73 / 200
第一章 龍の料理人
第72話
しおりを挟む
ノノと共に風呂から上がり、カミル達が待っている場所へと帰ってくると、ひくひくと鼻をひくつかせながらマームがノノのもとへと歩み寄ってきた。
「すんすん……すんすん……。」
「あう?」
「……ノノから蜜の匂いがする。何か隠れて食べた?」
「風呂上がりに蜂蜜牛乳を飲んだだけだ。マームも飲んだだろ?」
「そういうこと……隠れて何か食べたのかと思った。」
私の説明に納得すると、マームは再びもといた席に着いた。
「にしても、良く匂いを嗅ぎ付けたな?」
「いっつも集めてる花の匂いがノノからした。だからわかった。」
「なるほどな。」
それにしたって、ほんの僅かしかしないはずの花の香りを敏感に感じとるマームの嗅覚は異常だ。
苦笑いを浮かべながら私が席につくと、私の隣にちょこんとノノが座った。
「で……水浴びして整理はついたかの?」
座った私にカミルが問いかけてきた。
「ん~、まぁある程度は……な。」
「そうか、なら良い。して、お主が水浴びに行っておる間ヴェルと少し話し合っておったのじゃが……お主が人間だと露呈してしまった原因はあの精霊だと思うのじゃ。」
「あいつミノルが人間だってわかってたみたいだしね。まず間違いないんじゃないかしら?」
どうやらカミル達は私が風呂に入っている間に、そのことについて話し合ってくれていたみたいだ。
「あぁ、私も湯に浸かっている間それを考えていたが……それが一番濃厚だろうな。」
「あのチビすけ、妾達に救ってもらった恩を仇で返すとは……。次会ったときにはキツイ仕置きが必要じゃな。」
ギリリ……と歯を食い縛るカミルの周りにはうっすらと炎が浮かんでいる。
「ま、まぁまぁ……多分シルフだって悪気はなかったと思うぞ?それにほら、こうしてエルフの国に入れるようになったんだし……なっ?」
カミルの怒りを沈めるように、私は言った。カミルの周りに炎が出ているということは、多少なりとも怒りを覚えている証拠だ。
「……まぁ良い。」
ポツリとカミルが呟くと、辺りを漂っていた炎が消えてなくなった。どうやら怒りを納めてくれたらしい。
「エルフの国に行けば、あの国でしか買えぬ物もあろう。それを使えば……ミノルの料理の幅も広がるじゃろうし、何も悪いことだけではないか。」
「あぁ、きっとな。」
私が求めているものがあれば一番だが……それがなくても、何かしら料理の幅を広げてくれるようなものはきっとあるはずだ。
「私エルフの国に行くのは初めてね~。」
「お?ヴェルは行ったことがないか。」
「逆にカミルは行ったことあるの?」
「あるに決まっておろう。先代のエルフの王とは何度か話したことがあるぞ?……というか、お主が外に出てないだけなのじゃ。」
「最近出てるじゃない?ほらミノルの買い物にも付き添ったりしてるわよ?」
カミルの言葉にヴェルはそう反論する。まぁ確かに最近は結構私達に着いてきているから外に出ているのかもしれない。まぁ、私は出会う以前のヴェルがどんな生活を送っていたか知らないからそう感じているのだろうが……。
「確かにな、昔よりは外に出ておるかもしれん。」
「でしょ~?昔は太陽の光すら嫌だったのにね~。」
あはは~っと笑いながら昔の自分のことを話すヴェル。
太陽の光が嫌……ってよっぽど外に出るのが嫌いだったんだな。ヴェルの知られざる過去に耳を傾けていると、隣に座っていたノノが私に頭を預けてきた。
「ん?」
いったい何事か……とノノの方に目を向けると、ノノはいつの間にか安らかに寝息をたて始めていた。
「よっぽど疲れてたんだな。」
奴隷からも解放されて、更には今日いろんな事を経験したからな。子供にはなかなか疲れる一日だったのだろう。
「よい……しょっと!」
私はノノの事を優しく抱き抱え、立ち上がる。
「む?そっちの獣人の娘はもう寝てしまったのか?」
「あぁ、今日は色々あったからな。疲れちゃったんだろ。私はこのままノノを空き部屋に運んでくるよ。」
「うむ、好きな部屋を使うと良い。」
私はノノの事を抱えてその場を後にした。
「ノノの部屋はどうするか……一応私の部屋と近い方がいいよな。」
そうなると私の隣の部屋か、正面の部屋か……二択になる。
「一つ隣の部屋で良いか。」
私は、自分の寝室の隣の部屋の扉に手を伸ばし、押し開く。そしてノノ一人では余りあるほど大きなベッドの上に彼女を寝かせ、上から毛布をかけた。
「これで良し。今日はぐっすり寝てしっかり休むんだぞ?」
すやすやと安らかに寝息をたてるノノの頭を撫でながら、語りかけるように私は言った。
そして彼女を起こさないように、静かに部屋を後にした。廊下に出て、ふと外を見ると段々暗くなってきているのが目についた。
「……外が暗くなってきたな。」
最近心なしか少し暗くなるのが早い気がするな。朝も少し冷え込むようになってきたし……冬でも近いのか?
「てかまず、こっちの世界に四季ってあるのか?」
まずそこからわからない。戻ったらカミル達に聞いてみるか。
そしてノノを寝かしつけた私はカミル達のもとへと戻り、この世界のことについて色々と聞いている内に、あっという間に一日が過ぎていくのだった。
「すんすん……すんすん……。」
「あう?」
「……ノノから蜜の匂いがする。何か隠れて食べた?」
「風呂上がりに蜂蜜牛乳を飲んだだけだ。マームも飲んだだろ?」
「そういうこと……隠れて何か食べたのかと思った。」
私の説明に納得すると、マームは再びもといた席に着いた。
「にしても、良く匂いを嗅ぎ付けたな?」
「いっつも集めてる花の匂いがノノからした。だからわかった。」
「なるほどな。」
それにしたって、ほんの僅かしかしないはずの花の香りを敏感に感じとるマームの嗅覚は異常だ。
苦笑いを浮かべながら私が席につくと、私の隣にちょこんとノノが座った。
「で……水浴びして整理はついたかの?」
座った私にカミルが問いかけてきた。
「ん~、まぁある程度は……な。」
「そうか、なら良い。して、お主が水浴びに行っておる間ヴェルと少し話し合っておったのじゃが……お主が人間だと露呈してしまった原因はあの精霊だと思うのじゃ。」
「あいつミノルが人間だってわかってたみたいだしね。まず間違いないんじゃないかしら?」
どうやらカミル達は私が風呂に入っている間に、そのことについて話し合ってくれていたみたいだ。
「あぁ、私も湯に浸かっている間それを考えていたが……それが一番濃厚だろうな。」
「あのチビすけ、妾達に救ってもらった恩を仇で返すとは……。次会ったときにはキツイ仕置きが必要じゃな。」
ギリリ……と歯を食い縛るカミルの周りにはうっすらと炎が浮かんでいる。
「ま、まぁまぁ……多分シルフだって悪気はなかったと思うぞ?それにほら、こうしてエルフの国に入れるようになったんだし……なっ?」
カミルの怒りを沈めるように、私は言った。カミルの周りに炎が出ているということは、多少なりとも怒りを覚えている証拠だ。
「……まぁ良い。」
ポツリとカミルが呟くと、辺りを漂っていた炎が消えてなくなった。どうやら怒りを納めてくれたらしい。
「エルフの国に行けば、あの国でしか買えぬ物もあろう。それを使えば……ミノルの料理の幅も広がるじゃろうし、何も悪いことだけではないか。」
「あぁ、きっとな。」
私が求めているものがあれば一番だが……それがなくても、何かしら料理の幅を広げてくれるようなものはきっとあるはずだ。
「私エルフの国に行くのは初めてね~。」
「お?ヴェルは行ったことがないか。」
「逆にカミルは行ったことあるの?」
「あるに決まっておろう。先代のエルフの王とは何度か話したことがあるぞ?……というか、お主が外に出てないだけなのじゃ。」
「最近出てるじゃない?ほらミノルの買い物にも付き添ったりしてるわよ?」
カミルの言葉にヴェルはそう反論する。まぁ確かに最近は結構私達に着いてきているから外に出ているのかもしれない。まぁ、私は出会う以前のヴェルがどんな生活を送っていたか知らないからそう感じているのだろうが……。
「確かにな、昔よりは外に出ておるかもしれん。」
「でしょ~?昔は太陽の光すら嫌だったのにね~。」
あはは~っと笑いながら昔の自分のことを話すヴェル。
太陽の光が嫌……ってよっぽど外に出るのが嫌いだったんだな。ヴェルの知られざる過去に耳を傾けていると、隣に座っていたノノが私に頭を預けてきた。
「ん?」
いったい何事か……とノノの方に目を向けると、ノノはいつの間にか安らかに寝息をたて始めていた。
「よっぽど疲れてたんだな。」
奴隷からも解放されて、更には今日いろんな事を経験したからな。子供にはなかなか疲れる一日だったのだろう。
「よい……しょっと!」
私はノノの事を優しく抱き抱え、立ち上がる。
「む?そっちの獣人の娘はもう寝てしまったのか?」
「あぁ、今日は色々あったからな。疲れちゃったんだろ。私はこのままノノを空き部屋に運んでくるよ。」
「うむ、好きな部屋を使うと良い。」
私はノノの事を抱えてその場を後にした。
「ノノの部屋はどうするか……一応私の部屋と近い方がいいよな。」
そうなると私の隣の部屋か、正面の部屋か……二択になる。
「一つ隣の部屋で良いか。」
私は、自分の寝室の隣の部屋の扉に手を伸ばし、押し開く。そしてノノ一人では余りあるほど大きなベッドの上に彼女を寝かせ、上から毛布をかけた。
「これで良し。今日はぐっすり寝てしっかり休むんだぞ?」
すやすやと安らかに寝息をたてるノノの頭を撫でながら、語りかけるように私は言った。
そして彼女を起こさないように、静かに部屋を後にした。廊下に出て、ふと外を見ると段々暗くなってきているのが目についた。
「……外が暗くなってきたな。」
最近心なしか少し暗くなるのが早い気がするな。朝も少し冷え込むようになってきたし……冬でも近いのか?
「てかまず、こっちの世界に四季ってあるのか?」
まずそこからわからない。戻ったらカミル達に聞いてみるか。
そしてノノを寝かしつけた私はカミル達のもとへと戻り、この世界のことについて色々と聞いている内に、あっという間に一日が過ぎていくのだった。
0
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説
異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ
真義あさひ
ファンタジー
俺、会社員の御米田ユウキは、ライバルに社内コンペの優勝も彼女も奪われ人生に絶望した。
夕焼けの歩道橋の上から道路に飛び降りかけたとき、田舎のばあちゃんからスマホに電話が入る。
「ユキちゃん? たまには帰(けぇ)ってこい?」
久しぶりに聞いたばあちゃんの優しい声に泣きそうになった。思えばもう何年田舎に帰ってなかったか……
それから会社を辞めて田舎の村役場のバイトになった。給料は安いが空気は良いし野菜も米も美味いし温泉もある。そもそも限界集落で無駄使いできる場所も遊ぶ場所もなく住人はご老人ばかり。
「あとは嫁さんさえ見つかればなあ~ここじゃ無理かなあ~」
村営温泉に入って退勤しようとしたとき、ひなびた村を光の魔法陣が包み込み、村はまるごと異世界へと転移した――
🍙🍙🍙🍙🍙🌾♨️🐟
ラノベ好きもラノベを知らないご年配の方々でも楽しめる異世界ものを考えて……なぜ……こうなった……みたいなお話。
※この物語はフィクションです。特に村関係にモデルは一切ありません
※他サイトでも併載中
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?
名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」
「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」
「それは貴様が無能だからだ!」
「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」
「黙れ、とっととここから消えるがいい!」
それは突然の出来事だった。
SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。
そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。
「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」
「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」
「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」
ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。
その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。
「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます
tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中!
※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father
※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中!
※書影など、公開中!
ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。
勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。
スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。
途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。
なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。
その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる