189 / 200
第三章 魔族と人間と
第188話
しおりを挟む「まず第一にツガイ……というのはじゃな。雌の龍の伴侶となる者のことじゃ。」
カミルはポツポツとツガイというものについて話し始める。
「普通であれば……同じ種族同士で子を成すのじゃが。妾のような位の高い龍になると少しそれが変わってくるのじゃ。」
「ふむ。」
「昔からのしきたりで……強い力を持つ龍は後世に優秀な子を残さねばならん。じゃから普通は自分よりも強い龍とツガイとなるのが一般的じゃ。」
なるほど?つまるところ、カミルは今……自分よりも強い龍を探している……ということなのか?
カミルの説明を聞きながら、そう予想していると。
「しかし……じゃ、あいにく現世には妾よりも強い雄の龍などは居らん。」
「アスラはどうなんだ?」
アスラだったら三龍の中に入ってるトップクラスに強い龍のはずなんだが……。
「……あやつはあぁ見えて雌なんじゃぞ?」
「…………!?」
いやいやいや……待てよ?だって……人の姿に化けたら完全にムキムキのおっさ…………ゴホン、筋肉質な男性だったぞ?
「前……人に化けてる姿を見たんだが、あれは……」
「あの姿はアスラ曰く自分が人の形になった時の理想の姿……らしいぞ?詳しいことは妾も知らんが……。」
開いた口が塞がらないというのは正にこの事だろう。アスラがまさかの雌である……という事実と共に、私はカミルが言わんとする事を少し理解できたような気がした。
「……それじゃあつまり、今の三龍の中ではカミルのツガイとなるに相応しい雄がいない……と?」
「ん、まぁつまりそういうことじゃ。」
ふむふむ、なるほどな。ようやくわかった。……だが待てよ?このツガイってものの話と、私はいったいなんの関係がある?
私は龍ではないし……。いや、待てよ?カミルとヴェルの血を取り込んでいるから龍に近い存在になってるのか?
……それでもカミルやヴェルには全く力で敵わないし、カミルがさっき言っていたことを聞くに私にもツガイとなる資格は無いはずなんだがな。
「それで……私とツガイにはいったいどんな関係がある?」
「言ったじゃろ?妾達のような龍は優秀な子を成さねばならん……と。」
カミルは湯船から立ち上がると、私の目の前に歩いてきて座り、じっと私の目を覗き込みながら言った。
「……ミノル、妾のツガイになれ。」
「………!?」
カミルの言葉に私は思わず耳を疑った。
「妾はお主ほど優秀な者を見たことはない。きっと……お主と妾の子であれば強く優秀な龍になろう。それに…………。」
少しずつ私の方に近寄ってきたカミル。そして私が少しでも動けば、唇が触れてしまうような距離まで彼女は近寄ってきた。
「妾はお主の事が好きじゃ。好きで……好きで……好きすぎて、絶対に手放しとうない。じゃから、妾とツガイになって……生涯付き添ってはくれぬか?」
「………………。」
「のぉ、どうじゃ?…………む?ミノル?」
答えが返ってこないミノルの様子に違和感を覚えたカミルは、よ~く彼の顔を観察してみた。
彼の顔は真っ赤に染まり、目の焦点が合っていない。
実はこの時……カミルの気持ちに反応した炎の力がお湯の温度を沸騰直前まで上げていた。
それによってミノルは完全に逆上せてしまっていたのである。
「み、ミノルや!?だ、大丈夫かの!?」
カミルは急いでミノルのことを抱き抱え、湯船から引き上げた。
「あわわわ……ど、どうすればよいのじゃ~!?」
ミノルの一大事にカミルはあわてふためく。しかし、ミノルの顔を見た彼女は冷静さを取り戻した。
「……慌ててどうするのじゃ!!このバカ者!!」
パチン!!と両手で自分の頬をはたき、カミルは冷静に対処し始めた。
手をミノルの額に当てると、明らかに平均的な体温を超えていることがわかった。
「……体温が高い。これが逆上せる……というものの原因じゃな。ならば体を冷やして体温を戻してやれば良い。」
カミルは走って浴室を後にすると、冷たい水をたっぷりと吸わせた布を何枚も持ってきた。
そしてそれをミノルの額に乗せる。
すると、彼の表情が少し和らいだ。
「あとはこれで様子見……かのぉ。」
ミノルの頭を固い床ではなく、自身の膝の上に乗せた。そして意識の無い彼に語り始める。
「ミノル。お主がどこまで話を聞けていたかはわからぬが……これから先も妾のこの気持ちが変わることはない。妾以外の誰にもお主は渡さん。」
常温に戻った布を新しい物に取り替えながら続ける。
「たとえ……魔王様や勇者がお主を欲したとしても、必ず……必ずお主を手に入れてみせる。」
意識の無い彼に語りかけながら、カミルは彼の介抱を続けたのだった。
0
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説
異世界転移料理人は、錬金術師カピバラとスローライフを送りたい。
山いい奈
ファンタジー
このお話は、異世界に転移してしまった料理人の青年と、錬金術師仔カピバラのほのぼのスローライフです。
主人公浅葱のお料理で村人を喜ばせ、優しく癒します。
職場の人間関係に悩み、社にお参りに行った料理人の天田浅葱。
パワーをもらおうと御神木に触れた途端、ブラックアウトする。
気付いたら見知らぬ部屋で寝かされていた。
そこは異世界だったのだ。
その家に住まうのは、錬金術師の女性師匠と仔カピバラ弟子。
弟子は独立しようとしており、とある事情で浅葱と一緒に暮らす事になる。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~
Takachiho
ファンタジー
*本編完結済み。不定期で番外編や後日談を更新しています。
中学生の羽月仁(はづきじん)は勇者として異世界に召喚され、大切なものたちを守れないまま元の世界に送還された。送還後、夢での出来事だったかのように思い出が薄れていく中、自らの無力さと、召喚者である王女にもらった指輪だけが残った。
3年後、高校生になった仁は、お気に入りのアニメのヒロインを演じた人気女子高生声優アーティスト、佐山玲奈(さやまれな)のニューシングル発売記念握手会に参加した。仁の手が玲奈に握られたとき、玲奈の足元を中心に魔法陣が広がり、2人は異世界に召喚されてしまう。
かつて勇者として召喚された少年は、再び同じ世界に召喚された。新たな勇者・玲奈の奴隷として――
*この作品は小説家になろうでも掲載しています。
*2017/08/10 サブタイトルを付けました。内容に変更はありません。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる