俺は必ずお前を滅ぼすぞ!
ひとりでも多くの患者から邪気を吸い取り、
いずれ必ず邪気のない世界を作ってみせる!」
俺の名は荒神 陣、気孔師だ。
今日も街角で邪気を吸い、願う。
心蝕まれしまだ見ぬキミが、
いつか笑顔に戻れることを。
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Title:『正義の気孔師、荒神 陣のカルテ』
「あの……ここに来たら、
楽になれるってテレビで見たんですけど」
「ああ、昨日のアノマチック天国だね。
じゃあ、すぐに邪気を浄化するから
椅子に座ってもらってもいい?」
「はい……お願いします。
もう何ヶ月も酷い頭痛に悩まされていて……」
「大丈夫、3分で楽になれるよ」
俺の名は荒神 陣、気孔師だ。
普段は診察室で予約診療を行っているんだが、
時折り街に出ては、医者に見離された人達の悩みを聞き、
体と心を蝕む邪気を無料で取り除いている。
「先生の手が触れたところが……すごくあついです」
「首の付け根が、頭痛の原因になっていた邪気の棲み処なんだ。
どうやらキミは、悪い気や邪気の影響を受けやすい、
エンパス体質のようだね」
「エンパス……?」
「周囲の気や感情のエネルギーに当てられやすく、
邪気を受けやすい体質のことだよ。
あまり知られていないけど、
日本人では5人に1人くらいが、
このエンパスに苦しめられている」
そう――そして、浄化されなかった邪気は、
やがて悪意や殺意へと変貌し、
凶悪な犯罪を生み出す芽となる。
「テレビで見ました……。
先生の助手をしていた妹さんが、
負の感情に飲まれた人に襲われたって……」
「ははっ、テレビってのは怖いね。
でも……その通りだよ。
だから俺は邪気を取り除くんだ。
……また誰かが涙を流さないで済むように」
俺は小さく笑って、彼女の華奢な首から手を離した。
すると、先程まで沈んだ表情をしていた彼女の瞳に、
驚きと感激の色が広がり始めた。
「先生、頭痛が治まりました!
それに……体が嘘みたいに軽いです!」
「邪気が取り除かれたからだよ。
これでもう、キミは大丈夫。
笑って楽しく過ごすんだ。
そうすれば、邪気は寄って来ないから」
「ありがとうございます……先生」
今にも泣きそうな彼女の肩を叩き送り出す。
瞬間、俺は全身を駆け巡るような激痛に襲われ、
その場にへたり込んでしまった。
「くぅっ……昨日から10人連続で吸い取ったから、
そろそろ限界のようだな」
周囲の気や感情のエネルギーに当てられやすく、
邪気を受けやすい体質。
自身もエンパスである俺は、
自分の性質と気孔を利用して、
邪気を吸い集めている。
だが、俺には邪気に飲まれない術があった。
「そろそろ、ディジェスションするか……」
そう、それは集めた邪気を掌から解放して、
一気に浄化するという方法だった。
俺は痛みに抗いながら空に手をかざし、
呻きと共にドス黒く揺らめく、
靄のような物体を放った。
「よし……これでまた戦える。
さぁ、次の患者は……」
汗を拭い立ち上がる。
その時、繁華街の向こうから、
身の毛がよだつような大勢の人々の悲鳴が、
幾重にも重なりあって聞こえ――。
続いて激しい衝突音が響いた。
「な、なんだ今のは!?
事故でも起きたのか?」
眉根を寄せ通りの先を見据える。
すると、「逃げろ! 車が暴走してるぞ!」という声や、
「無差別殺人だ!」という声が周囲を埋め尽くした。
「またか……また邪気が人をおかしくさせたのか!」
腸が煮えくり返りそうな程の怒りが、
腹の底から沸き上がる。
俺はギリギリと拳を握り、叫んだ。
「邪気め、妹を奪っただけじゃまだ足りないのか!
くそっ! 俺は必ずお前を滅ぼすぞ!
ひとりでも多くの患者から邪気を吸い取り、
いずれ必ず邪気のない世界を作ってみせる!」
俺の名は荒神 陣、気孔師だ。
今日も街角で邪気を吸い、願う。
心蝕まれしまだ見ぬキミが、
いつか笑顔に戻れることを。
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