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新生活となるお屋敷で私は君臨する
子供を訪ねて三千里
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さて、家庭を掌握した女が次にすべきことは、夫の大事な子供の奪還であるだろう。
私は驚いた。
衛の子供が朝食の席に無いのは子供だからという理由かと思ったが、彼がこの家に住んでいないという理由だったからだ。
「では、今日からあの子も、ええと、藤吾さまも一緒に、ですわよね?」
「あ、あの。君の子でもないのだし、あの、君がこの生活に落ち着くまでは子供は別のところにいた方が良いと、あの。」
ばしん!
私は衛の書き物机を叩いていた。
「標準語でその程度の内容しかないのでいらっしゃるなら、あなたのお国の言葉であなたの本心を語って下さいな。」
彼は呆気にとられたようにして私を見返し、そして私が好む良き声で大きく笑った。
「本当てなんち天女のよなお方なんだ。」
天女のような方という言葉は、私の耳にはっきり聞こえた。
私は素晴らしい褒め言葉、というか、彼が私をそうみていたのだと、こそばゆく嬉しく感じるばかりである。
「では、藤吾を迎えに行きますか?」
「行っまいでか。」
私達は簡単に身支度し、そして、十数分後には藤吾の預けられていた先の、こじんまりとした家の前に立っていた。
「藤吾はおれの大事な妹の子らっけに、誰がそんな子んごともわからん女に渡すかね!」
衛様の前妻の姉ということだ。
渋々だが私達を屋内に招き入れたその家主は、外が見渡せる部屋に私達を通したが、それは藤吾の姿を衛に見せるためだけのようだった。
「ほら、うちであんなに元気にしてんだ。おれの子供みたいに思ってんだ。それをもういいですから引き取りますって、なんだってんだよ。」
ここは今後の親戚づきあいも兼ねて甥っ子思いの彼女を立てて引くべきかもしれないが、だがしかし、私は彼女の子供達と藤吾を見比べて、絶対に藤吾を連れて帰ると決めたのである。
どうして養育費を渡している家での養育であるのに、あの藤吾は従姉達と違って下働きの子供みたいな恰好をしているの!
「藤吾はやんちゃ盛りな子供らっけに!あんたはそんな男ん子を育てられっか?きれいなべべ着せても、すぐにぼろ布に変えちまう、そんな子供を?」
木に登ったり、虫を取ったり、ああ確かに、私が幼い子供の時はそんな事ばかりしていたな、と思い出した。
久々に亡くなった両親の事を思い出したからか、私の両眼から涙が零れ、その上、その涙を抑えるためにと唾を呑み込んだために、嗚咽まで出たのだ。
ぐす。
「りまどの!ああ!あの、姉上様。藤吾を心配してくるっ気持はよくわかいもす。じゃっどん、妻じゃっちここまで心を砕いてくるっ良き女なとです。」
二人の言葉遣いで前妻と衛の出身地が違うと私はわかっていたからか、前妻の姉が黙り込んだのは衛の言葉に絆されたからではないと分かった。
私を庇ってくれたのは嬉しいですけれど、言葉が通じていないと思いますわよ!
「と、とにかく!おれはいやらっけに。藤吾をそっちに持ってかれたら、おれっちだって喰ってかんねぇねっかね!」
「くってかんねえねっかね?姉上様?」
私はこのやり取りに我慢できずに、畳にそのまま突っ伏した!
あなた方標準語で喋りましょうよ!
お互いに意思の疎通ができてなかったじゃないの!
そんな私の頭に小さくてべとっとした温かい手が乗った。
体ごと来たので少し重く、少しおしっこの匂いがした。
子供独特の匂いのある温かくもしっとりした体が私を包んだのである。
まるで泣いている私を守るかのように。
「おれ、俺、母ちゃんと帰るから泣かないで?」
私の両眼から本気の涙が噴き出した。
この子は何て優しい子なんだろう!
