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第三章 魔族と人間と

第196話

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「ふぅ……これで最後っと。」

 私はアベルの城の厨房で最後の料理を仕上げ終えた。

「これも持ってってくれ。」

「かしこまりました。」

 給仕服に身を包んだノアのホムンクルスに、最後の料理を持っていってもらう。

「さて、私も会場に行くか。」

 調理服を脱いでインベントリにしまい、私も祝勝会の会場に向かう。魔王城の構造は複雑だが、ノアのホムンクルスについていけばなんの問題もない。

 そして会場の扉をくぐると……中には見知った顔がたくさんあった。今回実際に作戦に参加したアベルやノア、カミル達はもちろんのこと、同盟国の長であるジュンコやアルマス達もいた。

「あ、お師様!!お疲れ様ですっ!!」

 私が中に入ると、こちらに気が付いたノノが飛び付いてきた。それに続きカミル達もこちらにやって来た。

「ご苦労じゃったの、ミノル。」

「前線で戦ってたカミル達ほど苦労はしてないさ。」

 王国騎士達と実際に戦っていたカミル達に比べれば……私の苦労なんて苦労のうちに入らない。
 そんな会話をしていると、後ろの扉が閉まりアベルが壇上に立って話し始めた。

「あ~……えっと、ひとまず皆お疲れ様。皆のおかげで今日遂に、人間と魔族との永い争いが終わったよ。それを祝って……今日は羽目を外して宴を楽しんでほしいな。」

 少し緊張しながら壇上で話すアベル。

「えっと~……それで最後に一言だけ。多分……ボクだけの力じゃここまで辿り着けなかった…………本当に皆ありがとう!!」

 アベルの言葉に会場にいた皆が拍手を送る。

「さっ!!堅苦しい話はおしま~い!!早く食べよ食べよ~。」

 そして、全種族間の平和を祝う祝勝会が今幕を開けた。













「今日はどこもかしこもお祭り騒ぎなんだろうな。」

 会場に設置されているバルコニーから外を眺めながら、私はポツリと溢した。

「あはっ♪当たり前だよ~。」

「ん?」

 後ろを振り返ると、そこにはアベルがいた。

「良いのか?今日の主役だろ?」

「いいのいいの~、別に主役とか関係ないし~。ミノルこそこんなとこで一人で何してるのさ?」

 アベルは私の隣まで歩いてくると、そう問いかけてきた。

「他の街でもお祭り騒ぎなのかと思ってな。ここからなら見えるかと思ったんだが……。」

「あ~、そういうこと。でも霧のせいで見えないでしょ?」

「あぁ。」

 魔王城の周りには深い霧がかかっている。そのため近くにある街を眺めることすらできなかった。

「っと、さて……そろそろ中に戻るか。外の様子も見えないことだしな。」

 そして中に戻ろうとした時……。

「あ、待って!!」

 突然アベルに手をとられ、引き留められた。

「あ、あのさ……ボク言ったよね?全部終わったら……話したいことがあるって。」

「あぁ、そうだな。」

 確かノノと険悪な雰囲気になっていたときに言っていたな。

「そ、その事なんだけど……さ。」

「約束だからな。何でも聞くぞ?」

「あ、う、うん……えっと……その…………。」

 聞くぞ……と言ったのはいいものの、なかなかアベルがそれを口に出そうとしない。
 さっきから顔を赤くしてモジモジしてるばかりだ。

「今話しづらいことか?それならまた後でゆっくり聞くが……。」

「あ、いっ……今じゃなきゃダメっ!!」

 そう強く主張したアベルの気迫に私は少し気圧されてしまう。

「そ、そうなのか?」

「うん。」

 アベルは一つ大きく頷くと、大きく深呼吸を何度かした。そして……。

「ボク、どうしてもミノルに伝えたいことがあるんだ。」

「あぁ。」

「あ、あの……ぼ、ボクね……ミノルの事………………。」

 アベルが遂に意を決して、私に何かを告白しようとしていたそのときだった……。

「「「ちょっと待ったーーーっ!!」」」

「「!?」」

 突然後ろから大きな声が聞こえ、振り返ってみるとそこには、カミルとノノ、そしてノアの三人がいた。

「の、ノアにカミルに……ノノ?」

 私が戸惑っていると、三人はアベルのもとに歩み寄る。

「アベルさん、抜け駆けは良くないですっ!!」

「げっ……ノノちゃんにノアにカミル。」

 三人の登場にアベルの表情が一気に強張る。

「ノノちゃんの言うとおりです!!」

「ミノルの事は、いくら魔王様といえど妾を介してもらわねば困るのじゃ。」

「うっ……。」

 い、いったい何がどうなってるってんだ??

 目の前でアベル達が言い争っている現状を理解できずにいると……。

「ふふっ、平和の立て役者は大変だね。」

「アルマス?」

 クスリと微笑みながらアルマスがこちらに歩いてきた。

「君も鈍感すぎるからね。少しは彼女達の気持ちに気がついてあげてもいいんじゃないかな?」

「と、というと?」

 次にアルマスが口にした言葉に私は思わず耳を疑うこととなった。

「アベル達は君のことを取り合っている……ってことにさ。」

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