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第三章 魔族と人間と
第197話
しおりを挟む「彼女達は君のことを取り合っているんだよ?」
「はっ!?」
アルマスの言葉に私は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。それほど信じられない出来事だったのだ。
「アベル達が……私を?」
「ま、事実は彼女達の口から直接聞くといいさ。僕が話すことじゃないしね。……それじゃあ、まぁ頑張りたまえよ平和の立て役者殿?」
「あっ!!ちょっ…………。」
クスクスと笑いながらアルマスはその場を後にしていった。そしてこの場には私と……アベル達が取り残されてしまう。
「どっ……どうすればいいんだ?」
一触即発の雰囲気の四人を前にして、いったいどうすれば良いのかわからずにおどおどしていた時……私はある言葉を思い出した。
「いつかあなたのせいで破滅が訪れちゃうかもよ?」
そう、頭をよぎったのは愛の女神のレラの言葉だった。まさか……あの時からレラはこの事を予期していたのか!?
だんだんと彼女の言葉が頭の中で繋がっていくのを感じ、背筋に悪寒が走る。
「あはっ、じゃあ……誰がミノルに相応しいか勝負する?」
そうアベルが提案すると……。
「望むところですっ!!ノノはぜ~ったい負けません!!」
「よかろうなのじゃ。」
「私もそれで構いません。」
今まで言い争っていた皆も、その案に賛成する。
「じゃあ、決定ね。」
納得のいく返事を聞いたアベルは、クルリと身を翻し私の方を向くと、にこやかに笑いながら言った。
「それじゃあミノル。そういうことだから……ちゃんとボクのこと見ててよね?」
それだけ告げるとアベルは会場へと戻っていく。呆気にとられていると、今度はカミル達も私の方に歩み寄ってきた。
「お師様!!ノノは絶対に負けませんから!!」
「おうおう、生意気に吠えるのぉノノや。ミノル、誰がお主の主人であるか……しかと思い知らせてやるからの。」
「わ、私のこともちゃんと見ててくださいね!!絶対ですよ?」
三人はそれだけ述べると、アベル同様に会場へと戻っていった。
そしてバルコニーに一人取り残された私は、これから起こるであろう出来事に頭を抱えた。
「………………。」
いったいこれからどうすればいいんだ!?ってかどうなるんだ!?
アベルは、誰が相応しいか勝負する……と言っていたが、ま……まさか殴りあったりなんて…………。
いや、まさかな。ノノがいるし、流石にそんな血生臭いことにはならないはず。それにせっかく平和を勝ち取ったんだし……。
「うん、うん……あり得ない。」
だとしたら何で勝負をするんだ?
「………………。」
考えれば考えるほど、深い泥沼に嵌まるようにわからなくなっていく。
一人夜風に当たりながら頭を抱えていると……。
「あらあら~、やっぱり大変なことになったわね~。」
突然隣から聞き覚えのある声が聞こえた。声のした方に視線を向けると、そこには愛の女神……レラの姿があった。
「……あの時からわかってたのか?」
「もちろん、だって私愛の気配には敏感だもの~。あなたみたいに、ど~んか~んじゃないわ。うふふっ♪」
クスクスといたずらに微笑みながら彼女は言った。
「それで?あなたは誰を選ぶの?」
「えっ?」
「だ~か~ら~、魔王ちゃんと勇者ちゃん、後は獣人の女の子と龍の女の子……あの子達の中から誰を選ぶの?」
レラの問いかけに私は答えることができなかった。
「………………。」
「うふふっ♪恋に初心な様子を見るのはいつになってもいいものね。」
「他人事だと思ってるな?」
「だって他人事だもの~?」
にこやかな笑顔で他人事だと切り捨てるレラ。ホントに女神か?女神なら助けてほしいものだがな!!
「愛の女神ってなら少しぐらい助言をくれてもいいんじゃないか?」
「あら、痛いところを突いてくるわね~。そう言われると、流石に何か授けないといけなくなっちゃうのよね~。」
笑顔から一転、少し困ったような表情を浮かべるレラ。
少し皮肉めいたことを言った甲斐あって、どうやら何か助言をくれる気になったらしい。
「そうね~、今のあなたに言葉を授けるとしたら……好きって意味を理解しなさい。ってことぐらいかしら?」
「好きを理解しろ?」
「そう、あの子達の気持ちに気がつくのも大事だけど~あなたはそれよりもそっちのが大事だわ。」
「つ、つまり……どういう………………。」
「…………!!あら大変、セレーネお姉様が私の気配を嗅ぎ付けたみたい。それじゃ面倒に巻き込まれる前に私は消えるわ。うふふっ♪」
「あっ!!ちょっと、まっ…………。」
私が呼び止める前にレラは姿を消してしまう。その数秒後……レラの気配を感じ取ったセレーネが入れ替わるように姿を現した。
「おい人間!!レラの気配を感じたぞ、あいつはどこに行った!?」
「い、今さっきいなくなったぞ?」
「くっ……相変わらず勘のいいやつだ。……いいか人間、次にレラが現れたらすぐに我に伝えるのだ!!」
セレーネはそれだけ言い残すとすぐに姿を消した。
「…………結局私はどうすればいいんだ?」
一人取り残された私は、レラが言い残した言葉の意味を必死に考えるのだった。
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