「藤吾!絶対に私が守るからね!うちに帰りますわよ!」
私は小さな体を抱き締めると、桐生家に仕込まれた躾など放り出し、とにかく一目散に家に帰るんだと駆け出していた。
背中には衛の馬鹿笑いが大きく響いていたが、私にしがみ付いて大泣きしている子供は絶対に加藤家に連れ帰らねばならない。
※先に言っとく時代考証:この時代に標準語という言葉も概念もまだ無いです。
私は驚いた。
衛の子供が朝食の席に無いのは子供だからという理由かと思ったが、彼がこの家に住んでいないという理由だったからだ。
「では、今日からあの子も、ええと、藤吾さまも一緒に、ですわよね?」
「あ、あの。君の子でもないのだし、あの、君がこの生活に落ち着くまでは子供は別のところにいた方が良いと、あの。」
ばしん!
私は衛の書き物机を叩いていた。
「標準語でその程度の内容しかないのでいらっしゃるなら、あなたのお国の言葉であなたの本心を語って下さいな。」
彼は呆気にとられたようにして私を見返し、そして私が好む良き声で大きく笑った。
「本当てなんち天女のよなお方なんだ。」
天女のような方という言葉は、私の耳にはっきり聞こえた。
私は素晴らしい褒め言葉、というか、彼が私をそうみていたのだと、こそばゆく嬉しく感じるばかりである。
「では、藤吾を迎えに行きますか?」
「行っまいでか。」
私達は簡単に身支度し、そして、十数分後には藤吾の預けられていた先の、こじんまりとした家の前に立っていた。
「藤吾はおれの大事な妹の子らっけに、誰がそんな子んごともわからん女に渡すかね!」
衛様の前妻の姉ということだ。
渋々だが私達を屋内に招き入れたその家主は、外が見渡せる部屋に私達を通したが、それは藤吾の姿を衛に見せるためだけのようだった。
「ほら、うちであんなに元気にしてんだ。おれの子供みたいに思ってんだ。それをもういいですから引き取りますって、なんだってんだよ。」
ここは今後の親戚づきあいも兼ねて甥っ子思いの彼女を立てて引くべきかもしれないが、だがしかし、私は彼女の子供達と藤吾を見比べて、絶対に藤吾を連れて帰ると決めたのである。
どうして養育費を渡している家での養育であるのに、あの藤吾は従姉達と違って下働きの子供みたいな恰好をしているの!
「藤吾はやんちゃ盛りな子供らっけに!あんたはそんな男ん子を育てられっか?きれいなべべ着せても、すぐにぼろ布に変えちまう、そんな子供を?」
木に登ったり、虫を取ったり、ああ確かに、私が幼い子供の時はそんな事ばかりしていたな、と思い出した。
久々に亡くなった両親の事を思い出したからか、私の両眼から涙が零れ、その上、その涙を抑えるためにと唾を呑み込んだために、嗚咽まで出たのだ。
ぐす。
「りまどの!ああ!あの、姉上様。藤吾を心配してくるっ気持はよくわかいもす。じゃっどん、妻じゃっちここまで心を砕いてくるっ良き女なとです。」
二人の言葉遣いで前妻と衛の出身地が違うと私はわかっていたからか、前妻の姉が黙り込んだのは衛の言葉に絆されたからではないと分かった。
私を庇ってくれたのは嬉しいですけれど、言葉が通じていないと思いますわよ!
「と、とにかく!おれはいやらっけに。藤吾をそっちに持ってかれたら、おれっちだって喰ってかんねぇねっかね!」
「くってかんねえねっかね?姉上様?」
私はこのやり取りに我慢できずに、畳にそのまま突っ伏した!
あなた方標準語で喋りましょうよ!
お互いに意思の疎通ができてなかったじゃないの!
そんな私の頭に小さくてべとっとした温かい手が乗った。
体ごと来たので少し重く、少しおしっこの匂いがした。
子供独特の匂いのある温かくもしっとりした体が私を包んだのである。
まるで泣いている私を守るかのように。
「おれ、俺、母ちゃんと帰るから泣かないで?」
私の両眼から本気の涙が噴き出した。
この子は何て優しい子なんだろう!
「藤吾!絶対に私が守るからね!うちに帰りますわよ!」
私は小さな体を抱き締めると、桐生家に仕込まれた躾など放り出し、とにかく一目散に家に帰るんだと駆け出していた。
背中には衛の馬鹿笑いが大きく響いていたが、私にしがみ付いて大泣きしている子供は絶対に加藤家に連れ帰らねばならない。
※先に言っとく時代考証:この時代に標準語という言葉も概念もまだ無いです。
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