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最終章 誰の手に……

第199話

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「な、なぁノア?どこに向かってるんだ?」

 どこかへと向かいピッピのことを飛び立たせたノアに私は問いかける。

「えへへ、実はミノルさんを連れていきたい場所があるんです。」

「連れていきたい場所?」

「はいっ!!私もアベルに教えてもらったんですけど……すっごく綺麗な場所なんですよ?」

「ほぉ…………。」

 綺麗な場所……か。今思えば、買い物に行くにしろ何にしろ決まったところにしか行ってなかったな。観光目的とかで外に出ることはなかった気がする。
 だから少しワクワクするな。

 せっかく平和になったんだし、今度この国を巡り歩いてみたりするのもいいな。

 そんなことを思っていると後ろに乗っていたノアが前の方を指差した。

「あっ!!見えてきましたよ。」

 その指の先には色とりどりの花が咲き乱れる美しい場所があった。

「こんな場所があったんだな。」

「綺麗ですよねっ、近くで見るともっとすごいんですよ?ピッピちゃんお願いね。」

 徐々にピッピが高度を下げ始め、実際にその地に降り立ってみると、見渡す限り花の絨毯が敷かれていた。とても幻想的な光景だ。

 そしてノアと二人で花畑の中を歩いていると、突然目の前で花弁がぶわりと舞い上がり、ある人物が姿を現した。

「ばぁっ!!」

「うおっ!?」

「あははっ!!驚いてるね~。」

「あ、アベル!?何でここが……。」

 腹を抱えて笑っているアベルに私は問いかけた。

「ふっふっふ~……ノアの気配を探ったの。そしたらノアがこっちの方に向かって飛んでるのがわかったからさ、先回りしたんだ。」

 得意気にアベルが語っていると、突然私達のいた場所に影が降りた。

「見つけたのじゃ~っ!!」

「お師様~っ!!」

 上を見上げると、空からカミルとノノが私へと向かって飛び降りて来ていた。
 
「くっ……せっかくミノルさんと二人で抜け出せたと思ったのにっ!!」

 悔しそうな顔を浮かべるノア。

「あはっ♪君達が最初ボクに言ったんだよ?抜け駆けはダメだってさ~。」

 そんなノアにアベルは悪魔的な笑みを浮かべた。四人が揃うと、彼女達はバチバチと火花を散らし始めた。

 これもここ最近毎日のように見る、いつもの光景だ。

 にしても……こうして横になってると、すごい眠気が襲ってくるな。花も綺麗だし……いい香りでいっぱいだし…………。ここで目を瞑ったら凄く気持ちよく寝られそうな気がする。

「くふふ……こんな茶番も今日で終わりにするのじゃ!!妾達の中で誰を選ぶのか……今こそミノル本人に選んでもら…………おん?」

「……ありゃりゃ、気持ち良さそうに寝ちゃってるや。」

「そういえば最近ミノルさん寝不足みたいでしたもんね……。」

「あぅ~……これじゃお師様に決めてもらえないです。」

 彼女達が言い争っている間に、ミノルは安らかな寝息を立てていた。

「……どうやら妾達は、まだまだこやつの事を振り向かせることができておらんようじゃな。」

「悔しいけど、そうみたいだね。」

「……私達のミノルさんへの配慮が足りてなかったのかもしれません。」

「あぅ~……で、でもでもノノはいつか絶対にお師様にお嫁さんにしてもらうですっ!!」

 ミノルが未だに振り向いてくれていなかったことに彼女達は一様に、悔しそうな表情を浮かべるが……ミノルの寝顔を見ると彼女が達に笑顔が戻った。

「くふふ、こうしてよくよく見ると……なかなか愛い寝顔じゃな。」

「んね~?ほっぺ突っついても起きないかな?」

「だ、ダメだよアベル!!せっかく気持ち良さそうに寝てるんだから、そっとしとかないと……。」

「でもノノちゃんはもう一緒に寝ちゃってるよ?」

「ふえっ!?」

 慌ててミノルの方を振り返るとミノルの傍らでノノが寝息を立てていた。

「ノノも疲れておったのじゃろう。誰よりも早起きじゃったからのぉ~。」

「そうかもね~。じゃあボクもちょっとお邪魔しよっかな~♪」

「あっ!!ズルい!!」

「むぅ……妾の場所がないのじゃ。……かくなる上は…………むん!!」

 カミルは龍の姿へと戻ると、そっとミノル達の事を抱き上げお腹の上へと乗せた。

「むっふっふ、これならば場所に困らん。さ~て妾も寝るとしようかのぉ~。」













「うふふっ♪いいわね~甘酸っぱいわぁ~。」

 花畑のなかで眠りについたミノル達の姿を上から眺めるレラは、にやけながら呟いた。

「私も混ざってこようかしら~?」

「ダメに決まっているだろう!!」

「あいたっ!?」

 コツンとレラの頭の上にセレーネの拳が当てられる。

「我らはこれから姉様の元へと帰るのだ!!寄り道はせぬ。」

「え~?ちょっとぐらい、いいじゃないセレーネお姉様。」

「ダメなものはダメだ!!ほら帰るぞ!!」

「うぁ~~~っ!!せっかく純愛が見られそうだったのに~っ!!」

 そしてレラはセレーネに引きずられ、天界へと戻っていく。人間界と天界を隔てる壁を越えると、そこではエルザが二人のことを待っていた。

「ふ……ふふふ、やっと帰ってきたわね。」

「「!?!?」」

 怒り心頭といった表情を浮かべるエルザに、レラとセレーネは一気に表情が青ざめる。

「お、おかしいのだ……あの人間は姉様は怒っていないと言っていたのだ。」

「ふふふっ……怒ってないわ。ただ、怒ってるだけよ。」

 怒気のオーラがどんどん濃くなるエルザにレラとセレーネは縮こまる。

「さぁ……もちろんお仕置きの覚悟はできてるでしょうね?」

「「ぴぅっ!?」」

 ボキボキと指を鳴らすエルザの姿にレラとセレーネはお互いを抱き抱え震え上がる。

「あ、姉様お、落ち着いてほしいのだ!!」

「そ、そうですよ~エルザお姉様~……あ、あは、あはは……。」

「問答無用っ!!」

 ゴヅンッ!! 

「あぐぅっ!!」

「いた~~~いっ!!」

 問答無用でエルザは二人の女神の頭に拳骨を振り下ろした。その威力は凄まじかったようで、二人の頭にはとてもとても大きなたんこぶが出来上がってしまう。

「ぐぐぐっ……数百年経っても姉様の拳は健在なのだぁ~……。」

「ぐすっ……寧ろ前より痛いかも~……。」

 たんこぶを抱えてうずくまる二人。

 エルザはそんな二人に近づくと、打ってかわって優しく彼女達のことを抱き締めた。

「あ、姉……様?」

「エルザお姉様……。」

「心配したんだから……この馬鹿っ!!」

 ひとしきり二人のことを抱き締めると、エルザは微笑みながら二人に言った。

「さ、帰るわよ。」

「は、はいなのだ!!」

「はいお姉様っ。」

 そして自分達がもといた空間へと戻る途中……エルザは下界を見下ろしながら言った。

「ありがとね。」

 彼女の視線の先には、幸せそうに眠るミノル達の姿があった。


ー完ー
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