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第3話

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ミラの家に向かって道沿いに数分歩いていると赤いレンガ組みの家が見えてきた。
そばには今か今かと収穫を待ちわびている真っ赤に色づいたトマトの畑もある。
間違いないミラの家だ。

「さてっと‥ミラはどこにいるかしら‥ってあら?」

ドドドドド‥と砂埃を巻き上げながら何かがこちらに向かってくる。
どうやら探す手間が省けたようね。

「‥さ‥ま」

走っている音にかき消され何を話しているのかよく聞こえない。
けれど大方想像はつくわね。

そしてだんだん砂埃が近くなってきて声が鮮明に聞こえ始めた。

「アリシアお姉さま~!!」

私の名前を呼ぶこの声は間違いなくミラのものだ。ある程度の距離まで近づいたミラはぴょんと飛び私に向かって飛びついてきた。
飛んできたミラの片手を優しく引きくるくると私自身の体を回転させて衝撃を流しながらキャッチする。

「久しぶりねミラ?」

「お姉様会いたかったです~!!半年と12日ぶりですよ~!!」

「相変わらずのようね安心したわ。それと‥いい加減そのお姉様っていうのやめない?」

物心つき始めたころからミラは私のことをお姉様と呼ぶようになっていた。
誕生日もミラの方が先なのにね‥

「えっ?だってお姉様はお姉様じゃないですか?」

キョトンとした表情を浮かべるミラ‥
あ‥ダメだわこれ話が通じないやつね。

「ま、まぁいいわ‥あぁ!!そうそう、トマトありがとね?今朝料理して食べたけれどとっても美味しかったわよ?」

「食べていただけたんですね!?えへへぇ~♪お姉様のお腹に私の育てたトマトが‥幸せを感じます~」

ミラが私のお腹に顔を当てて自分の世界に入ってしまった。
こうなるとしばらく戻ってこないのよね‥

ミラは幸福なことがあるとしばらくこのように自分の世界に入り浸ってしまう。
昔からずっとこのような感じだ‥
子供っぽくてかわいいのだけれどね。

しばらくミラの頭を撫でているとどうやら正気に戻ったらしい。

「ハッ!?わ、私また‥」

「いいのよ、別に嫌じゃないわ。」

男に抱きつかれる訳じゃないし、それに私もミラの頭を撫でるのが好きだから別に嫌な気持ちにはならない。
むしろ1日ずっとこうしてても良いぐらい。

「は、はぅ~‥そ、そんなに見つめながら言われたら恥ずかしいです‥」

ミラは真っ赤になった顔を両手で覆い隠しうつむいたしまった。
こういうところも可愛いのよね
ちょっとからかってみようかしら

「あら?トマトみたいに顔が真っ赤になっちゃったわね?」

「ひゃわ!?だ、ダメですお姉様!!は‥恥ずかしいです」

グイっとミラが自身の顔を覆っていた手をこちらに引き寄せた。
するとミラの真っ赤になった顔が間近に迫った

「はわ‥はわわ‥きゅぅ」

「あっ‥ちょっとやりすぎちゃったかしら」

あまりに恥ずかしかったのかミラはかわいい声をあげて気絶してしまった。
このままにしておくのはかわいそうなので近くの木でできた長椅子の上にそっと寝かせた。

「ミラ‥あなたは変わらないわね。聖職の儀を受けてジョブに就いても昔のまま‥私もそうなりたいんだけれどね」

ミラは平民で私は貴族‥まず身分が違う。
それゆえに私は行動がとても縛られる。
日常生活もさることながら、ジョブを与えられた後は悲惨だろう。
やりたくもないことをやらされるに違いない。

「こんなに縛られるなら私も平民に生まれたかったわ‥」

今さら無理な話ではあるけれど‥
でも家名を剥奪されれば私も平民の身分になれるわね。
まだ希望は捨てちゃダメね、今夜の聖職の儀‥そこで私の運命が決まるわ
狙うは遊び人‥一択ね。
上級職以上になってしまった瞬間私の人生に自由の二文字はなくなってしまうだろう。
その時は‥

「お姉様?」

「あら?もう起きたの?」

考え事をしているうちにミラが目覚めた。

「さっきはゴメンね?あんまりかわいかったからついついからかっちゃった。」

「い、いえ‥私のことはいいんですけど‥お姉様何かすごい悩んでません?さっきのお姉様すごい困ったような顔してましたよ?」

あちゃ~見られちゃってたか‥
ミラの前ではなるべく悩んでる姿とか弱気な姿は見せないようにしていたのだけれどね

「心配しなくても大丈夫よ?ちょっとしたことだから」

私がそう言うとミラはジ~っと私の瞳をのぞき込んできた。

「お姉様‥知ってます?」

「な、なにを?」

「お姉様って普段はきれいな赤い瞳じゃないですか?でも‥嘘をついてるとき若干黒く濁るんですよ?」

そ、そうなの!?
それは知らなかったわ‥

「そ、そうなの?」

「そうなんですよ~?私たちが子供のころからずっとなんです。」

「でもどうやってそれがわかったの?」

「えっ?そりゃあわかりますよ~だって私お姉様のこと大好きですもん♪」

答えになってるようで答えになってないわね‥
大好きといわれて悪い気持ちにはならないけど、まさかミラが私のそんなところまで見ているとは思わなかったわ。

「ふふっ‥そうじゃあミラにはこれから嘘はつけないわね。」

「そうですよ~?ですから私には隠し事なんてしないでくださいね?」

「わかったわ」

見抜かれてしまうのであれば嘘なんかついても無駄ね

「それで‥なにで悩んでたんですか?」

「あぁ~‥私って今日聖職の儀なのはわかってると思うんだけど」

「はいもちろんです!!とっても楽しみにしてました!!お姉様なら絶対最上級職に就けますよ!!あ~でも未発見のEXジョブにもなれるかもしれませんよ!?」

「変に思われるかもしれないけれど‥私遊び人になりたいの」

意外にも私のその言葉にミラはたいして驚いていないようだった。

「やっぱりお姉様らしいですね‥実は薄々気付いてました。そういうんじゃないかな~って」

「変だって思わないの?」

「変だなんて‥むしろ私はお姉様らしいと思いますけどね?お姉様の家がとっても厳しい家なのは私も知っていますし、何よりお姉様は縛られるのが嫌いですもんね。お姉様のお父様は許さないかもしれないですけど‥私はお姉様が幸せになれるジョブを授かってもらえればそれでいいんです♪」

「‥‥」

ミラのその優しさに思わず黙ってしまった。

「‥ふふっ、あ~あなんか私がバカみたいね。こんなちっぽけなことで悩んでたなんてね」

パンッと両手で自分の顔を叩き以前の考えを払拭する。
私は私‥自分のやりたいようにやるわ。

「あっお姉様‥今瞳が輝いてます!!」

「そう?元気が出たからかしらね、ミラのおかげよ?ありがとね」

「えへへぇ~♪お姉様の力になれてミラは幸せです♪」

「私を元気づけてくれたご褒美に‥頭‥なでなでしてあげるわ。ほら‥ここに頭を乗せなさい」

膝枕したミラの頭に手を置いてゆっくり撫でる。
サラサラの髪の毛の感触が気持ちいい。

「はふぅ~♪何回やってもらっても気持ちがいいです~」

「ホントこれ好きよね‥」

「お姉様にもやってあげましょうか?」

「うぅん私はいいわ。私はミラがこうやって気持ちよさそうにしてる顔を見るのが好きなの。」

こうして私はしばらくミラのことを撫で続けた。
聖職の儀の時間は刻一刻と近づいている。
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