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オレンジは嫌い

ヒーロー様の憂鬱

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 生前と言っていいのだろうか?

 俺は単なる消防士で、それもオレンジの制服を着るまでになったというのに、数年前の東京大火の際に全てのキャリアを失った。

 炎に巻かれて次々と瓦礫と化していく世界に、その破壊を行った五匹の怪人が夜空を舞っている。
 立ち昇る炎に纏いつく五匹の蛾。
 速水御舟の炎舞そのままの光景に、俺は世界が壊れた絶望よりも、美しいとその怪人たちが飛び交う様を眺めてしまっていた。

 それも仕方が無いだろう。

 俺の足は崩れて来たビルの破片で打ち砕かれ、防火服だって炎の熱で溶けだしているという地獄に取り残されているからだ。

 俺は無意識に空に向かって手を差し伸べた。
 俺はその時何になりたかったか?
 東京を破壊した怪人を打ち砕くヒーローか?
 いいや、俺も空を飛びたかった。
 それだけだ。

「らいこう!雷光!緊急事態よ!直ぐに学校にいらっしゃって!」

 襟元についている通信機器が、聞き覚えのある声をがなり立てた。

「あなたが来なくても大丈夫なんだからね、で、お願いします。」

「いい加減になさいな!」

 俺は転寝していた木の幹から地面へと舞い降りた。

「来なくても大丈夫って言わないと。君の殺処分命令が出たら、それを実行するのは俺なんだからさ。」

 俺は子供達が騒ぎながら逃げまどっている校庭を見つめた。
 すると、茶色で大きな着ぐるみ怪人は急に立ち止まり、くんと何かを嗅いだ素振りをすると、なんと、俺に向かって来た?
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